《ブラック・ダリア THE BLACK DAHLIA》 (2006年,アメリカ)


 多分,すごく金と手間をかけて作られた駄作映画。原作はエルロイの同名長編サスペンスで大昔に読んだことがある,ということは記憶しているんだけど,どういう内容だったかは全然覚えていない。

 で,それを映画化したのがこの作品。2時間弱の映画なんだけど,最初の70分くらいはゆったりモードというか,物語が全然進展しないというか,一体どっちの方向に進んでいるのかが全くわからず,この映画のメインテーマは何なんだろう,と途方に暮れ始めた頃,ゴチャゴチャに錯綜した人間関係がさらに複雑に絡みだし,最後の10分で全ての真相が一挙に明らかになるのだ。とは言っても,最後の最後になっても「それで結局,この映画の真相って何だったの? 誰が誰を殺したの? 誰が何のために殺したの?」という疑問が解消されないんじゃないだろうか。登場人物の関係を詳細にメモでもしておかないと,真相はわかりにくいと思う。

 もしかしたら監督のデ・パルマは3時間映画のつもりで撮影を始め,思い入れたっぷりにゆったりと各場面を撮影し,その後,実はこの映画は110分映画だということに気がつき,しょうがないので最後の10分間に1時間分の内容を詰め込んだんじゃないだろうか。そうとしか思えない手際の悪さなのだ。

 映像は美しいし,印象的な場面は多いし,一癖も二癖もある登場人物が多いし,スカーレット・ヨハンソンをはじめ美人女優さんが出ているから,深く考えずに見れば楽しめるのかもしれないが,サスペンス映画として見たら穴だらけなので,普通の映画ファンにはお勧めしない。


 一応,ストーリーを紹介。

 舞台は1947年のアメリカ。ロサンゼルスで女優の卵の惨殺事件が起きる。胴体は真っ二つにされて両側口角は耳まで切り裂かれ,内臓が抜かれていた。彼女は漆黒の髪をしていて,マスコミは彼女を「ブラック・ダリア」と呼んだ。この事件の捜査に当たるのは,元ボクサーの経歴を持つ二人の名物刑事,リーとバッキーだった。リーには若くて美しいガールフレンドのケイがいたが,彼はブラックダリア事件に異常にのめり込み,ケイとの生活は次第に破綻していく。一方,リーがかつて逮捕し,彼に恨みを持つ男の釈放の日が近づいた。リーの相棒,バッキーも捜査の過程でハリウッドの超セレブ一家と知り合いになるが,その家にも何か秘密があるようだった。なぜリーはブラックダリア事件に異常にこだわるのか,超セレブ一家の秘密とは何か,リーとケイに過去何があったのか・・・などの幾つもの謎が複雑に絡み合い,そしてついに事件の真相が・・・という映画だ。


 実は,この要約を書くだけでもかなり苦労した。「ブラック・ダリア事件」は一応メインテーマなのだが,それ以外のエピソードが多すぎ,しかも全てがこの事件に絡んでいて,無関係なエピソードがほとんどないからだ。多分,リーとケイの過去とか,男の釈放の話とか,最初のボクシングのシーンとかは全て削除し,ブラック・ダリア事件を追う二人の刑事の物語にすべきだったのだ。そうすれば,すっきりした2時間映画になったのに,と思う。

 例えば冒頭のリーとバッキーのボクシングシーンは時代の雰囲気を見事に伝えているし,二人の人間関係を説明する上で効果的なのだが,二人がボクサーだったことはその後の展開ではほとんど無関係である。"Fire & Ice" という格好いいフレーズを落としたくなかったのかもしれないが,そのために10分を費やすのは映画としてバランスが悪すぎる。

 また,人間関係もゴチャゴチャしすぎ。もちろん,原作はそうなっているのかもしれないが,2時間映画ですべてを説明し,納得させるのは不可能だ。このあたりは明らかに計算違いだと思う。

 そして,この映画最大の過ちは,ブラック・ダリア事件の被害者であるエリザベスと○○が全然似ていないことだ。なぜなら,この事件を煎じ詰めると,○○とエリザベスが瓜二つだった,という一点に集結するわけで,両者が似ていないことには映画そのものが成立しないからだ。ましてこれは小説でなく映画である。つまり,映像が全てなのだ。
 二人が瓜二つというのであれば,一人二役にすべきなのに,なぜわざわざ,似ていない女優を二人使ったのだろうか。何しろこの二人,似ているのは髪が黒いという一点のみなのだ。


 そのほかにもいろいろな疑問が残っているので,面倒くさいので箇条書きにしてみた。


 この映画とは別に,この「ブラック・ダリア事件」は発生当時から有名な事件で,「世界一有名な死体」といわれていたが,なぜこの程度の事件がそれほど話題になったのかが理解できない。超セレブ一家がこれに絡んでいれば話題になると思うが,この事件が発生した直後では単なる若い白人女性の惨殺事件に過ぎず,セレブ一家の関与はすべてが解明されてから明らかになったはずだ。それなのに,なぜこの程度の事件がそれほど有名になったのだろうか。このあたりもなんだかすっきりしないのだ。

(2008/01/29)

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