「切断指のアルミホイル療法」について以前にもちょっと書いたが,被覆材による治療との違いについてまとめてみる。
ちなみに「アルミホイル法」とは今から10年位前(もうちょっと前かも・・・)に提唱された切断指,指尖部損傷に対する保存的治療法である。オリジナルの治療法は「創面を消毒し,イソジンゲルを創面に塗布したあとに,アルミホイルで患指を包み,その上からガーゼをあてて包帯」となっている。
また,その治療原理についても「創面からの浸出液で湿潤に保つことで,良好な創治癒が得られる」と説明してあったと思う。恐らく,最も早い時期に提唱された「外傷の湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)」であろう。
もちろんこれは立派な湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)だから,従来からの保存的治療(切断面を消毒してガーゼと軟膏)よりは格段に早い治癒が得られるのは事実である。しかし,上記の治療法を見てもわかるとおり,上記の方法が全て正しいというわけではないし,被覆材を使った治療に比べると欠点が多い。
特に「消毒してイソジンゲル」というところはもちろん,全く意味がないというか,しない方がいい。実際にこの方法で治療を受けた患者に聞いてみると,この消毒薬による痛みがかなり強いということである。
この痛みはアルミホイル法で治療を受けている時は当然の事として我慢していたものだが,被覆材の治療に切り替えたとたん,痛みが全く消失することでそれまでの治療に痛みがあったことに気が付くようだ。
そして,被覆材による湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)とアルミホイル法の最大の違いは,浸出液の問題である。通常のアルミホイル法で治療を受けた指を見ていると,アルミホイルで巻いたほとんど全長にわたり,皮膚が浸軟している。もちろん,浸軟した事で皮膚に大きな傷害があるわけではないが,患者本人にとってはこれはかなり不愉快である。
また,漏れ出る浸出液(これがかなり多い)に対処するため,どうしてもガーゼを厚くせざるを得ず,指も使いにくくなる。従って,患者本人にしてみれば,従来の治療よりはいいとは言うものの,決して不自由がないわけでないし,快適な「治療ライフ」をおくれるわけでもないのである。
アルミホイル法に付きまとうこれらの不自由さ,不愉快さは,もっとよい治療法と比較して,初めて気がつくものだ。
アルミホイル法と比較して,被覆材による指尖部損傷治療の最大の利点は,痛みがない事と浸出液の不快さがない事,そして怪我をした指を比較的自由に使える事である。これは上述のように,治療をアルミホイル法から被覆材に切り替えるとその差は歴然としている。
ためしに患者に「以前のアルミホイルに戻す?」と尋ねると,皆,それだけは勘弁してくれと言うのが何よりの証拠だ。
このように,アルミホイル法はそれまでの治療に比べると非常に良い治療である事は確かだが,消毒薬を使っている点では過去の治療法を引きずっているし,浸出液や痛みを解決できていない点では,やはり過渡期の治療であり,歴史的使命はもう終わっているのではないかと思う。
もしも私の身の回りの人が指先を怪我したら,アルミホイル法は絶対にしないと思う。イソジンゲルを創面に塗布,なんていう野蛮な行為なんか,絶対にしたくない。
もしも手近に被覆材がなかったら? もちろん,食品包装用ラップと白色ワセリンで十分です。
(2003/02/15)