《12モンキーズ》★★(1995年,アメリカ)


 かなり込み入ったストーリーのタイムトラベル物。謎解きが小出しに,順序バラバラに明かされていくため,全体像が最後まで掴みにくい。評価する人は大傑作と評価している作品だが,ちょっと懲りすぎじゃないかなぁ,なんだかなぁ,という評価を下す人もまた多いようだ。
 屁理屈好きの私としては,多分,基本的な設定のところで甘い映画だと評価する。面白いには面白いのだが,タイムトラベルにつき物のタイム・パラドックスを回避することに最大限の注意を払うために全エネルギーを使い果たしてしまったらしく,肝心の2035年の未来社会の描写がまるでダメな点が最悪である。

 一言で言えば,複雑なタイムトラベル物,複雑怪奇に込み入ったストーリーの映画が好きな人にはお勧め,暇つぶしに面白い映画でもないかなという人にはお勧めしません。


 ストーリーはこんな感じ。

 1996年に地球各地に謎のウイルスが発生し,全人類の99%が死滅し,地上は動物たちに占領され,人間は地価社会に生き延びていた。2035年,タイムマシン(みたいなの)を完成させた人間たちは,一人の囚人,コールに1996年の世界に戻り,ウイルス発生の原因を突き止め,ウイルスを手に入れるように命令する。ウイルスが発生したという過去の事実は変えられなくても,ウイルスさえ手に入れば有効な治療方法がわかるから,というのがその理由だった。しかし,コールが送り込まれたのはその6年前,つまり1990年であり,異常な言動を繰り返すコールは精神異常として精神病院に送られ,そこで謎の男,ジェフリーと出会う。その後いろいろあって,コールは1996年に再度送り込まれ,そこでジェフリー一味が「12匹のサル」という組織を作って動物実験反対運動をしていて,実はウイルスをばら撒いた首謀者らしいことが次第に明らかになる・・・という感じになる。


 まずこの映画の一番ダメなところは,前述のように2035年の地球がどうなっているかの説明がムチャクチャなこと。1996年の人類大絶滅で,全世界で1%(ってことは6000万人だな)しか生き残っていないという設定はいいとしよう。だが,タイムマシンを設計するくらいの科学技術はあり(少なくとも,1996年の地球の科学よりはかなりの進歩である),それを完成させるだけの工業も社会も維持されていると考えるしかない。
 そうなると,少なくともタイムマシンを作るための電気や通信技術,そしてタイムマシンを開発した人たちは生活できているわけで,そうなると研究に専念しても生活できるだけの水道やガスやごみ収集といった社会のライフラインは維持されていることになる。ところがこの映画の説明によると,外は猛獣が濶歩し支配していて,人間は地下にもぐっているというのだ。オイオイ,地下世界を維持している電気を作るための原油はどこから,どうやって,誰が運んでいるんだよ。

 っていうか,タイムマシンくらい作れるなら,まず地表に出られるんではないか,と誰しも思わないだろうか。外の世界がウイルスで汚染されているとはいえ放射能汚染じゃないんだから,タイムマシンが作れるのなら,囚人を過去に送り込む暇があったらまずその技術を外の社会に使ったらいいのに,という不自然さは一番最初に感じた。

 というか,タイムマシンが作れるんなら,ウイルスの合成なんて朝飯前だろうし,抗体なんてすぐに作れるんじゃないでしょうか。囚人を送り込んでウイルスを持ってきてもらう,なんて回りくどいことをする必要があったんだろうか。少なくとも,ウイルスを作るよりタイムマシンを作るほうが比べ物にならないほど難しいと思うよ。

 あと,コールとコールを助ける精神科の女医さんが1996年の社会のスラムみたいなところに入り込むエピソードがあるけど,あれは2035年のスラムと間違っていない? 何が何でも1996年のアメリカであの光景はないでしょう。


 それと,女医さんが何度も「私は以前,彼(コール)に会っているわ」と繰り返し,のちに1917年の第一次大戦の戦場に間違って(?)送られたコールが銃弾で傷つき,その様子を写した一枚の写真があって,彼女はその写真を見た記憶があり・・・と説明されるんだけど,これは常識的に考えると不可能でしょう。何しろ写真といっても80年前の写真である。それに写っている一つの顔を覚えていて,それが目の前と同一人物だって気がつきますかね? 第一,そういう写真は数百枚,数千枚あるわけで,このような説明で押し通すなら,なぜその一枚が記憶に残っているのかを説明してくれなければ困るのだ。

 さらに,事件の重要人物,ジェフリーとコールとの出会いもなんだかなぁ。間違って1990年に送られたコールが,訳のわかんないことばかり話すので精神病院送りにあって,というのはいいとしても,そこにジェフリーという男がたまたまいて・・・となるのは,偶然にしても出来過ぎ。精神病院がアメリカに一体いくつあると思う? しかもその病院には,第一次大戦のたった一枚コールが写っている写真を記憶にとどめている女医さんも勤めているわけですよね。いくらなんでも都合よすぎ!

 それと,「12匹のサル」たちが企てている計画が最後に明らかになるんだけど,あの程度のことをするために父親を拉致・監禁するのはやりすぎというか,やって得られる結果と,負わなければいけないリスクのバランスが悪すぎる。まぁ,ジェフリーが完全にいかれていて,そういう判断もつかなくなったのだという説明はありかもしれないが,その他の11人が全員,このジェフリーのおふざけに付き合ったとするのはちょっと説明が苦しい気がする。このあたりの説明は全くなかった。

 バランスが悪いといえば,途中で何度も登場する「古井戸に落ちた子供の救出報道」も,その後で小道具の一つとわかるんだけど,事件そのものとしてはあまりに小物過ぎて全体から見てのバランスが悪いなぁ,と思うのである。
 もちろん,コールがこの事件の結末(つまり未来の出来事)を知っていて・・・という証拠になるのだが,この事件が起きた当時のコールはどう見ても7,8歳くらいである。なぜコールがこの事件を詳細に記憶していたんだろうか。そのあたりの説明も皆無だった。


 これがもしも,お気楽ファンタジー系のタイムトラベル物だったらこんなに突っ込まないのだが,何しろこの映画は本格派感動映画を目指して作られたものなのだ。だったら,上述のような「基本部分での雑な作り」は致命的とはいわないまでも,やはり欠点だと思うのだ。

(2008/01/04)

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