家庭でできる湿潤療法(あるいは,うるおい療法,閉鎖療法)


 「傷を消毒しない」「ガーゼでなく被覆材で密封する」治療がどれほど有用かは,これで大体ご理解いただけたと思う。理論的にもこれが唯一正しい治療法であり,「消毒とガーゼ」は19世後半から盲信されてきた誤った治療法である。

 問題は,この治療法を理解し,実行に移している医者が極めて少ないこと。特に創傷被覆材については,病院でしか入手できないし,しかもその病院でもほとんど褥瘡(床ずれ)にしか使われていないと思う。私のように新鮮外傷に積極的に使っている医者は,全国で100人いるのだろうか?

 つまり,このサイトで正しい知識を患者さんが得ても,医者の方が全く無知である確率の方が遥かに高いのである。しかもそういう不勉強な医者ほど,自分の無知を指摘されると怒り狂ったりするもんだから,「先生,傷を消毒しないで下さい」なんて言おうもんなら,喧嘩になるのが目に見えている。とにかく,大多数の医者にとって「傷は消毒するもの」と頭から決め付けているし,それ以外の考え方があるなんて,想像もできないことなのである。

 というわけで,全ての医者にこういう知識が行き渡るには,もう20年はかかるんじゃないだろうか?


 当分の間,医者があてにできないとすればどうするか?

 患者さんが自ら実行すればいいのである。使うのは「食品包装用ラップ」と絆創膏,包帯だけ。つまり,主役はサ○ンラップ,ク○ラップなどです。


 具体的な方法は次のようになります。

  1. 出血していたら圧迫止血。あるいはアルギン酸付きキズ絆創膏で止血。
  2. 傷周囲の汚れを水道水で湿らせたガーゼ,タオルで拭き取る。
  3. 創面にまで泥が付いていたら,歯を食いしばってシャワーで洗いましょう。頑張ってね。
  4. 創面よりかなり大き目に切った「食品包装用ラップ」を創面にあて(もしも白色ワセリンがあったら,ラップ表面にたっぷり塗りましょう)
  5. ラップの四辺を絆創膏で固定し,傷が深い場合はラップの上をタオルなどで覆い(深くない傷ならタオルは不要)
  6. 包帯を巻く。

 ラップはあくまでも「創面の乾燥」を防ぐものですから,大きさをケチると効果がありません。

 最初のうちは一日1〜2回,「傷を洗ってはラップを取り替える」を繰り返してください。はじめのうちは傷はジュクジュクしていますが,次第に浸出液が少なくなり,速ければ3〜4日くらいできれいな皮膚が再生するはずです。とにかく大事なのは,「傷を消毒しないこと」「傷を絶対に乾かさないこと」だけです。
 洗うのは水道水で十分ですが,3日目くらいになると石鹸をつけて洗っても問題ありません。3日もすると,洗ってもほとんど痛みはなくなるはずです。

 医療用の被覆材は5日くらい張りっぱなしでも大丈夫ですが,家庭用のラップの場合,水分透過性が全くないため,長い時間張りっぱなしにしているとアセモができて,ちょっと不愉快かもしれませんので,最初のうちは一日2回くらい取り替えたほうがいいようです。特に真夏ではアセモ(汗疹)ができやすいので,汗をかきやすい部位では頻回に取り替えた方が安全です。

 ちなみにサ○ンラップとク○ラップでは,サ○ンラップの方が柔らかくて使いやすいです。ク○ラップは多少硬いため,創への密着性があまりよくありません。

 密封していると当然,汗臭いような匂いがしてきますが,これは心配ありません。洗えばきれいに落ちます。


 その後,この治療法を実行したら,びっくりするほど早く,きれいにキズが治ったよ,という報告が来ておりますので,これらもご覧下さい。

(2003/02/12)

左側にフレームが表示されない場合は,ここをクリックしてください