アルギン酸塩被覆材は創を速く上皮化させる創傷被覆材としての効果のほかに,極めて強力な止血能力を持っていることは以前にも書いた。これは血液に触れると大量のカルシウムイオンを放出することによるが,これは動物実験でも確かめられていて,通常使われている手術用止血剤よりも強力である。私の経験した症例で,それを提示する。
一例はワーファリン内服を長年続けていた女性の指尖部損傷,もう一例は人工透析患者の指尖部損傷である。
言うまでもないワーファリンは「抗凝固剤」であり「血が固まらないよう」に使われる。従って,極めて止血しにくい(そりゃ,当たり前だって)。
一方の人工透析であるが,この場合も血液が固まるとシャントが詰まってしまうため,抗凝固剤をバンバン使っている。当然,出血すると止まりにくいのは当たり前。
しかも,指尖部損傷はそれでなくてもかなり激しく出血する傾向があり,止血に難渋することが少なくないはずだ。まして,ワーファリン内服,人工透析中となると,恐ろしく出血するし,圧迫したくらいでは止血してくれないのが普通。
そこで,アルギン酸塩被覆材の登場となる。実際の症例を見ていただければわかるとおり,極めて効果的に止血しているのだ。
症例1。95歳の女性。心房細動があり,70代の頃からワーファリン内服を続けている。折りたたみ椅子に右環指を挟み受傷。
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症例2。78歳の男性。10年前から週2回の人工透析を受けていて,透析から帰ったその日に包丁を使っていて手が滑り,受傷。直ちに当科を受診。以前,同じような怪我をしたとき,救急外来で止血に3時間を要したと言う。
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どちらの例も,受傷後2日目まではアルギン酸塩で密封し,それ以降はポリウレタンで被覆している。
こういうのを見ていると,術中止血材料としてアルギン酸塩が使えないのが,とても残念だ。何しろ,手術用止血剤より強力な止血効果を持ち,しかも値段は1/5程度と極めて安価。これを使わない手はないのだが,何しろ,「術中止血材料」として申請していないため,手術中に使えないのだ。
安くて強力な止血効果を持つ材料が,手術用に使えないのは極めて残念である。
(2002/09/21)