術後の縫合創離開の治療


 手術の後,縫合部が離開することは稀ではない。この創離開を完全に予防することは不可能であり,そのため,長期間の入院,外来通院を余儀なくされることも稀ではないと思う。また,外科医側にとっても,創離開についての治療について科学的に言及している書籍・論文がなく,先輩医師のやり方を見て,抗生剤・消毒・ガーゼをなんとなく使っていることが多いと思う。

 ここで,普段は正面きって取り上げられることがない「術後の創離開の治療」について,私の考えをまとめて書くことにする。


 まず実例を提示。症例は70代の女性で,進行性乳癌で外科で根治術を行い,形成外科で腹直筋皮弁により胸壁再建を行った(恥ずかしながら,「皮弁壊死」と同じ症例。術後,2週目頃から次第に縫合部の創縁皮膚が壊死し,創が2箇所で離開した。これが皮下で通じたため切開して開放創とした。その後は主にハイドロポリマーでの被覆を続け,1ヵ月半で創は閉鎖した。もちろん消毒は一切行わず,また切開3日目から入浴(シャワー浴)させ,創部も一緒に石鹸をつけて十分に洗わせた。


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  1. 手術終了時の腹部の状態。この時はうまくいったと思っていたんだけど・・・。
  2. 術後15日目ころ。数日前から創縁の皮膚が不安定になり,浸出液が認められるようになった。創はナイロン糸で縫合していたが,縫合糸膿瘍のようになってきたため抜糸したが,次第に縫合部が開いてきた。
  3. 術後21日目。2箇所が広く開き,これは深部でつながっていた(トンネル状になっていた)ため・・・
  4. 局所麻酔下にトンネルの天井を切開。この時の創の長さは10センチ以上,幅は5センチ,深さも5センチほどであった。深部の縫合糸をすべて除去し,止血もかねてアルギン酸で被覆し,フィルムドレッシングで密封した。
  5. 翌日,止血されていることを確認し,ハイドロポリマーでの密封開始。
  6. 被覆開始3日目。良好な肉芽形成が認められる。
  7. 被覆開始12日目。この時点で創はほぼ平坦になった。
  8. 25日目。
  9. 45日目でほぼ上皮化が完了。

 なお,ハイドロポリマーの交換頻度であったが,当初はまだ使い慣れていなかったため毎日交換したが,その後,次第に貼付時間を長くでき,週に2回程度の交換で十分であり,問題は生じなかった。


 なぜ,術後に創離開が起こるのだろうか? 私見ではあるが,その原因は大きく3つだと思う。

  1. 虫垂炎術後などのように深部細菌感染が皮下組織に波及し,感染が原因の創離開。
  2. 創縁の過緊張による血流不全が原因の創離開。
  3. 閉創直前・直後の消毒による創離開。


 一般に「創離開」というと,感染が原因で起こるものだとお考えの方も多いようだが,実は原因の大半は2番目の「血流不全による縫合不全」である。もちろん,離開した創からは浸出液も多く,細菌培養をすると何がしかの細菌は検出されるが,それは「創離開により開放創になった」→「皮膚常在菌が創面に棲み付いた」だけのことであり,決して「感染した」→「縫合不全(創離開)を起こした」わけではない。

 そして血流不全の原因は「無理な緊張なのに創縫合した」か,「循環の悪い創縁を縫合した」かのいずれかだろう。今回の症例の場合,皮弁採取部を最大幅15cmで縫縮したための過緊張が原因である。


 創縁に緊張がかかっている時,よく行われるのが「丈夫な太い糸で縫合する」という方法だろう。3-0絹糸で切れたら,2-0, 1-0 の糸で縫おうという方法論。丈夫な糸で縫ってしまえばくっつくだろうという考えだ。実はこれ,理論的にはおかしな選択である。もちろん,糸が弱くて糸がちぎれてしまうこともあり,その場合はより太い糸を選択すべきかもしれないが,所詮は糸の強さと縫合されている組織の強さの綱引きである。それ以上の力が創縁にかかった時,糸が強ければ組織が切れ,組織が強ければ糸が切れるだけの話だ。つまり,丈夫な糸で縫合してもそれ以上の力が加われば,縫合している部位が裂け,次第に創縁が壊死してくる。

 また,創縁を強い力で引き寄せ,強い力で縫合すればするほど,創縁の循環は不良になる。だから結局は,創縁にかかる緊張をいかに少なくするかが勝負であり,糸の材質と太さは二次的な問題でしかありえないと思う

 なお,このような場合,創離開があり,細菌が検出されたからといって,抗生剤を投与する必要はない。細菌がいるのは原因でなく結果であり,第一,循環不全が原因なのだから,抗生剤を投与したところで創部に十分量が届いているはずがない。


 閉創直前・直後の消毒の危険性については,既に述べたとおりである。


 「細菌感染による炎症性疾患が先にあり,それが皮下に波及して化膿したことによる創離開」であるが,この場合は感染を抑えるのが先決で,創治癒はその次の段階ということになる。
 したがって,創離開した直後はガーゼドレーンなどで排膿を図るが,このときも消毒は一切すべきではないと考える。イソジンなどの消毒薬は有機物(壊死組織,膿,浸出液,フケ,垢など)存在下ではそれらに消費されて本来の殺菌効果を失っているからだ。つまり,排膿がある創を消毒するのは基本的に無意味ではないかと思われる。

 そして,浸出液(排膿)が少なくなったら被覆材での湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)にしてもほとんど大丈夫。もちろん,深部の縫合糸(感染源になっている可能性が強い)を除去することは言うまでもないだろう。

 これに関連してであるが,細菌感染を合併した創の手術では,絹糸は使うべきではないと思う。わざわざ,感染源を深部に残してくるようなものだ。絹糸が感染源になる危険性が強いことは前述のとおり。
 同様の理由から,人工関節などの人工物を埋め込む手術の際,血管結紮をいつも通りに絹糸で行うのも考え物だ。感染して困るからとクリーンルームを使っているのに,最も感染する危険性のある手術用材料を体内に残すのは,論理的にも矛盾している。

(2002/04/05)

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