創傷被覆材:各論


 傷口を覆うものを「創傷被覆材」と呼ぶが,ここでは特に,湿潤環境を提供して創治癒を促進するものを取り上げることにする。


1)ポリウレタンフィルム・ドレッシング材
 商品名でいうと,テガダーム(3M),オプサイトウンド(Smith & Nephew),IV3000(Smith & Nepnew),バイオクルーシブ(Johnson & Johnson)などがある。

 片面が粘着面となっている透明なフィルムで,水蒸気や酸素が透過でき,中が蒸れないようになっている。
 出血を伴わない創面,浅い褥瘡(発赤のみ),あるいは水疱の保護,褥瘡の予防などに使われるが,新鮮外傷の治療では単独使用より,後述するアルギン酸塩被覆材やハイドロジェルの密封用に極めて有用。
 また,直接創面に使用することを前提にしていないものとして,フレキシフィックス(Smith & Nephew)という「未滅菌,ロール状」のフィルムもある。未滅菌であるためかなり安価であり,固定用の素材としては非常に有用である(・・・もちろん,創面に使用しても問題は生じるはずがなく,個人の責任で創面に使用する分には,全く問題がない)


2)ハイドロコロイド・ドレッシング材

 商品名ではデュオアクティブ(Convatec),コムフィール(コロプラスト),テガソーブ(3M),アブソキュア(日東メディカル)などがある。

 シート状になっていて,外側が防水層,内側が親水性コロイド粒子を含む粘着面になっている。
 大きさ,形はさまざまであり,厚さも,写真上のようにポリウレタンフォームを用いてクッション性を持たせた厚いもの(デュオアクティブCGF)や,写真下のように非常に薄くしなやかなもの(デュオアクティブET)がある。
 通常はシート状のものが使われるが,ペースト状のもの(コムフィール・ペースト),顆粒状のもの(デュオアクティブ顆粒)もあり,これらは陥凹した創やポケット形成をした褥瘡に使われる。

 外側の防水層により外気から遮断されるため,特に仙骨部褥瘡では尿便失禁などから創面を保護することができる。
 内側の親水性コロイド粒子は浸出液を吸収することで湿潤したゲルとなり,この湿潤環境が肉芽増生,上皮細胞の移動に最適の環境を提供する。なお,外気中の酸素を遮断するため,代償的に創部の毛細血管形成が促進されることになる。

 創面のコロイド粒子がゲル化するため,創面に癒着することはない。

 新鮮外傷での使用では,薄いデュオアクティブが非常に有用。特に顔面の擦過傷では,皮膚の色調との適合性が良く,目立たないという長所を持つ。また指のように円柱状の部位の皮膚欠損でも,薄いデュオアクティブはしなやかで創面に適合しやすく非常に使いやすい。

 面白い使い方として,「バンソウコウかぶれ」をして赤くなった部位に薄めのデュオアクティブを貼付し,その上にバンソウコウを張るとバンソウコウかぶれの症状をかなり緩和できる。皮膚の弱い患者さんのドレッシングにお悩みの方は,是非試して欲しい。

 そのほか,小児のSSSSの様に点滴固定部位に水疱があり,バンソウコウ固定に苦慮する場合でも,点滴刺入部の前後を挟むようにデュオアクティブETなどを貼付し,その上からバンソウコウ固定する,という使い方もできる。SSSSの症状が改善することには,貼付部も上皮化していることが多い。


3)ポリウレタンフォーム・ドレッシング材

 商品名ではハイドロサイト(Smith & Nephew)。

 写真の上が表側,下が創面側となる。一番外側が水分を通さないポリウレタンフィルム,一番内側が非固着性の薄いポリウレタンで,これらに厚い親水性吸収フォームが挟まれている。
 中層は高い吸水性を持ち,浸出液を吸収し,かつ適度の水分を保持し創面の湿潤環境を保つ。
 このため,浸出液の多い創面がよい適応となる。浸出液の多い褥瘡にハイドロコロイドを使用すると,すぐに溶けてしまい周囲の皮膚が過度に浸軟することがあるが,そういう場合は,ポリウレタンの方が使いやすい。

 また,ドレッシング材自体が溶けないため,創面にドレッシング材が残ることもなく取り扱いも非常に簡単であり,その意味で「初めて使う創傷被覆材」としては最適と思われる。

 新鮮外傷では全ての皮膚欠損創に使えるが,とりわけ威力を発揮するのは,指尖部損傷である。指尖部は通常でもぶつかりやすい部位だが,指尖部損傷での創部への打撃は通常,非常な痛みを伴う。しかしハイドロサイトで指尖部を覆うと,ドレッシング材自体に厚みとクッション性があるため,ぶつかった際の衝撃が弱まり,患者さんには非常に好評である。

 同様の理由で,爪甲抜去後の創傷をこれで覆うと,多少の浸出液・出血は吸い取ってくれるためにドレッシングを薄くでき,しかも疼痛がほとんどなくなり,10日程度で爪床はきれいに乾いてしまう。

 基本的にドレッシング材そのものに固着性がないため,バンソウコウなどでの固定が必要となるが,皮膚が極めて脆弱な老人で「水で濡らした障子紙を裂くように」皮膚が裂けてしまう場合は,バンソウコウの固定をせずに,包帯で巻くだけでも良い。


4)アルギン酸塩被覆材

 商品名ではカルトスタット(Convatec),ソーブサン(アルケア),アルゴダーム(メディコン),クラビオAG(クラレ)など。

 海草のコンブから抽出されたアルギン酸塩(ソーブサン,アルゴダームではカルシウム塩,カルトスタットではカルシウム塩とナトリウム塩の混合)を繊維状にして不織布にしたもの。
 アルギン酸は自重の15〜20倍の水分を吸収するが,浸出液などのナトリウムイオンを含む水分を吸収するとゲル化する。このゲルが創面の湿潤環境を保つことになる。

 また,極めて強力な止血効果を有することも特徴的。これは,ゲル化する際にカルシウムイオンを放出することによるもの。

 通常はフィルムドレッシング材で密封して使用する。

 幾つかの製品があるが,カルトスタットは線維が太く硬いためゲル化する率が低く崩れにくいが,ソーブサンは線維が細く柔らかいゲルになり,崩れやすいが,実際の使用では大きな差はないようだ。

 新鮮外傷に使用する場合,強力な止血作用は非常に有用。指尖部切断のように通常の圧迫ではなかなか止血しない場合でも,アルギン酸塩で被覆して密封し,患肢を数分間挙上するだけで,ほとんどの例で止血が得られる。
 筆者の経験では,
ワーファリン内服中の女性の指尖部損傷でも問題なく止血が得られているし,同様にワーファリン内服中の男性の鼻出血もアルギン酸塩の充填で程なく止血が得られている。これは手術などで使われる止血材料のどれと比較しても遜色ないものと思われる。
 当然,挫傷などで創面をブラッシングをした際の出血も,アルギン酸塩被覆材で十分対応可能である。

 以上のような特性から,この被覆材は「出血を伴う皮膚欠損創」には最適であり,受傷直後の処置はこれだけで十分だろう。

 なお,この被覆材が開発されるに至った歴史的背景も,なかなか興味深い。
 第2次大戦中,ドイツ軍のUボートに阻まれてアメリカからイギリスへの綿の輸出がストップしてしまい,傷口のドレッシングをする素材がなくなり,困ったイギリス軍が代用品として海草から線維から綿のようなものを作り,それを使ったのが発端らしい。
 要するに,代用品とした使ってみたら,本物も綿よりも速く傷が治るじゃないか,ということだったのだろう。もちろん,実際の製品となるにはそれから40年後になるわけだが・・・。


5)ハイドロジェル・ドレッシング材

 商品名ではジェリパーム(竹虎),ニュージェル(Johnson & Johnson),イントラサイト(Smith & Nephew),グラニュゲル(Convatec),クリアサイト(日本シグマックス)などがある。

 筆者の手に乗せている。一見すると「透明な軟膏」のように見えるが,これも立派な創傷被覆材。
 親水性ポリマー分子が架橋を作り,マトリックス構造をとり,その中に水分を含んでいる。

 いろいろな製品があるが,ポリマーの種類が違ったり,増粘剤が加えられていたり,水分量が製品ごとに違っている。水分量も97%というものから60%程度のものまでさまざまある。

 通常は,フィルムドレッシングで密封して利用する。

 この被覆材が最も効果を発揮するのは「乾燥気味の開放創」,すなわち浸出液が少ない創面である。
 骨皮質が露出している創は通常,被覆材だけではなかなか肉芽が上がらないことが多いが,このハイドロジェルで創を充填し,フィルムドレッシングしたところ,早期に骨が肉芽で覆われたという経験がある。

 また,深い陥凹となっている開放創にも利用できる。このような組織欠損を伴っている創をこの被覆材で充填し,密封すると急速な肉芽増殖が起こり,陥凹がかなり早く肉芽で平坦化することはよく観察される。

 また,黒い痂皮が覆っている黒色期の褥瘡をこの被覆材で密封すると自己融解が早まり,デブリードマンしやすくなる。

 創周囲の皮膚が脆弱な場合,フィルムドレッシングでの密封が難しいが,この場合は,ジェルを直接ガーゼで覆っても十分効果があるようだ。


6)ハイドロポリマー

 商品名ではティエール(Johnson & Johnson)。

 写真右側が傷にあたる部分であるが,これは浸出液を吸収して浸出液の方向に向かって膨らむ(体積が増加する)という性質を持つハイドロポリマー吸収パッド(写真の右側のスポンジ状の部分がそれ)である。
 主成分は少量のアクリルポリマーを含む親水性ポリウレタンフォーム。

 従って,浸出液があると,その方向に向かって膨化することになる。つまり,陥凹した創にこの被覆材を使うとその陥凹した形に合わせて突出し,創面に柔らかくフィットすることになる。

 これは実際にハイドロポリマーに水道水を吸収させ,膨化させたところ。真ん中の写真でわかるように,かなりの高さまで膨れていることがわかる。
 水分を多く吸収させた部分はより高く膨化している。

 この被覆材の特徴は吸水能の高さにある。実際,浸出液の多い褥瘡に使用してみたが,かなり大きなものでも数日間張りっぱなしでよく,創処置の回数をかなり減らすことができた。

 手指全周の3度熱傷にハイドロポリマーを使用してみたが,非常にしなやかな素材であるため指を柔らかく包むことができ,しかも浸出液のコントロールも可能で好評だった。上皮化のスピードも他の被覆材と同等に速く,植皮のタイミングを逃すほどであった。

 さらに有効なのは,術後の創離開,皮弁壊死などに伴う広範で深い皮膚軟部組織欠損創である。これはいずれ,写真付きで報告する予定であるが,深さ5センチの腹部縫合創離開部が10日くらいで平坦になるほどの肉芽の盛り上がりであった。
 少なくともこのような創離開の症例では,浸出液の吸収能力も高いため,使いやすさと肉芽をあげる効果では他の被覆材に勝っているように思う。

 前述のように極めてしなやかであるため,踵や肘などにの突出部で使いやすいようだ。

 余談であるが,ハイドロポリマーの外側の接着部分もしなやかでバンソウコウまけも少ないような印象を持っている。これだけ売り出してもいいような気がするが・・・。

(2001/12/14)

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