《ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ 
Lock, Stock & Two Smoking Barrels》 
(1998年,イギリス)


 私,好きだな,この映画。おもちゃ箱をひっくり返したような,とって付けたような超テキトーなストーリー展開なんだけど,最後の最後に全てのエピソードが見事に収束する力技がすごいぞ。ここまで見事だと感動するしかない。気の効いた会話といい,テンポのいい展開といい,圧倒的な面白さだった。

 ちなみに,この長いタイトルは古い英語の表現が元になっていて,"Lock, Stock and Barrel" は「照準をロックして,構えて,発射準備もよし!」という意味で,「何でもかんでも全部」ということになるんだとか。この映画では,それに「漂う硝煙が二つ」加わるんだけど,この二つが何かは見てのお楽しみ。


 ストーリーは要約するのは簡単。舞台はロンドンの下町,男4人の仲良しグループがあって,皆で出し合った10万ポンドでギャンブルをして一儲けをたくらむんだけど,イカサマで全額を巻き上げられちゃう。それどころか,ギャンブルの元締めの策略で25万ポンドという多額の借金を背負わされてしまう。しかも返済期限は1週間後で,それまでに25万ポンドを耳を揃えて返さないと指を切り落とされてしまうのだ。かといって,4人揃えて逆さに振ってもは鼻血もでないのである。まさに絶体絶命だ。

 ところが,主人公が住んでいるアパートの薄い壁を通して隣からなにやら不穏な話が聞こえてくる。マリファナ栽培をしている大学生グループががぼろ儲けをしているから,彼らの大金とマリファナをごっそりいただいちまおうぜ,というヤバイ相談をしているのだ。何のことはない,アパートの隣人はギャング一味だったのだ。それなら俺たちは,大学生グループを襲った隣のギャングの皆さんが帰ってきたところを隠れて待ち構え,マリファナの束と大金をそっくり頂いてやろう,どちらにしたって違法な金だから警察に訴えることもないだろうし・・・と計画するのだ。そして計画はうまくいき,見事に大金と大量のマリファナを手に入れる。これで借金を返してもまだ手元には大金が残るはずだった。ところが・・・という映画。


 とにかく,最初の50分くらいまでは,何がなんだかよくわからないと思う。短いエピソードが次々と示され,次々と新しい人間が登場するからだ。誰が重要人物なのかもよくわからず,有名俳優がいるわけでもないため,俳優さんの顔と配役を覚えるだけで一苦労だった。だが,「強奪犯人からの強奪」のあたりからそれぞれの役割が明確になっていき,ジグソーパズルの欠けていたピースが一つ,また一つと明らかになっていき,次第に全体像が見えてくる。だが,最後の結末をどうつけるのか,それだけがわからない。そして,あの結末! なるほどね,こうでなくっちゃね。ここで "two smoking barrels" が再登場するわけか。うまいなぁ。

 人間関係のもつれた絡み方も唸ってしまう。ギャンブルと違法行為の元締めをしているハリーと彼の手下の冷酷な男,ハリーに雇われている子連れの借金取り,マリファナを栽培する4人組,それを横取りしようとする4人組ギャング,マリファナ売買の元締めのカリブ系の男,そのマリファナ元締めに盗んだマリファナを売り込もうとする何でも屋,骨董品の散弾銃を売ろうとする貴族と,そこに押し入って銃を盗み,価値もわからずに安値で売ってしまうこそ泥・・・など,まともな奴がほとんどいないのだ。そんな奴らが悪事を働くんだけど,各々の行動がちょっとづつ重なり合っているのに,誰も全体像がわかっていないため,ハチャメチャの大騒動になってしまうのだ。しかも,どいつもこいつもワルばっかりなんだけど,どこかが抜けていてドジなんだ。そのドジさ加減がまたいい味付けになっている。最終的に,あの大金が誰の手に渡るのか,25万ポンドの借金が払えるのか,という話なんだけど,最後まで一転,二転するから目が離せないんだよね。しかも,最後になるほど緊張感が高まるし・・・。


 ゴチャゴチャと登場する人物全てに役割が振り当てられていて,意味のない登場人物が一人もいなかったのもよかったな。特に,唯一の女性登場人物といってもいいラリっているお姉ちゃんはあまり登場シーンがなく,どうせどっかでオッパイシーンになるんだろうとタカをくくっていたら,なんとあの場面でマシンガンを乱射するんだよ。そうか,君はこのシーンのためにラリっていたのね。確かに,ここで君が撃たなきゃ,物語は収束しないよな。納得しました。

 それと,最初の頃に登場する火だるまの男。何がなんだか判らないシーンなんだけど,中盤,謎が明かされます。消火器があそこに置かれていた理由もよくわかりました。

 あと,音楽の使い方も秀逸でした。特に,チターが哀愁のメロディーを奏でるシーンには大笑い。

 加えて,有名俳優は出演していないんだけど,各々,面構えがよくて,特に中年以降のおじさん,おじいちゃんがいい味を出していました。中でも,子連れ借金取りが「子連れ狼」みたいで格好よくて,マヌケな犯罪者ばかり登場するこの映画で唯一のプロなんだけど,一緒に連れて歩く子供に,車に乗ったらシートベルトを閉めろとか,汚い言葉を吐くなとか,いっぱしの教育親父なんだよ。そのギャップが微笑ましくもおかしいんだよね。しかも最後には,高級車を手に入れて息子と走り去っちゃうし・・・。


 そういうわけで,この映画は超おススメ! 絶対に見て損はしないよ。

(2008/01/02)

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