動物(人間)咬傷の治療


 動物咬傷や人間(マイク・タイソンとか)による咬傷は創感染がほぼ必発である。特に歯や牙が脂肪層に入っている場合,感染の危険性は極めて高くなる。そういう「咬傷」の治療について私見を述べる。


 なぜ,感染する率が高いかというと,

  1. 口腔内の細菌がこれが歯や牙を介して創深部に至るまで創内面を汚染する。
  2. 創は入り口が小さいため,創内部が閉鎖腔になり,ここが細菌増殖の場となる。

まぁ,こんなところであろう。


 咬傷に対し,私がしている治療法は次の通りである。

  1. Broad Spectrumの抗生剤投与はおそらく必要。
  2. 創の消毒,創内の洗浄は不要,意味が無い。
  3. ナイロン糸ドレナージ
  4. その上を吸収力のある材料で覆う。ハイドロサイトかプラスモイスト,あるいは紙オムツがベスト。
  5. 裂創でも縫合しない。

 要するに,細菌が創内に閉じ込められるから感染が起こるわけだから,細菌を外に導き出せばいい,といういつもながらの単純な発想だ。私は単純に,閉鎖腔にさえしなければ感染は怖くない,と思っている。いくら嫌気性菌がいても,好気性の条件にしてやればいいはずだ。

 創内を洗って細菌の絶対数を少なくする,という発想もあるだろうが,多分「机上の空論」であろう。

 受傷直後であればこれでいいと思うが,受傷後,ちょっと時間が経過した場合は,既に傷口(入口部)が閉じかけてくるため,局所麻酔下に入口部をちょっと広げ,確実にドレナージが効くようにしたほうがいいだろう。

 いずれにしても,確実にドレナージを効かすことが最優先されるべきであり,そのために必要であれば切開を加えるし,切開しなくても確実にドレナージできると判断されれば,無理して切開する必要はない。

 また従来から,嫌気性菌を除去するためにオキシドールで創内面を洗うなどの方法が行われてきたと思うが,これも全く無意味。


 創部の圧痛がなくなればドレナージ終了とし,プラスモイスト貼付のみでよい。

 顔面の咬傷の場合でも縫合しない方がいいようだ。縫合しなくても傷はきれいに治るし,縫合したことで感染が起こるとさらに傷が残るからだ。さらに,傷跡はいつでも修正できる。

(2010/10/14)