《男たちの挽歌》シリーズなどで有名な香港映画監督のツイ・ハークがハリウッドに進出して作った最初の映画とのこと。ま,一言でいえば,面白ければなんだっていいじゃん,という雰囲気満載のアクション映画。ストーリーはいたるところで穴だらけ,説明不足だらけなんだけど,ここまで楽しませてくれれば許しちゃいましょう。まだ見たことがないなら,暇つぶしには最高でしょう。
ちなみに,主人公の元CIA工作員を演じるのはヴァン・ダム,それを助けるちょっといかれた武器商人にアメリカ・プロバスケットボールNBAの問題児デニス・ロッドマン,そして敵役のスタブロスにはミッキー・ロークとチョイ豪華な顔ぶれが並んでいて,華麗なアクションで楽しませてくれます。
ストーリーはこんな感じ。
CIAの凄腕だったジャック・クインは仕事から引退し,美しい妻と二人暮し。もうすぐ生まれる子供の誕生を楽しみに待っていた。しかし,そんな彼に凶悪なテロリストのスタブロスを最もよく知る男として,スタブロス逮捕のために仕事に復帰するよう指令が下される。そして,遊園地に彼が姿を見せるという情報が入り待ち伏せていたが,姿を現したスタブロスに照準を合わすと,彼は(恐らくそれまで会えなかった)息子に会っていたのだった。その姿に感情を揺さぶられたクインは狙撃のタイミングを失い,CIAは多数に犠牲者を出し,スタブロスに逃げられてしまう。しかしこの銃撃戦の最中,スタブロスの息子も犠牲になってしまう。
この銃撃戦で怪我を負ったクインは気がつくと脱出不能の無人島に監禁されていた。そこは引退した工作員やスパイたちが集められていて,テロ活動の情報分析の仕事をしていた。しかし,スタブロスが妻と生まれてくる子供を狙っていることを知ったクインは,その島から脱出し,妻の元に向かう。しかしそこにはスタブロスの周到な罠を張り巡らされていた・・・というお話。
こうやってストーリーを要約すると,なんだかよくわからないと思う。見ているときは,あれよ,あれよと言う間に話がスピーディーに話が進むために気がつきにくいのだが,あとになってストーリーを反芻すると前後関係がよくわからなかったり,超ご都合主義なところばかりなのだ。ま,そういうのに気付かせずに最後まで見せちゃうのが監督の力量というか,豪腕ぶりなんだけどね。
いいところは,格闘シーンが普通に素晴らしい点。これまで散々,香港アクション映画,カンフー映画を見てきた後だとさすがに食傷気味という気もするが,それでも飽きずに見られたのでよしとしましょう。
ロッドマンのいかれたヘアスタイル,変な服装も彼だと変に見えないのはさすがという感じ。スポーツマンだけあって,格闘シーンもしっかりしていて,クインが絶体絶命の時には必ず格好よく助けに入り,この映画で一番美味しい役柄を楽しんでいるようだ。そしてさらにすごいのはミッキー・ローク。完璧逆三角形に鍛え上げた肉体でボクシング・格闘シーンはかなりの迫力。そして有名な「ミッキーの猫パンチ」も健在!
無人島に閉じ込められているクインが脱出のために体を鍛え直し,身の回りの日用品を使って脱出のための道具を工夫し,さらに,指紋照合システムを騙すギミックまでまで作り出すところも面白い。特に,バスタブまで使ってトレーニングするなんて,よく考えたなと思う。
それから,修道院の地下室に導入されているハイテクコンピュータシステムも面白かった。ローマ法王庁が過去1000年以上にわたって集めてきたさまざまな情報をコンピュータ管理しているというのはいかにもありうる感じ。修道士たちがコンピュータを操っている様は,ちょっとシュールで笑える。
こういう映画にツッコミを入れるのは野暮かもしれないけど,どうしても気になるところをちょっと指摘する。
まず,スタブロスが子供を殺され,それでクインの妻と生まれてくる赤ん坊を狙うという部分が映画の中では十分に説明されていない。見ているほうが,なんとなくそうなんだろうな,と類推するだけである。このあたりの描写がないため,クインの妻(彫刻家だったかな?)を騙してローマに誘い込むスタブロスの意図が途中まで不明というか,その心理的サスペンスが見ている側に伝わってこない。やはり,こういうアクション主体の映画なんだから,このあたりは明確に説明してほしかった。
それと,スタブロスの子供が死んでしまう遊園地での銃撃戦のシーンも,迫力はあるんだけど誰が誰を撃っているのかがわかりにくいのも惜しかった。待ち伏せしている方もスタブロス護衛側も,遊園地のピエロなどの格好をしているためだ。設定上,しょうがないのかもしれないが,もうちょっと見せる工夫が必要だったかも。
それと,脱出不可能な無人島にスパイや工作員を集めて,何をしようとしていたのかもよくわからない。全員,死んだことになっている連中ばかりで,しかもクインとかつて敵だった男まで集められているのだ。
どうやら,新たなテロが起きたときに,その事件の背景に何があるのかを分析したりしているのだが,そのために彼らを無人島に集め,さらに,その無人島が外から見つけられないように電波妨害システムを完備し,おまけに,島から脱出できないように水中レーザーを張り巡らせているわけらしい。だが,そこまで金をかけて,何をしたかったのだろうか。もちろん,そこから脱出するクインの華麗な手口はお見事なので,「こんな絶対に脱出不可能な島からどうやって脱走するのか」を単に撮影したかっただけなのかもしれないが,ストーリー全体の中では明らかにここだけ浮いている。さらに,この島に集められている一癖もふた癖もある連中にしても,そのあとの展開には全く絡んでこないのである。
そういえば,スタブロスがクインに「妻を狙っている」というメッセージを出す部分だが,クインがそのメッセージに気がついたのはいいとしても,銃撃戦で死んだと発表されているクインがまだ生きていて,しかも,テロ事件の分析の仕事をしているということを,どうやってスタブロスが知ったのかも謎。ここは明らかに説明不足というか,説明のし忘れだろうと思う。
最初の遊園地でトラが登場し,最後のあのシーンでもまた登場するが,何でいきなりトラ? ま,確かに,トラとの格闘シーンは見てみたいという気もするが,トラ相手に素手でまともに戦って勝てる奴なんていないわけで,ちょっと無理やりな感が・・・。それにしても,何でトラ? 中国だから?
ハリウッド・アクション映画のいいところと,香港アクション映画のいいところがもうちょっと上手く組み合わさったら,すごい傑作になっていたんだろうけどね。
(2008/01/18)