上腕部外傷性皮膚全層欠損の治療例


 外傷性皮膚欠損にさまざまな創傷被覆材が使えることを示してきましたが,ここでは一部筋膜に達する皮膚全層欠損に対し,ハイドロポリマーで治療した例を提示する。


 症例は74歳の男性。木に登っての枝切りの作業中,転落して木片が上腕外側に刺さり受傷。同日,当科を受信したが,創内に細かい木材変が混入していたため,局所麻酔下にこれを可能な限り除去したが,感染の危険性を否定しきれないため,創は縫合せずにガーゼドレーンのみの開放創とした。
 翌日,感染兆候が見られないことを確認し,ハイドロポリマーによる湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)を開始した。

 もちろん,全経過を通じて消毒は一切使っておらず,抗生剤の投与も受傷当日のみとした。軟膏などの補助的薬剤も使っていない。


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  1. 受傷時の状態。上腕外側に4×4cmの皮膚軟部組織欠損があり,創は一部で筋膜に達していた。
  2. 創周囲を水道水で洗浄し,ハイドロポリマーで被覆。翌日,創を観察したが感染兆候が見られないため,3日に1度の外来通院とし,ハイドロポリマーも3日間貼付を続けた。ハイドロポリマーの上にガーゼは不要で,軽く包帯を巻くだけで浸出液のコントロールも可能だった。
  3. 7日目の状態。創面全体がきれいな肉芽で覆われている。また,閉鎖開始時にあった皮下のポケット状の部分も,完全に閉鎖していた。
  4. 13日目の状態。直径1cmほどの肉芽を残すのみとなっている。
  5. 21日目の状態。完全に創は閉鎖している。


 湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)開始4日目から,入浴時に創部も一緒に洗うように指導。74歳と比較的高齢だったが,それまで外来で「傷は洗ったほうがいいんだよ。傷は乾かしちゃいけないんだよ。消毒するのはもってのほかだよ」と繰り返し説明したおかげか,治療方針をよく理解してくれ,実行に移してくれた。

 また,10日目頃からハイドロポリマーからポリウレタンに被覆材を切り替えたが,これは患者が自宅で処置する際,創の大きさに合わせて自由に切り分けられるため最も使いやすいだろうと考えたためだ。


 このように,不定形に深い陥凹がある皮膚軟部組織欠損創に有用な被覆材といえば,このハイドロポリマーハイドロジェルだろう。筆者はこれらを,ハイドロポリマーは浸出液が多い場合,ハイドロジェルは浸出液が少なかったり,壊死組織が残っている場合と,症例ごとに使い分けている。
 また,この例のように,肘のようによく動く部位では,柔軟性のあるハイドロポリマーは非常に使いやすい被覆材だと思う。

(2002/04/15)

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