手荒れ・主婦手湿疹の治療,クリーム,尿素など


 これまで何度か「手荒れ,主婦手湿疹」の治療についてちょこちょこ書いてきましたが,ここでまとめることにします。特に目新しいことは書いていませんので,よく御存知の方は読み飛ばして結構です。
 なお,さらに理論的な説明が欲しいという方は,こちらの「私説:生命進化から見た皮膚」の『15 皮膚の上の嫌気性菌 ー化粧品,シャンプー,石鹸,尿素クリームという虚構ー』をお読み下さい。化粧品,ハンドクリーム,シャンプーなどは「皮膚の上の嫌気性環境」を破壊するから,肌荒れの原因になるわけですね。要するに「肌荒れによいクリームが絶対に存在しない」ことは理論的に説明できます。


【手荒れ,主婦手湿疹の簡単な治し方】

  1. 小さじ半分くらいの白色ワセリンを両手によく揉み込む。体温で溶けて柔らかくなる感触を楽しむように時間をかけて,満遍なく揉み込みましょう。荒れている部分には特に念入りに。
  2. 乾いたペーパータオルなどでべたつきが気にならなくなるまでふき取ります。「車のワックスがけ」と同じで,ゴシゴシと拭き取りましょう。
 これでおしまいです。2分もあれば完了です。皮膚の亀裂や皺は油の膜で覆われるため,手洗いによる手荒れを防いでくれます。数日で手の状態が変わってきて,ツルツルの手になるはずです。
 これを一日何度か行います。例えば水仕事が多い人なら,「朝起きてすぐ(仕事を始める前)」,「昼食後」,「夕方(仕事が終わったとき)」,「お風呂上り」,「就寝前」に行ったほうがいいと思います。もちろん,これでもまだ皮膚が荒れている場合には,ワセリンを塗る回数を増やして対応して大丈夫です。ワセリン自体,極めて安全な物質だからです。しかも,とても安価です。
 なお,肌が弱い人,敏感肌の人は柔らかい材質で繊維が残らない紙でゴシゴシしてください。


【なぜワセリンか?】

 白色ワセリンやプラスチベースは無味無臭ですし,口内炎用の軟膏,眼軟膏の基剤として使われています。つまり,口の中や目に入っても安全ということは,長い医学の歴史が証明しています。
 ワセリンは石油の精製で得られる物質で,アルカンと呼ばれる鎖式飽和炭化水素(CnH2n+2)に属しています。ちなみに,n=1 はメタン,n=2 だとエタンとなりこのあたりは常温で気体ですが,n の値が大きくなるにつれて融点が下がります。ワセリンとは n が16~20くらいの炭化水素の混合物で,融点は38~60度くらいです。つまり,常温では固体ですが体に触れると柔らかくなってきます。ワセリンを手に取ると柔らかくなってくるのはこのためです。ちなみに,n が21以上のものを「パラフィン類」と呼びます。

 ワセリン,パラフィンは,揮発性が非常に低くて化学的な安定性が高いという物性を有しています。つまり,きわめて安定性のよい物質です。また,純度が高くなるほど無色に近づきます。さらに,電気的にもきわめて高い絶縁性を持ち,電気抵抗の高さはテフロン級で,普通に入手できるものでこれより高いものはないそうです。

 ワセリンには数種類ありますが,違いは純度の高さで,黄色ワセリン⇒白色ワセリン⇒プロペトの順に純度が上がります。また,柔らかさも純度の高さに従って柔らかくなります。

 ワセリンは石油由来の油,つまり「鉱物油」です。鉱物油というと「肌に悪い」と考えている人がいますが,これは昔の粗悪な鉱物油の話です。現在,白色ワセリンとして市販されているものは,口に入っても目に入っても安全な物質です。

 また,「白色ワセリンでもアレルギーを起こす患者はどうしたらいいのか?」という質問もいただきますが,ワセリンは分子量280前後の物質ですからこれが通常の抗原抗体反応を引き起こすとは考えられません。つまり,ワセリンによるアレルギーではなく,含まれる不純物による反応と考えられます。だから,医療用に使うものはなるべく高純度のワセリンの方が安全です。
 ワセリンに関しては,
こちらの説明もお読み下さい


【ハンドクリームは使っちゃ駄目(・・・だと思う)

 理由は,クリームの成分が界面活性剤だからです。界面活性剤,つまり中性洗剤と本質的に同じです。こんなものを皮膚に塗る方が異常です。この点,乳液も同様に界面活性剤を含み,同等に危険な物質でしょう。

 クリームは水と油が溶け合ったものです。皮膚に塗るとスベスベするし,ツルツルになります。しかし,クリームを洗い落とすとなぜか皮膚はゴワゴワ,シワシワになっていませんか? これは恐らく,クリームに含まれる界面活性剤が皮膚の油を分解してしまったためです。皮膚の油(皮脂)は人間を感染から守ってくれている皮膚常在菌の生存になくてはならない栄養源です。それを洗い落とすのはとんでもない愚行です。

 クリームに含まれる界面活性剤の疎水基は細胞膜の蛋白質に結合し,細胞膜を破壊します。皮膚科の教科書に「クリーム製剤は健常の皮膚にのみ用いること」と明記されているのは,健常の皮膚は角化層で守られているからクリームを塗っても大丈夫だよ,という意味でしょう。逆に言えば,角化層が正常でない皮膚(傷ついている皮膚,乾燥肌,アトピーの創部など)にクリームを塗ると,そこに含まれる界面活性剤が牙をむいて傷口に襲い掛かるわけです。


【尿素クリームは最悪(・・・だと思う)

 市販されている尿素クリーム(ケラチナミン,ウレパール,ニベアなど)は間違いなく皮膚を乾燥させています。これが皮膚を乾燥し,皮膚を破 壊していることは生物学,科学の知識があればすぐにわかります。

まず,尿素クリームはクリーム基剤であり,それ自体が細胞破壊性を持ちます。もしも皮膚の角化層が正常なら問題ありませんが,尿素クリームの場合,尿素が角化層自体を破壊するのですから救いようがありません。生物学的に考えればインチキ薬剤ではないかと思います。

 尿素がいかに人体に危険かは,基礎実験で尿素を使う場面を思い起こすとわかります。DNA抽出の前に20%尿素を作用させて細胞膜を破壊する実験は医者なら大抵やった事があると思います。要するに20%尿素とは細胞膜破壊薬です。基礎系の研究をしている知人は「20%尿素を人体に直接つけるなんて,なんて恐ろしいことをするんだ。医者のやることってわけがわかんないね」と言っていました。

 尿素 H2NCONH2は1分子あたり6箇所の水素結合部位を持ち,ここで水分子(1分子あたり4つの水素結合部位を持つ)と結合します。このため,尿素は水分子と混ざり合い,水を保持します。「尿素が水分を保持する」というのはこのことを指しています。
 しかし,化学的に考えれば,水分子と結合するからといって,それを理由「尿素は保湿剤である」とは言えません。なぜかというと,尿素は水とだけ結合するわけでないからです。

 「尿素には角質層を溶かす作用がある」とよく言われ,余分な角質を落とすためによく使われます。これは角質を構成するタンパク質(ケラチン)のペプチド結合と尿素が水素結合します。
 ケラチンは外側に親水基,内側に疎水基を畳み込んでいる立体構造で安定しているタンパク質ですが,尿素はこの「内側の疎水基」を外側に引きずり出します。その結果,ケラチンの立体構造は変化し,角質は正常構造を失います。実際,14C‐尿素を含む10%尿素軟膏をラット背部の皮膚に塗布し,密封したところ,血中放射能濃度は投与後3時間で最大値を示し,以後速やかに消失しています。なお,このデータはウレパールの商品説明サイトに明記されているものです。

 ここで,「そうか,尿素を皮膚に塗ると浸透して体に吸収されるのか。保湿効果がありそうだな」と思ってはいけません。なぜかというと,上記の説明で明白なように「皮膚の角化層を破壊」しているからです。皮膚に塗った尿素が血液中に移行するためには,角化層全層を破壊し,角化層を失った表皮に直接尿素が接触し,細胞内,あるいは血管内に移行するという現象が不可欠と思われます。そうでなければ,血中に移行するはずがありません。「3時間で血中で最大値になる」ということはつまり,「角化層を破壊するのに3時間もかからない」ということではないかと思います。

 となると,尿素にいくら水分子と結合する能力があろうと,角化層を破壊しているのであれば保湿効果もクソもありません。花畑をブルドーザーで根こそぎ壊しておいて緑のペンキを塗っても「緑が増えた」ことにはならないのです。あっ,これはお隣の超大国がしていたっけ・・・。

 尿素クリームの説明には必ず,「余分な角化層を取って皮膚をスベスベにする」と書かれていますが,これも眉唾です。尿素と角化層のペプチド結合との結合は純粋に化学的なものですから,「余分な角化層」と「皮膚の生存に必要な角化層」の区別を尿素がつけているわけではないからです。結合するペプチド結合がある限り,尿素は際限なく角化層の正常構造を破壊するはずです。適当なところで歯止めが効いているはず,というのはあまりにご都合主義的解釈でしょう。


【恐らくアトピー性皮膚炎も・・・】

 アトピー性皮膚炎の皮膚は傷だらけです。痒みのために自分で掻いてしまったようです。それに「傷は乾かさないと治らない」とか「アトピーのひどいところには黄色ブドウ球菌がいて,こいつが悪さをしているのだから,イソジン消毒をすれば治る」なんてのたまうトンチキな医者の治療が加わると,際限ない負のスパイラル,悪化への一本道をまっしぐらです。

 ところが,「どうせ傷なら,原因はどうだって治療は同じ。手荒れの治療と同じでいいんじゃないの」と考えて,このページ冒頭で紹介した方法を試してみると,これが結構効きます。ま,騙されたと思ってやってみてください。乳幼児のアトピーは治療したことはありませんが,少なくとも成人のアトピーはほとんど治ります。もちろん,根治するわけではありませんが,痒くなったらまた塗ればいいだけのことだし・・・。

 というわけで,私流の簡単なアトピー性皮膚炎の治療法です。
  1. ボディソープ,シャンプーの使用を止め,温水のみの洗浄にする。石鹸は匂いが気にある部分にのみ使用。実はこれだけで乳児のアトピーはかなり良くなる。
  2. 痒みがひどくて掻き崩してしまったところはハイドロコロイド被覆材(デュオアクティブ,キズパワーパッド)プラスモイストを貼付する。
  3. それほどでもないけれど,皮膚が乾燥して痒みが強い場所にはこのページ冒頭の「ワセリンでワックスがけ」をしてみる。
  4. 2010年7月から発売された「プラスモイストTOP」はかなり有効。


【アトピー業界,ってのがあるらしい】

 以前,あるところで講演をしたら,「アトピーがワセリンで治せるというのはおかしい。アトピーは黄色ブドウ球菌の毒素で悪化しているのは私の研究で明らかだ」と頭から湯気を出して食って掛かってきた年配の先生がいらっしゃいました。講演後の懇親会で若手の先生に聞いてみたところ,「アトピー性皮膚炎のイソジン療法」の親玉先生だったそうです。どうりで怒りまくったわけです。
 で,その宴会の席で,アトピーを飯の種にしている「アトピー業界」というのがあるんですよ,という話を聞いた。酔っ払って聞いたことなので,私の聞き違いかもしれませんので,そういう「業界」は実はないかもしれませんが・・・。

 要するに,アトピーというは患者は多いし治らないわけでして,医学界,美容業界,薬品業界あたりから,新興宗教,インチキ宗教,インチキ商品・食品業界まで群がっているらしいのです。患者と家族は,藁にもすがる思いでしょうから,東にイソジンで治るという医者がいれば東に走り,西にこの水を飲めば治るという人がいれば行って高額な水を買い求め,南にこの宗教を信じればアトピーが治るという教祖様がいれば行ってお布施を払い,北にこの食品を食べればアトピーがきれいに治るのよと聞けばインターネットでその食品を買い求めます。

 そういう患者を食い物にしている「アトピー業界」の願いとは何かというと,アトピーが治らない病気であり続けることだそうです。治ってもらっては飯が食えなくなるから,だそうです。

 ま,ガセネタだと思いますけどね。

 あっ,そうか。これは要するに「アトピー性皮膚炎とはさまざまな原因で起こる難治性の病気で,なかなか治らないものだ」というのをパラダイムにしている業界なんだな。

(2007/03/22)