断端形成術というともちろん,指尖部損傷,指切断に対し,傷をふさぐ目的で最も多く行われている治療だ。しかし,湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)を行っていると,どうも断端形成術はしなくてもいいのではないか,という気がしてくる。どうしても速く傷を治さないといけない,という場合にはすべきかもしれないが,「多少時間がかかっても,痛くなく治療できる方がいい」と考えている大多数の患者さんにとっては湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)の方がよりよい選択ではないかと思う。
事実,私はこの6年くらい,切断指や指尖部損傷に対し,断端形成はほとんどしていない。その結果を見ると,断端形成をしたほうがよかったな,と思った症例は一例もないし,患者さんの満足度も高い。
このあたりのことを,実際の症例を提示して考えてみる。
症例は70代後半の男性。電動のこぎりで木を切っていて受傷。左環指末節部の切断,中指基節部の裂挫傷を受傷を認めた。
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さてこの症例に断端形成すると,どのレベルまで短縮することになるだろうか。受傷時の写真には写っていないが,環指末節基部尺側に残っている皮膚もズタズタであり,これで創面を覆うのは不可能である。となると,DIP関節での関節離断でも足りず,中節骨の骨頭を落とさなければ,安全に断端形成することは不可能だろう。
しかしこの症例の場合,最終的に骨の短縮は5ミリ程度であった。つまり,断端形成術をするより湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)の方が指は長く残せるのだ。いくら高齢者といえども,指は長く残っていて欲しいと思うのが人情だろう。
形成外科,あるいは手の外科の世界では,指尖部損傷,指尖部切断に対しては,さまざまな局所皮弁を駆使し,いかにして指を長く残すかを努力している。私もかつて,いろいろな方法を実行して満たし,ちょっとした工夫を付け加えた術式を開発して地方会などで発表したこともあった。
しかし,こういう湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)を行ってみてから振り返ってみると,あの華麗な局所皮弁の世界で患者さんは本当に満足していたのか,ちょっと疑問に思っている。確かにきれいな指尖部を手術で再建できた時は私も満足だったし,患者さんも満足だったと思う。しかし,ちょっとした皮弁のデザインの違いで縫合創縁が壊死することもあったし,何よりその指には長大な手術瘢痕が残ることは避けられないのだ。あの長大な傷,患者さんは本当に納得していたのか,今となっては確かめようはない。
ましてや現実的には,切断指や指尖部損傷を断端形成する医者が全て,手の外科の知識を持っているわけではなく,その外科医の知識と技量によっては,過剰に骨が短くされている例もあるだろうし,創縁壊死で傷が治らず(・・・しかも消毒されているともっと治らない!),長期間の通院を余儀なくされている患者さんも結構多いのではないだろうか。
そう考えると,指尖部損傷や指切断(もちろん,再接着術ができないものね)に対しては,まず湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)を行ってみるべきであり,安易に断端形成術を行うべきではないと思う。むしろ,断端形成術は過去の手術とされるべきであり,その適応は厳しく制限されるべきだと考える。
なお,「アルミホイル法」では駄目か,という質問もよく受けるが,実際に治療してみるとこれは絶対に被覆材を使った方がいいと思う。被覆材が浸出液のコントロールを行ってくれるため,患者さんの快適度が違うのだ。また,ポリウレタンフォームのように厚みがある素材を使うと,「指先を間違えてぶつけても,それほど痛くない」というメリットもある。両者を比較してみると,アルミホイル法の長所は値段の安さだけであり,治療期間,疼痛対策,患者さんの快適さなどのほとんどの点で,被覆材による治療が勝っていると思う。
(2002/11/16)