【全層皮膚採皮部の傷はどうなるのか?】
全層皮膚移植術のために全層皮膚(=表皮+真皮全層)を採取した部分はどうなるかというと,当然のことだが皮膚が全くなくなってしまう。つまり,V度熱傷と同じ状態になる。ということは「V度熱傷を治療するために,V度熱傷と同じ傷を新たに作る」という,何だか訳の分からない状態になり、とりあえず「採皮部の傷」に対する治療をしないいけない。
ではどうするかというと,皮膚を取って傷になった部分は無理矢理縫って閉じてしまうのだ。これを「縫縮」という。
可能なら衣服で隠せる部位が望ましく、下腹部などから皮膚を採取するわけである。
縫縮するためには,縫縮できる部位でないと困る。それはどこにあるかというと,「たるんでいる部分,たるみやすい所」である。具体的に言うと,お臍より下の腹部とか,わき腹とか,そういう部分だ。
これを胸部の直径10センチのV度熱傷を例にとると次のようになる。
もちろん,顔にも「たるんでいる部分」はあるが(例:二重あごとか,眼瞼のたるみとか・・・),さすがに顔に傷を付けるのは嫌なので,顔は皮膚を取る部分としてはふさわしくない。どうせ傷がつけなければいけないのであれば,傷はできるだけ目立たない部位にするのが常識というものである。胸の10センチの傷は縫い閉じられない
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しかし,下腹部なら10センチの傷は縫い閉じられる
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なら,下腹部の皮膚をとって胸に移植し,下腹部の傷は縫っちゃえばいい。
【分層皮膚採皮部の傷はどうなるのか?】
分層皮膚(=表皮+真皮上層)を採取した部分はどうなるかというと,真皮の深いところが残っていて,熱傷で言えばU度熱傷に相当する。だから,「毛穴・毛根が残っていればそこから皮膚が再生する」という創傷治癒の理論を知っていれば,乾燥を防ぐだけで簡単に治ってしまう。これが最も幸せな状況だ。
問題は,手術をした医者が創傷治癒の理論を知らない場合だ。この場合,医者は「消毒して軟膏ガーゼ」で治療する方法しか知らないから,皮膚採取部の傷はなかなか治らないことになるし,下手をすると「皮膚移植した部分は治ったのに,採皮部が治らない」という状態になってしまう。特に高齢者の場合,もともと皮膚が薄いため,分層皮膚を採取したつもりだったのに皮膚全層が「取れて」しまい,皮膚採取部が治らないために再手術・・・なんてことが珍しくない。
分層皮膚には薄い分層皮膚と厚い分層皮膚があるが、薄い皮膚を取ったところは上皮化が早く、厚い皮膚を取ったところはそれより時間がかかるのは当然である。
いずれにしても,分層皮膚を採取した部分には必ず「ヤケドの痕」のような状態になることは避けられない。要するに,「ヤケドを治すために,他の部位にヤケドのような跡を残す」のが分層植皮である。
(2011/05/23)