Top Page
2008/01/31
- 「こんな質問いただきました」に「鍼をうつ前の手指の消毒は必要か」を追加しました。鍼灸師の先生からの質問です。
- 「外傷を湿潤治療している医師」に神奈川県川崎市のミオ医院 三尾英之先生にもご参加いただきました。ありがとうございます。
ちなみに,以前,石岡第一病院で働いたことがあるとのことでした。
- 「週刊朝日MOOK 手術数でわかるいい病院2008 全国&地方別ランキング」に『創傷治癒のための湿潤治療 もう傷は消毒しない・乾かさない』が掲載されました。244ページに登場します。
- 「中国産ギョーザ:千葉、兵庫で中毒症状10人 農薬を検出」なんて事件もありました。一家で餃子を食べた後に揃って体調が悪くなったということですし,その餃子から有機リン系殺虫剤「メタミドホス」が検出されたということですから,まず間違いなくこいつが犯人でしょう。これに関して,「<中国産ギョーザ>リスク低い冷凍食品の中毒に衝撃 厚労省」にもあるとおり,この農薬は熱で破壊されて毒性が低くなるため,なぜ加熱調理された餃子に中毒量のメタミドホスが残留していたのかは,依然不明です。
殺虫剤がキャベツなどに残留したとしても,洗浄やら過熱されるので,「わずかなキャベツを含む餃子を食べて中毒」という濃度のメタミドホスが残留していたというのはちょっと考えられない気がする。多分,餃子製造工場で工場内で虫が発生し,餃子製造機に直接殺虫剤を噴霧したのかな?
それはさておき,著作権問題にしても食品の安全性の問題にしても,世界中で中国を甘やかしていませんか? 「12億人の巨大市場だから」という理由で,他の国でこれをやったら世界中から袋叩きだよな,というような不法行為をしているのに,なぜか中国だけは大目に見て見逃しています。なんだか世界中で,「中国はなりは大きくてもまだ発展途上の子供なんだから大目に見てやろうよ」と協定を結んでいるような感じです。要するに,中国だけに少年法を適応しているようなものです。だから中国は,「どうせ俺たちは刑法ではなく少年法だから,いくら悪いことをしても逮捕されることはないんだぜ」と違法行為を改めないんじゃないでしょうか。
でも,もうそろそろ,中国にも大人の法律を適応してもいいんじゃないでしょうか。
「少年法」と言えば,オイルマネーでスポーツのルールまで捻じ曲げちゃうクウェートも「大金持ちの少年」扱いだよね。こちらは産油国限定少年法か。
- 今,政治の世界では「つなぎ法案、与党提出 野党徹底抗戦へ 議長仲裁実らず」について喧々諤々の議論が続いている。この問題に関する与野党の意見を聞いていて,すっぽり抜け落ちているのは,「高速道路を作ることは経済的にペイしているのか」という論点ではないかと思う。道路はもう要らない,いや,地方ではまだまだ不足している,なんて抽象的な議論をするのでなく,しっかりした数字を出して討論すればいいのに,と思う。
というわけで,私の考え。
- 経済学の専門家を集めた審議会を立ち上げる。
- 過去20年間で新たに作られた高速道路について次のことを調べる。
- 高速道路が通った地域では人口が減ったのか,増加したのか。
- 人口の増減があった地域ごとに,変化の原因となったものは何だったのかを明らかにする。
- 高速道路が通った地域で新たに産業が興ったのか。あるいは潰れた産業はなかった。
- 観光客は増えたのか,減ったのか。宿泊客は増えたのか,減ったのか。
- その地域の農業は振興したのか,衰退したのか。
- 建設業などの業界はどうなったのか。
- その上で,高速道路の建設費用と維持費用と,高速道路によるその地域の経済的メリットを比較する。
- ペイする高速道路の条件,ペイしない高速道路の条件を明らかにする。
こういうことを明らかにするのがまず先だろうと思うのだ。そうでなければ,議論を積み重ねても何も決まらないし,そんな議論は単なる時間の無駄である。もちろん,この分析は未来永劫正しいわけではないので,2年ごととか3年ごとに再分析,再評価することは必要になるが,少なくともこれで議論は透明になるし,「この地域の条件では高速道を作ったとしても地域は衰退する可能性が非常に強い」とか,「このくらいの人口と産業形態の地域に高速道路を作れば,20年で元が取れる確率が高い」なんて冷静な議論が可能になるはずだ。
2008/01/30
- ユーザーの立場から,医療行為や薬剤に値段をつけて見てください。
- 健常人なら何もしなくても5日ほどでインフルエンザは治癒します。そのインフルエンザの症状を3日で軽快させる薬剤があったとしたら,あなたならいくらの値段をつけますか。1万円? 5000円? 3000円? 1000円?
- 分層皮膚採皮創は湿潤状態を維持しておけば2週間で上皮化します。それを1週間に短縮する治療薬があったとして,それにあなたはいくら払いますか。3万円? 1万円? 3000円?
- 坐骨結節褥創を筋皮弁で手術し,褥創は一旦治ったが,退院した翌日にドライブしたあと発熱し,3日目に排膿して傷が開き,褥創は再発しました。このような筋皮弁の手術,あなたは値段がいくらなら受けますか? 30万円? 10万円? 1万円? 1000円? ただでもしない?
- 下腿に湯たんぽで低温熱傷になり,通院中です。直径5センチの深い傷になり,保存的治療なら3ヶ月かかりますが入院は必要ありませんし,仕事を休む必要もありません。通院は週1回です。
一方,植皮をすれば2週間で治癒します。しかし,皮膚を採取した部分も傷になり,手術には入院が必要で仕事を休まなければいけません。このような植皮術,値段がいくらならあなたは手術を受けますか? 30万円? 10万円? 1万円? 1000円? ただでもしない?
- 2度熱傷の後は治癒直後は目立ちますが,その後次第に目立たなくなり,治療をしてもしなくても,3年もたつとあまり目立たなくなります。
ある病院では「このクリームを塗ると1年から2年で目立たなくなります」とそのクリームを薦められました。3年を2年に短縮するクリーム,あなたならいくらで買いますか?
- 寝たきりになり褥創ができました。経口摂取もできず,意識もありません。このような状態の患者さんで褥創があっても,褥創が治っても,生命予後にはほとんど差はありません。このような状態での褥創治療に,あなたならいくらの値段をつけますか?
2008/01/29
- 雑誌,「産科と婦人科」2008年2号に投稿論文,『創傷治癒の新しい考え方』が掲載されました。
- エルロイの長編小説を元にして作られたサスペンス映画,《ブラック・ダリア THE BLACK DAHLIA》について。2時間弱の映画で,最初の70~80分はさまざまなエピソードを絡めてゆったりモードで進行し,最後の10分間で事件の真相が唐突に明らかになり,明らかにバランスが悪いです。もしかしたら,3時間映画として撮影が始まったけど,その後諸般の事情で2時間映画になっちゃった,という背景事情があったのかな?
- ネタとしては数日古くなってしまいましたが,「大阪知事に橋下氏 38歳、現職で最年少 民主敗れる」なんてのもありましたね。
応援演説で駆けつけた東国原@宮崎県知事との対比でも語られることが多いが,東国原さんの場合,就任直後に発生した鳥インフルエンザの集団発生という降って沸いたような大事件・難事件への的確な対処が分水嶺だったような気がする。当時,県知事は県議会と対立状態で,県民にもまだ冷ややかな目があったと思う。それだけでも大変なのに,宮崎県の一大産業である地鶏産業を直撃する鳥インフルエンザの大量発生だ。彼がいつ潰れても不思議ない状況だった。
そこで知事は鳥インフルエンザへの対策をとりつつ,タレントとしての武器を最大限に利用してセールスマンに徹して奔走した。結局,鳥インフルエンザが収束したとき,地鶏の売り上げはかえって数倍に増えたはずだ。仮に県知事が東国原さんでなかったらどうなっていただろうか。恐らく,県の特産地鶏の売り上げが元に戻るまで数年を要したのではないかと思う。
橋下さんの場合にも,大阪府知事としての仕事は難問山積みだ。これまで隠されていた財政の問題点はいつ県が倒産しても不思議ない状態であることを示しているし,自民と公明が支持したと言っても,橋下さんが選挙戦で訴えた公約のかなりの部分は自民も公明も飲めない内容となっているし,第一,逼迫した大阪の財政状態では実現不可能と思われる。議会運営を優先すればするほど橋下さんは公約を実行できず,指示してくれた府民の不満も次第に募ってくるはずだ。「宮崎の鳥インフルエンザ」のような青天の霹靂のような出来事が起こるかどうかが,実は知事としての橋下さんの命運を分けるような気がする。
- サンワダイレクトで高速タイプの4GのUSBメモリ,2,999円だってさ。
2008/01/28
- 4月20日(日)に東京で開かれる最新医療セミナーで講師を勤めることになりました。午前2時間,午後2時間の講義形式となるようです。詳細については後日追加します。
- 先週金曜日は大津市民病院で講演でした。滋賀県で初めての講演で,病院9階の会議室は満席でたくさんの質問をいただきました。お集まりいただき,ありがとうございました。
その後,7人ほどの先生方と懇親会。ここでも,あることないこと,しゃべり続けていたような気が・・・。遅くまでお付き合いいただき,ありがとうございます。
- 『戦争の経済学』を読み終えました。面白かったです。いずれ,感想をまとめて書こうと思っています。
で,次なる読書ターゲットは『熱力学で理解する化学反応のしくみ -変化に潜む根本原理を知ろう-』(平山令明,講談社ブルーバックス)です。物理学や数学についてはある程度の知識はあるのですが,化学についての知識は心もとないものがあり,以前からもっと勉強しないといけないなぁ,と思っていました。そんなわけで,とりあえずまず一冊。
2008/01/25
- 講演で使用するスライドですが,さらにバージョンアップし,最新版は1月24日作成となります。以前ダウンロードしたことがある方は同じアドレスからダウンロードできますし,新たにダウンロードをご希望の方は本名,所属を明記してメールでご連絡下さい。
- ちょっと前,ちょっと話題になったプロレス映画,《ナチョ・リブレ 覆面の神様》について。熱血プロレス映画,コメディ映画かなと思ったら,全然違ってました。
- 今日は午前11時半まで外来診療をして,それから常磐線特急と東海道新幹線を乗り継いで,夕方から大津市民病院で講演です。滋賀県では初めての講演となり,日本全国でまだ講演をしていない県は鳥取県のみとなりました。
今年中に「全国制覇」,できるかなぁ?
2008/01/24
- 「こんな質問をいただきました」に「ネットでワセリンについて調べたら,市販の白色ワセリンは紫外線で酸化し易く油焼けの原因になるとありますが,これは正しいのでしょうか?」を追加しました。
- 掲示板に「ビオレママになってはいけない」という書き込みがありました。「弱酸性だから皮膚に優しい」なんてインチキそのものです。皮膚についての基礎的知識があれば,インチキ商品であることは簡単にわかります。
赤ちゃんの肌の調子が悪かったり,アトピーだと医者に言われたら,まず弱酸性ビオレを疑いましょう。
- いまだに,「消毒の有害性を言うならきちんとRCT(randomized controlled trial)を行って証明すべきだ」と文句を言ってくる方がいらっしゃいますが,こういう人には「青酸カリの有毒性はRCTで証明されたのか? 青酸カリが人間に致死性を持つことは,100人に青酸カリを飲ませて対照群と比較したことで証明されたのか?」と逆質問することにしています。
何でもかんでもRCTで,という人はきっと,「時速100キロで走る自動車にはねられた歩行者が死ぬかどうかは,100人の歩行者を車で跳ね飛ばして実験しなければ証明できない」って考えているんだろうね。
「基礎物理,基礎科学,基礎的生物学により証明されることについては,RCTは不要だ」ってEBMの偉い先生が明言しない限り,こういう「なんでもかんでもRCT」と考える連中が湧いて出るんだろうなぁ。鬱陶しいなぁ。
- 今,読んでいるのが,『戦争の経済学』(ポール・ポースト,バジリコ)で,まだ全体の1/3ほどしか読んでいないが,これがムチャクチャ面白い。本の帯にはこんなことが書かれています。
- 戦争が経済を活性化するというのは本当か。
- 徴兵制と志願兵制度ではどちらがコストパフォーマンスが高いか。
- 軍需産業にとって実際の戦争にメリットはあるか。
- 自爆テロはコストに見合っているか。
2008/01/23
- 学会の認定医,専門医とは何か。お茶やお花の家元制度と同じです。両者の共通点は次の2点です。
- 専門医(=お茶やお花の師範)として認定する上で,学会に入っている期間(=稽古に通った期間)が最も重要視される。つまり,学会(=家元)に一定の金を払うことが前提となる。
- 技量や知識は金ほど重要視されない。
学会認定医(専門医)で一番重要なのはその学会に所属して年会費を払い,学会に出席して学会費を払ったかどうかです。もちろん,専門医になるための試験や実技もありますが,専門知識が十分にあり技量に優れた医者であっても一定期間学会に所属してきちんと会費を納めていなければ専門医になれないわけなので,学会としては技量や知識より金を収めたかどうかを優先していることは明らかです。要するに,上納金を払ったかどうかと同じですね。
以前から,このからくりに気がついていましたし,現実的に全然利用価値のない日本形成外科専門医の資格を維持するために毎年5万円以上払うのはドブに金を捨てるようなものだと思っていました。しかも,専門医は5年ごと(だったかな?)に更新が必要で,そこでも3万円ほど学会に払わなければいけません。認定委員会の仕事と言ったら,5年間,きちんと上納金を納めたかどうかの確認作業くらいしかないはずです。それに一人当たり3万円もかかるのでしょうか。どういう作業に3万円を使っているのでしょうか。まさにミステリーです。
ううむ,考えれば考えるほど不合理なシステムですが,これこそまさに,学会はパラダイムである,という証明になります。
と思っていたところ,先日の四国創傷治癒フォーラムで日本形成外科学会専門医認定委員会委員長と思われる某教授から「こんな活動をしていると専門医の資格を取り上げるぞ」と恫喝していただきました。
これで踏ん切りがつきました。もう,日本形成外科学会に金払うの止めちゃおう。専門医も資格もいらないや。ドブに金を捨てるほど裕福じゃないもん。こんな,研究会という公共の場で他人を平気で恫喝するような薄汚い連中に金を払うくらいなら,ユニセフにでも寄付したほうが世のため人のためだよ。こんな連中に認定してもらわなくても,もういいや。
と言うわけで,形成外科の某教授に感謝する次第です。あなたに恫喝していただかなければ,学会と学会専門医の欺瞞性に気がつかず無駄金をドブに捨て続けていたでしょう。
- ブルース・ウィリスがお洒落な泥棒さんを演ずる映画,《ハドソンホーク》について。1991年とちょっと古い映画ですが,ギャグは滑りっぱなし,ハラハラ感が皆無という悲惨なアクション・アドベンチャー映画です。
2008/01/22
- ある先生から「シャンプーを使わない温水のみの洗髪にして4ヶ月たちました。非常に快適です。しかも最近妻から枕のオヤジ臭がなくなってきたね」,と言われたそうです。実はかくいう私も,枕カバーの臭いが軽くなっているんじゃないだろうか,と思い始めた矢先でした。
もしかしたら,〔歳をとって皮脂腺の機能が落ちる〕⇒〔石鹸とシャンプーでなけなしの皮脂も落とされる〕⇒〔皮膚常在菌叢が乱れる〕⇒〔常在菌でない細菌が増える〕⇒〔オヤジ臭の原因物質を作る〕・・・なんて筋書きがあるかも。
誰かこれについても追試していただけませんか?
- 理論物理を席巻しているのがストリング理論(超ひも理論)ですが,この理論に対して真正面から異を唱える本,それが『迷走する物理学 -ストリング理論の栄光と挫折,新たなる道を求めて-』(リー・スモーリン,ランダムハウス講談社)です。爽快にして壮大,怜悧にして緻密,そして熱い情熱がほとばしる素晴らしい書です。
研究会という公共の場で,日本形成外科学会専門医を餌に参加者を恫喝するというヤ○ザまがいの行為をした四国のどっかの形成外科教授を相手にした後は,こういう緻密で論理的な本を解毒剤代わりに読むに限りますね。
- 上海問屋から「16GBのSDHCカード,9999円!」と連絡が入り,速攻で見に行ったら既に売り切れ。この値段だから当たり前か。次回の入荷は1月29日とのこと。次は絶対にゲットしてやるぜ。
2008/01/21
- 5月22日(木)に福岡県飯塚市で開かれる筑豊感染症懇話会で講演することが決まりました。
- 先週土曜日(19日)は松山市で開かれた第3回 四国創傷治癒フォーラムで講演。当初500人の参加を予想していましたが会場には600人を越える方がいらっしゃいました。質疑応答も活発で,その後も色々な質問をいただきました。ご参加いただき,ありがとうございます。
徳島大学形成外科の中西教授,香川大学形成外科の田中教授を始め,形成外科の先生が結構参加されていました。もう5年くらい,形成外科の学会には全く参加せず,形成外科の先生方とのお付き合いもほとんどなく,形成外科医としての仕事すらしていませんので,大学教授から質問をいただくと緊張してしまいます。
- そこで改めて確認したのは,「傷の治療・熱傷治療のパラダイムシフトに関しては,開業医,小規模病院,医療の素人から始まり,大病院,大学病院,大学の形成外科,熱傷学会,熱傷センターが最も遅れていて,恐らく最後まで変化を受け入れられないだろう」という予測の正しさです。
一人の教授から,「(こういうことをしていると)形成外科学会の専門医を維持できない(つまり,専門医の指定を取り消す)」とご指導(脅し?)をいただきました。この教授に限らず,全国各大学の形成外科の教授もそう思っているんだろうと思います・・・が,しかし,私にとっては「それがどうした。取り消してもいいよ,別に困らないし」であって,脅しにも何にもなっていないのです。だって,もう私は形成外科医の肩書きで働いているわけでないし,形成外科の研修医を指導することもないだろうし,現在の活動をする上で形成外科学会専門医の肩書きはあってもなくてもいいものだからです。
むしろ,形成外科学会から「専門医」の指定を取り消されたらそれは「形成外科学会・熱傷学会が創傷治療で最も遅れている」という証明になるし,私の活動の最大の宣伝文句として使えるからです。
長年,大学や学会にいると,そこが全ての世界になってしまい,そこだけが正しい世界だと思ってしまいます。だから,大学や学会の外側からの変化に対しては,それを潰そう,抵抗しようという反応をします。自分たちの世界を守ろうとするからです。パラダイムの中にいることで仕事をしているからこそ,パラダイムシフト(=従来のパラダイムの崩壊)に耐えられないのです。
天動説から地動説へのパラダイムシフトは当時の学会や天文学者から始まったのでなく,当時の天文学の専門家たち(=天動説の専門家)が死に絶えてはじめてパラダイムシフトが完成したといいます。この現象は,これまで何度か起こったパラダイムシフトでも同じでした。つまり,専門家ほど変化に抵抗するということです。専門家は,世間一般が「地球の周りを太陽が回っているって,いまだに教えているよ」とあざ笑うようになってもまだ,天動説を信じていたのです。専門家は専門家なるが故にパラダイムシフトという大変化に対応できなかったのです。
そういう意味でも,非常に収穫のあった愛媛での講演でした。
ちなみに,講演を聴いたという方から「あの形成外科教授,四国の恥です」,「あんなにひどいことを言う教授,馬鹿じゃないかと思いました」,「あの大学教授を見て,大学病院が一番駄目だと言うことがよくわかりました」,「座長,最悪!」というメールを幾つもいただいております。そして,「あんなひどい質問を柳に風と受け流した解答,お見事でした」なんて褒められたりして・・・。
2008/01/18
- 香港アクション映画の雄,ツイ・ハーク監督がハリウッドに進出して最初に作った映画,《ダブルチーム》について。
- ゲーベンとワセリンの比較実験を続けています。やはりゲーベンは痛いです。もしも同様の実験をやってみようという方(・・・あまりいないと思うけど)へのアドバイスです。
- ナイロンタオルは硬めの新品が最も破壊力がある。
- かなり力を入れて,一部,血がにじむ程度になるまでこすり続けると違いがよくわかる。
- 大腿内側,下腿内側,前腕屈側などで実験をしてみたが,私の場合,大腿内側の皮膚(角化層)が最も薄いらしく,最も著明な違いが観察された。つまり実験部位としては大腿内側が最も効果的と思われる。
・・・というような感じですが,きちんとしたデータとして残すためには実態顕微鏡が必須と思われます。買うしかないか・・・Dino-Lite PLUS。
- 日経ビジネスオンラインの『思わず笑ってしまった「民間が選んだ2007年中国10大ニュース」』はかなり笑えます。
2008/01/17
- 「外傷を湿潤治療している医師」に,東京都豊島区の池袋西口皮フ科医院 布施佳子,布施寧子先生にも加わっていただきました。ありがとうございます。
- 我が身を犠牲に(?)してのゲーベンクリームに関する簡単な予備的人体実験をしました。ゲーベンクリームを使われた熱傷患者さんの苦痛がよくわかりました。熱傷治療をしている先生方はまずこの実験をしてください。
- 「救急受け入れ不能、20回以上が年104件 大阪市」なんてニュースがあったが,救急病院の数が有限で,そこで働く医者の数が有限で,一方,救急搬送される患者は年々増えているのだから,どこかで臨界点を越えてしまうのは当たり前で,現状のままなら,今後さらにこのような「救急受け入れ不能」は全国各地で起こるはずだ。要するにこれまで,救急の現場で働く医者の限界スレスレの過酷な労働でダムの決壊を食い止めていたようなもので,いずれ臨界点がくるとわかっていながら何もしてこなかったための,当然の帰結である。今頃騒いでも遅いのだ。
もしも,救急医療は絶対に維持されなければいけない,日本国民は等しく高度な救急医療を受ける権利があるとするなら,どうしなければいけないだろうか。もちろん,救急病院と救急医の数が有限である以上,救急医を増やすか,患者を減らすしかないはずだ。となると,次のような対策しかなくなるような気がする。
- 救急患者を減らす
- 軽症,あるいは救急的処置が必要ない状態なのに救急車を使用した患者から高額の「救急車使用料」を請求する。
- 救急外来を受診した場合の支払いを,軽症ほど高く重症ほど安くする。
- 「高齢者は救急室で治療しない」,「小児は救急室を受診してはいけない」というように,年齢などで強引に分けて患者を減らす。
- 救急で働く医者を増やす
- 医学部の定員を増やす(⇒効果が出るのは最短でも6年後なので速効性はない)。
- 救急外来の診察・治療料を高く設定して,救急患者を受け入れるほど病院が儲かるようにする。
- 救急医を完全3交代制にして過剰労働をなくし,給料も開業医並に高く設定する。
- 「救急外来以外の診療科の医者は毎年1ヶ月間,救急医として働く」ことを義務化する。
- 「開業医を目指す医者は,開業する前に○年間の救急医療従事が必要」と義務化する。それをしないと開業できないようにする。
- 救急診療を維持するために,他の診療科を強制的に縮小して救急医療に割り振る。
- 上記の方策を適度に組み合わせる。
さらに,これらを実現するには金がかかるわけで,その財源をどこから持ってくるかも避けて通れない。ここでも「使える金には上限がある」ことを前提とすると,対策は次の通り。
- 日本全体の予算のどれか(例:防衛費とか教育費)を削って救急医療を増やす。
- 医療財源の中での配分を変えて救急医療に手厚くする(例:小児医療を削って救急医療分を増やす,産科医療を減らして救急医療を増やすなど)。
- 前項の変形として,「病院勤務の救急医が苦労している分,開業医は楽をしている」という図式があれば,「開業医はその収入の○%を拠出し,救急医療の財源として利用する」,という対策もありか。
いずれにしても,現在のシステムに手を入れない限り,救急医療現場はどんどん疲弊し,過重労働を押し付けられた救急医が過労死して減っていくか,死んではかなわないと救急医を辞めて減っていくかのいずれになり,どちらにしても救急医療は破綻するのは目に見えている。
というより,今後も現在の水準の救急医療を維持しようとするだけでもシステム全体を組み替えと財源の捻出が必要になるはずだ。そういう負担を払ってでも救急医療を維持するのか,あるいはもっと高度な医療を要求するのか,救急医療の水準を落とすか,そういう選択を迫られていると思う。
- YouTubeでかなりすごいピアノ演奏を発見。Stravinsky/Agosty編曲の『火の鳥』です。オーケストラのかなりのパートを10本の指だけで再現するという力技編曲で,演奏もまた素晴らしいと思います。この編曲を弾いてみたい,楽譜を見てみたいという人はご連絡ください。
- http://www.youtube.com/watch?v=Ib8r4V0nkes
- http://www.youtube.com/watch?v=carvO02AcKQ
- 朝起きたら雪が積もっていました。当地の初積雪と思われます。
2008/01/16
- 熱傷創にゲーベンを塗ると痛みが出て,それもかなりひどいことは多くの患者さんが証言してくれています。実際,ラップで治療をしていたときは全く痛くなかったのに,ゲーベンクリームを使う熱傷専門医に紹介されてから痛みが出て歩くのも苦痛になったという患者さんも一人や二人ではありません。明確な作用機序は不明ですが,ゲーベンで痛みが出るのは事実です。
さて,もしもあなたの患者さんが「先生,この薬を飲むと頭が痛くなるんだけど」と訴えたらどうしますか? その薬を止めるのが普通ですよね。頭が割れるように痛くても薬を飲めとは言いませんよね。
しかし,熱傷専門医の先生方には,「この白い軟膏を塗ってから傷が痛くなったんだけど」という患者の訴えが聞こえないようですし,その痛みは異常とは思っていないようです。それとも,患者からの傷の痛みの訴えに耳を貸さないという伝統でもがあるんでしょうか。
- 先日,手荒れ用ハンドクリームは手にどう作用するのか?について書き,その最後に「パソコンのUSBに接続できる顕微鏡を物色中」と書きましたが,これを買おうかなと思っているものは決まっています。サンコーレアモノショップのDino-Lite PLUSです。何となくオモチャっぽく見えますが,先日,実物を触ってきましたが,皮膚表面をパソコン画面に映し出すと,かなり鮮明でした。ちなみにお値段は19,800円,専用スタンドつきで25,000円前後です。
これで,「1週間連続毎日3回尿素含有クリームを塗布した部分と,塗布しなかった部分」の比較でもしてみようかな,なんて考えています。
2008/01/15
- 他院で切開排膿した毛巣洞の患者さんを治療しています。毛巣洞とはどういう病気かはこちらをご参照ください。一般的には,瘻孔を完全切除して縫い合わせただけでは傷が開いてしまい,局所皮弁術が必要になります。私も形成外科医の端くれですので,こう思って治療をしてきました。
でも,考えてみると毛巣洞という名前はついていますが,要するに体毛が中に入り込んだ難治性瘻孔,難治性膿瘍に過ぎないはずです。それなら,十分に切開して排膿して中に入っている毛を除去し,傷を縫合せずにアルギン酸塩で充填。そして翌日からはプラスモイスト貼付,で何とかなるような気がしますがどうでしょうか。縫い合わせなければ傷が開くこともないし(・・・そりゃ当たり前),殿部の離開創が保存的に簡単に治ることは確認していますので,これでなんとかなるかなと・・・。瘻孔壁の滑膜様組織も多分,切除不要でしょうね。
- ブルース・ウィリス主演・・・の粗雑なアクション映画,《マーキュリー・ライジング》について。もう少し丁寧に作っていたら感動映画になったはずなのに,なぜか疑問符だらけの映画になっちゃいました。
- 私は滅多に携帯電話を使わないし,携帯電話が鳴ることも滅多にありません。そのため,携帯電話を机の上やバッグに入れたまま忘れて外出することがあります。そういう時に自宅に電話しようと久し振りに公衆電話に十円玉を入れるわけですが,自宅の電話番号をど忘れして焦ってしまいました。携帯電話だと電話番号を覚えておく必要ないもんなぁ。「使わない知識・情報はすぐに忘れる」という法則ですね。
- この3連休も寒かったですが,来週末にも寒波がやってくるみたいで,週末はかなりの雪が降るんじゃないかという予報も・・・。今週末といえば,もろに大学入試のセンター試験です。交通機関が乱れないように祈るしかありません。
だから,この時期に入試があること自体が間違っているんだってば。
- 「クーリエ・ジャポン」2月号にもあったが,バイオエタノールへの転換が世界中でとんでもないことを引き起こそうとしている。例えばトウモロコシ。
現在,トウモロコシの最大の生産国といえばアメリカ合衆国だが,既に食料・資料用として輸出するよりエタノールにする方が多くなったそうだ。国民が車を走らせることを最優先させるために,エタノール用のトウモロコシに国の補助が出ていて,高く売れるからだ。
ここで「トウモロコシから作るエタノールで車を走らせた方が地球に優しいんだよね」なんて騙されてはいけない。トウモロコシからエタノールを作るのはすごく効率が悪く,石油からガソリンを作るよりも多くの石油が必要なのだ(効率からいえば,サトウキビからエタノールを作るほうがよほど石油消費量が少ないが,アメリカはトウモロコシ農家のために非効率なトウモロコシによるバイオエタノールを推進しているわけね)。おまけに,四輪駆動車のタンクを一杯にするエタノールを作るトウモロコシは,人間一人が一年間生き延びるのに要するトウモロコシの量に匹敵するのである。
さらにそのアメリカでは,小麦やダイズ畑がどんどんトウモロコシ畑になっているらしい。もちろん,トウモロコシが高く売れるためで,私がアメリカの農家だったらやはり同じようにするだろう。つまり,車を今までどおりに走らせるために,食料が減るわけだ。
この傾向は食料入出国には有利に働くが,食糧輸入国,特に最貧国を直撃する。当然それらの国では当分の間,高くなった分を国が補助して食品価格を統制するなどの対策をとるだろうが,それは一時しのぎでしかない。その先,どういうことになるのか,想像もしたくない世界が待っているような気がする。
「他の国で食う分が減ってもいいから,アメリカ人は自由に車を走らせて今まで通りの生活を維持しよう,便利な生活を続けよう」というアメリカ合衆国の考え,おかしいんじゃないか?
- 同じ「クーリエ・ジャポン」2月号に載っていたピーター・シュワルツの未来予測という記事も面白かった。この人物は,「9.11」の7ヶ月前に,ニューヨークかワシントンを狙った大規模テロが起きる可能性が高いという報告書を合衆国安全保障会議に提出していたことで有名。その彼の未来予測もなかなかいいが,何より彼の考え方が興味深い。一言でいえば「複数のシナリオを考えて行動しろ」ということになる。
現在のアメリカがイラクで二進も三進も(「にっちもさっちも」と読みます)行かなくなったのは,彼によると,「フセインを倒せばイラク国民はアメリカ軍を大歓迎してくれるだろう」という単一のシナリオで戦争を始めたからだそうだ。要するに,フセインを倒してイラク国民がアメリカ軍を歓迎する場合,フセインを倒してイラク国民がアメリカ軍を歓迎しない場合,フセインを倒せない場合,という具合に複数のシナリオを想定し,それぞれに応じてどうするかをあらかじめ決めてから戦争をすべきだったのだ。
この考え,医療でも同じですね。
2008/01/11
- こんな質問いただきましたに「プロスタンディン点滴のレシピと注意点」を追加。
- 例によって,どうでもいいようなことについて思考実験する毎日ですが,今回ふと思いついたのは,「子供の数によって両親(保護者)の投票数を増やしたらどうなるか」です。つまり,子供が2人いたら両親には4票の投票権,子供が5人いたら両親には7票の投票権を与えたら,選挙風景とか政策はどう変わるだろうか,大都市と地方中規模都市での政治的発言力はどう変わるだろうか,という思考実験です。
いずれ,きちんとした(?)文章にする予定ですが,子供は未来の日本の最大の財産なのですから,子供を沢山育てている親ほど政治的発言力が強くなるというシステム,面白いんじゃないでしょうか。少なくとも,教育の問題や子育ての問題を真面目に考える政治家が今より増えることは確実でしょう。
何しろこの日本という国は,先進国の中で最も公的教育への支出が少ない国であり,公立小中学校の3割が耐震基準を満たしていない国なのです。つまり,子供の教育に碌に税金を使わず,授業中に地震が起きたら学校が崩壊しても構わない,子供の教育より橋や道路やダム造りに税金をかけようという国です。こういう国に未来はあるかどうか,私にはよくわかりません。
2008/01/10
- 今週号の少年マガジン『ゴッドハンド輝』でプラスモイストをさりげなく取り上げていただきました。山本先生,ありがとうございます。
- 「クラシックピアノ弾きのためのジャズピアノ楽譜ガイド」にさらに追加。25年以上前に出版された楽譜ですが,華麗な演奏効果と長大なアドリブが魅力の曲集を紹介します。
- USBメモリの値下がりはすごいけど,ついに8GBで3,999円! 売っているのは毎度おなじみの上海問屋。
2008/01/09
- 「クリームは界面活性剤を含んでいるけど,その界面活性剤は皮膚の油(皮脂)を本当に溶かすのだろうか?」という疑問を持ち,調べても埒が明かないので,自分の体で人体実験(?)をしてみて,結果をまとめました。「手荒れ用ハンドクリーム実験」です。少なくとも私の体では,ハンドクリームは皮膚は乾燥させる効果しか持っていません。
恐らく,ナイロンタオルなどで皮膚が真っ赤になるまでこすり(これで角化層欠損モデルができる),それにハンドクリーム,尿素入りクリームを使ってみると,更に違いは明確になることが予想されます。誰か,やってみませんか?
- 昨年夏受傷の大腿内側全部,面積20×25センチの3度熱傷患者さんを治療中です。ちなみに受傷原因は熱い金属との接触です。
いずれ治療経過を報告しますが,このような熱傷患者を何例も治療していて気がついたことがあります。順調に上皮化が進んできて,あとちょっとというところでなかなか上皮化せず,あとちょっと,という状態が1ヶ月以上続くことが少なくないことです。
以前は,こういう状態を見ると,治療が悪いんじゃないだろうかと思い,被覆材を変えたり,ステロイド軟膏を併用したり,挙句の果ては植皮の誘惑に駆られたりしていましたが,最近はちょっと考え方が変わってきました。この足踏み状態は実は機能障害がより少ない状態に戻るための準備期間ではないだろうか,足踏みをしているのでなく,最善の状態になるタイミングを体が待っているのではないだろうか,と考えるようになりました。
なぜかというと,この「あとちょっとで足踏み」の後に上皮化した患部を見ると,肥厚性瘢痕が軽度で,瘢痕拘縮がほとんど起きていないからです。つまり,目の前の症例を見る限り,瘢痕拘縮も肥厚性瘢痕も起きないような状態に成熟するのに時間がかかり,それを待ってからゆっくりと上皮化しているとしか思えないのです。
以前の熱傷の教科書からすれば,保存的治療では,上皮化に時間がかかればかかるほど瘢痕拘縮や肥厚性瘢痕がひどくなる,というのが常識でしたが,どうやらそれは,「消毒と乾燥」による局所治療の時代の常識であって,湿潤治療には当てはまらないような感じなのです。
この推論が正しいとすれば,「なかなか治らないのは治療が間違っているから」,「とにかく速く治す事が患者にとって利益になる」,「少しでも早く治して上げたい」という考えは,医者の独りよがりに過ぎず,患者にとって最終的にもっとも大きな利益(=瘢痕拘縮による運動障害がなく,肥厚性瘢痕という醜形をあまり残さない)に直結しないということになりそうです。
さらに,「傷が速く治るように幹部を安静にする」,「安定した上皮化が得られるように関節部をギプス固定して安静にする」,「運動を控えるように患者に説明する」という方針そのものが間違っていることになります。私の治療例を見る限り,どんどん運動させたほうが瘢痕拘縮は起きていないし(もちろん,乳児の手掌~手指掌側の熱傷は話が別ね),肥厚性瘢痕になったとしても昔見てきたような盛り上がった瘢痕はここ数年,あまり見ていないのです。つまり,安静にするほど肥厚性瘢痕・瘢痕拘縮になりやすいことになり,従来の教科書の知識は全く通用しません。
熱傷学会や大学病院の熱傷センター,形成外科の先生たちには受け入れられない概念かもしれませんが,現実の症例を分析するとこのような結論になります。
- 「福岡3児死亡、危険運転認めず 元市職員に懲役7年6月」というニュースがあった。よくよく酒に寛容,車に寛容な裁判長だったんだな,と思うしかない。
さて,日本では交通事故で毎年6000人近い人が死んでいる(昨年度は初めて6000人を下回ったが)。日本の年間死者が100万人なので1%にも満たない数字だが,一日あたり16~17人が死んでいるわけで,これは,ある薬の副作用で毎日16人死んでいるとか,エレベーターの事故で毎日16人死んでいる状況を想定してみるとわかるが,かなりの数である。しかし,この「毎日16人」という現実はほとんど問題視されていない。
これは,車の利便性の前では一日16人くらい死ぬのはしょうがない,車がない社会より毎日車で16人以上が死ぬ社会の方が望ましい,と考えているとしか思えない。
交通事故死を限りなく少なくするのは,実は簡単だ。車が時速4キロ以上出せないようにするだけでいい。これで多分,交通事故死は劇的に減少する。逆に言えば,数百キログラムの物体が時速40キロ以上で走り回っている以上,交通事故死は必ず起こるはずだ。いくらエアバッグ装備とシートベルト装着を義務化したとしても,守られるのは運転者ばかりで,歩行者は依然として無防備である。要するに,「加害者は守られるが被害者は守られない」という構図とも言える。
毎日16人という数字は多いのだろうか,少ないのだろうか。問題視すべきなのだろうか,問題にならない数字なのだろうか。
ちなみに,今回の判決で一番おかしいのは,逃げ得を認めたという点にある。今回の運転手(私は殺人者だと思う)に危険運転致死傷罪が適応されなかったのは,「現場から逃げ,大量の水を飲んでごまかそうとしただけの判断力があったから判断がつかないほどの泥酔ではない」と裁判長が判断したからだが,もしも現場に残って現行犯逮捕されたらそれは紛れもない泥酔状態だったろうし,業務上過失致死になっただろうか。
つまり今回の判決は,飲酒運転で交通事故を起こしたら,とりあえず現場から逃げたほうが得だよ,罪が軽くなるからね,と裁判所が教えているようなものだ。裁判長はこのあたりを自覚して判決を出したんだろうか。
それにしても,交通事故で人を殺しても,ついうっかり殺しちゃったんだよね,と罪が軽くなるのはなぜなんだろうか。それは殺した側の論理であり,殺された側には通じない論理だと思う。
2008/01/08
2008/01/07
- 3月22日の篠山市薬剤師会での講演ですが,14:00~16:00に時間が決まりました。
- 「クラシックピアノ弾きのためのジャズピアノ楽譜ガイド」に追加。
- ひょんなことから世界の政治指導者の年齢を調べてみたがこれがなかなか面白いのだ。たとえば,OECD加盟国の現時点での首相(あるいは大統領)を年齢の高い順に並べると次のようになる(誕生日は計算に入れていないので,正確な年齢ではない人がいると思うが・・・)。
- 72歳
- 68歳
- 61歳
- 57歳
- 56歳
- ブラウン イギリス首相
- ホルデ アイスランド首相:56歳
- 54歳
- フェルホフスタット ベルギー首相
- ラスムセン デンマーク首相
- アハーン アイルサンド首相
- 53歳
- メルケル ドイツ首相(女性)
- エルドアン トルコ首相
- ユンケル ルクセンブルク首相
- 52歳
- サルコジ フランス大統領
- ヴァンハネン フィンランド首相
- 51歳
- 50歳
- ラッド オーストラリア首相
- ソクラテス ポルトガル首相
- トゥスク ポーランド首相
- 48歳
- ハーパー カナダ首相
- ストルテンベルク ノルウェー首相
- 47歳
- サパテロ スペイン首相
- グーゼンバウアー オーストリア首相
- 45歳
- 42歳
50代前半の首相や大統領が多く,70代は福田さん一人だけで,60代の首相自体がとても少ない(ちなみに韓国の次期大統領は66歳とのこと)ことがわかる。福田さんから見たらスウェーデンやメキシコの首相は子供の世代である。これは多分,その国で首相(大統領)に求められる資質の違いによるもので,日本では調整力とか老獪さが政治家に求められ,そういう能力が評価されているからという見方もできるが,「政治家には老獪さと調整力」という論理で政治的リーダーを選ばない国が多いということかもしれない(もちろん,高齢の政治家たちが若年のリーダーを前面に出して,裏から好きなように操縦している,という可能性もあるだろうが・・・)。
さて,72歳と42歳では決定的に違っているものがある。「未来」という言葉の持つ切実さだ。72歳の福田さんが20年後に生きている確率はかなり低いが,42歳のラインフェルトさんは20年後はまだ62歳の現役で,恐らく40年後もかなりの確率で生きている。福田さんにとって20年後はどうなっていようと関係ない(知ったことではない?)世界かもしれないが,ラインフェルトさんにとって20年後はまだ現役で働いている世界である。これは大きな違いではないだろうか。
ラインフェルトさんに子供がいらっしゃるかどうかは不明だが,いるとしてもまだ10代だろうし,これから赤ちゃんができても不思議でない年齢だ。30年後のスウェーデンがどうなっているか,30年後の世界がどうなっているかは自分の子供たちがどう生きられるかに直接かかわってくる問題だ。同じ30年後でも福田さんとラインフェルトさんではかなり意味合いが違うだろうし,切実さの度合いが異なっていると思う。
福田さんに限らず,現在の日本の政治家の皆さんの議論を聞いていると,衆議院解散の時期はいつにするのが自分の政党に有利か,その際の議席数の読みはどうかが最大の問題のように見える。多数決で物事が決まるのだから多数の議席を取るのが政治の目的になるのは当たり前だが,多数派になること自体が政治の唯一の目的になっているような気がするし,日本の政治家から「30年後の社会はどうなっているのか,その時の世界はどうなっているのか,その時を見据えて政治家は何をすべきか」というような議論を聞くことはほとんどない。
竅った見方かもしれないが,70代の議員の皆さんにとっては次の選挙で当選することしか興味がないのではないだろうか。彼らにとって次の選挙は切実な問題(何しろ彼らにとって,国会議員は職業同然で,選挙で落ちるのは失業するのと同じ。失業するのを恐れるのは当たり前)だが,20年後の日本がどうなっているかはどうでもいい問題なんじゃないだろうか。
20年後にほぼ確実に死んでいる人たちに,20年後の社会や世界のことを考えてもらうことシステム自体が無理なのではないかと思う。
政治とは突き詰めれば,税金として集めた金をどう使うか,どう分配するかというシステムである。その金を1年後の自分の議席のために使う(ばら撒き予算,無駄な道路作りなどはその典型だろう)か,今は我慢してでも10年後,20年後のために使う(子供への教育や小児医療はこれに入る)かでは,大違いである。
2008/01/05
- 3月22日(土)に兵庫県の篠山市薬剤師会で講演することが決まりました。
- 『迷走する物理学 -ストリング理論の栄光と挫折,新たなる道を求めて』,ラスト100ページくらいになりました。要するに,理論物理,量子物理の分野が全てストリング理論一色になってしまい,その結果,ストリング理論に疑問を呈することすら御法度のような雰囲気になってしまったことが最大の問題らしいです。このままでは,1980年以後の30年は「失われた30年」だったのではないか,と本書は訴えています。
これまで,物理に限らず,医学でも生物学でもさまざまな理論,原理が提案されてきました。新しい理論(原理)には必ず,その時代には誰も気がついていない(=予想もしていない)現象の予想・予言がありました。正しい理論は必ず未知の現象を予言し,それによって,その理論が正しいことが証明されてきました。つまり,理論の提唱,その理論による予想,実験(観察)による予想の証明,というプロセスが科学であるための必要条件なのです。ストリング理論に欠けているのは,予想であり予言です。
現実に起きている事実を説明としてはきわめて美しい理論体系ですし,粒子と力を統一的に説明できる理論体系は実に魅力的です(私もかなりはまった)。しかし,その説明をするためには26次元の世界が必要となり(最も簡便化しても10次元),それが現実の世界でどういう意味を持つのかを説明するため,さらに理論が複雑化し,多種多様なストリング理論が提案される,というのが現状なようです。だから本書では,ストリング理論から一旦離れ,新たな理論物理の世界を再構築しようと苦闘しています。
2008/01/04
- 今日から外来再開です。久し振りのお仕事モードですが,やはり基本的に患者の診察・治療をしているのが好きで,長い期間の休みは何となくしょうに合いません。貧乏症ってやつです。
- さて,年末年始映画シリーズの最後を飾るのは,《12モンキーズ》。いわゆるタイムとラベル物で,大傑作を評価する人もいて,確かにかなり込み入ったストーリーが一つ一つ明らかになるところは面白いのですが,それ以外の部分があまりに雑に作られている感じがします。
2008/01/03
- 見たら誰でも元気になる映画,《キンキーブーツ Kinky Boots》について。あっ,これもイギリス映画だったな。
- 『迷走する物理学 -ストリング理論の栄光と挫折,新たなる道を求めて』(リー・スモーリン,ランダムハウス講談社),とても面白いです。この2日で半分まで読み進めましたが,綿密な考察とそれを支える膨大なデータ,物事の本質を抉り出そうとする鋭い視点は明快にして爽快。
ストリング理論(超ひも理論)はとても美しい理論ですが,なぜそれが美しいのかがよくわかりました。
2008/01/02
- マヌケな犯罪者を描かせたらイギリス映画は超一流,という見本のような超面白い映画,《ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ Lock, Stock & Two Smoking Barrels》について。ゴチャゴチャと色んな人間が登場し,全く関係のない事件が次々起き,なんだ,こりゃ,と思い始めた頃からすべての事件が一つにまとまり始め,最後に見事な結末が!
- 昨年末(・・・といっても,数日前だけど),ほぼ1年ぶりに生まれ故郷の秋田県のド田舎に帰っていましたが,その町(人口3万ちょっと)は1年前よりさらに衰退し,実家の近くには人が住まなくなって廃屋となった住宅が何軒かありました。12月30日に近くにある唯一のスーパーに買い物に行きましたが,道を歩いている人もいないし,遊ぶ子供の姿も皆無です。しかも,スーパー(結構広い)の中は年末ということもあって混んでいましたが,子供の姿はほとんどありません。年寄りだけで賑わっていました。なんだか,町全体が老衰の終末期に入っている感じでした。
秋田駅でちょっと時間があったため,近くを歩いてみたら,駅前のビルの6階と7階がジュンク堂になっていて,結構人が入っていました。どうやら,衰退の道をひた走っていた秋田駅前で,唯一の明るい話題との事でした。ちなみにジュンク堂には,ちゃんと私の本も置いてありました。偉いぞ,ジュンク堂!
ま,私の本はどうでもいいのですが,要は恒常的な人の流れを作ることの重要性に,ようやく気がついたのだとすると,その方向性は間違っていないと思います。昨年の同時期の更新で,秋田駅近くの巨大イベントホールのことを書きましたが,イベントホールはいくら立派に作っても,恒常的な人の流れを生み出すことはありません。イベントがある時だけ,一次的に人が集まるだけです。だからそれは,街づくりの起爆剤にも核にもなれません。
重要なことは,常に人が集まる場所を作ることです。たとえそれが商売に直結しなくても,とにかく人の流れを作ってしまえば,その流れを分析し,集まった人たちの興味がどこにあるのか,何を不満に思っているのかというデータを集めることができますから,そこから次の一手が打てます。
2008/01/01
- 明けましておめでとうございます。今年も湿潤治療へのご理解,ご支援,よろしくお願い申し上げます。
- 往年のフランス映画の魅力を見事に現代に甦らせた大傑作映画,《あるいは裏切りという名の犬 36 QUAI DES ORFEVRES》について。
- 次なる読書ターゲットは『迷走する物理学 -ストリング理論の栄光と挫折,新たなる道を求めて』(リー・スモーリン,ランダムハウス講談社)の予定。「超ひも理論」が提唱された後,新たな物理理論や物理学上の発見が全くないのはなぜか,超ひも理論が提唱されて25年経つのに,それを検証する実験に誰も成功していないのはなぜか・・・というあたりについて書いてある本のようです。