新しい創傷治療:シャーロック・ホームズVSモンスター

《シャーロック・ホームズVSモンスター "SHERLOCK HOLMES"》★★(2009年,アメリカ)


 そういえば私,シャーロック・ホームズを読んだのは小学生の頃だけだし,映画も見てないことに気が付きました。そういえば,アルセーヌ・ルパンの原作も小学校か中学校ころに読んだきりですね。だから何だってこともありませんが・・・。
 というわけで,タイトルを見ただけで「こりゃ何じゃ」感が漂う映画を見ちゃいました。いやはや,つまんねぇ! 時間をしっかりとドブに捨てちまったぜ。

 映画の作り手は多分,本格的な映画を作ろうとしたらしいことは冒頭の数カットを見ただけでわかります。でもね,それだったらシャーロック・ホームズに恐竜やドラゴンはないだろうと思うのですよ。というか,「恐竜が出てくるホームズ映画」を作れと言われて,「よし,それじゃぁ,本格映画を作ってやろう」とは誰も思わないと思うんだけど,この監督さん,やっちまったわけよ。どこでどう間違ったんでしょうか。
 「どうせ恐竜が出るホームズ映画なんだから,とことん,馬鹿やっちゃうぜ」ってスタンスでハメを外して作ればよかったのに・・・。

 ちなみに,DVDジャケットにある ↓ のようなシーンは全くありません。


 舞台は1940年12月29日のロンドン。言うまでもなくロンドン空襲の最中です。火に包まれるロンドンを窓から見る車椅子の男,それがあのワトソン博士です。そして彼は自分の命が残り少ないことを悟り,若い家政婦に1882年に起きたある事件のことを話し,書き留めるように命じます。それはホームズが最後まで秘密にしていた不思議な事件だったのです。

 1882年5月19日,植民地からの金銀財宝を積んだイギリスの船が英仏海峡で原因不明の沈没事故を起こします。そしてホームズとワトソンが事件の捜査を依頼され,ただ一人の生き残り船員が収容されている病院に向かいますが,その船員は「海から巨大な怪物が出てきて船を破壊した」と証言します。

 そしてその頃,ロンドンのイーストエンドでは巨大な生物が暴れまわっているという噂が立ち,その怪物はホームズ&ワトソンの間の前にも現れます。それは古生代の恐竜でした。しかし,その恐竜から剥がれ落ちた皮膚がゴムであることから,ホームズはそれは人造恐竜であると推理します。

 そしてついに,ホームズは恐竜と海の怪物を作った人間を突き止めます。なんと,ホームズの兄でした。ロンドンの街を破壊しようとする兄の企てをホームズは阻止できるでしょうか・・・ってなナイスなお話でございます。


 前述のように,冒頭は素晴らしいですよ。ロンドン空襲を見る老人が「ロンドンが炎に包まれるのはこれで2度目だ」とつぶやくシーンから始まり,舞台は1880年代のロンドンに移るのですが,いかにも古き良きロンドンという雰囲気が画面全体から漂っていて,ちょっと色褪せたような色調も雰囲気を出しています。この映画,ちょっといいかも,と誰しも期待してしまいます。

 しかし,いいのはここまで。あとはグダグダとどうでもいいようなシーンと,どうでもいいような推理と,どうでもいいしょぼいアクションが続くだけ。


 まずなにより駄目なのが,主人公のホームズの魅力の無さです。見た目もパッとしないし,推理といっても取ってつけたような無茶苦茶推理ですし,「世紀の名探偵」のカケラすら感じ取れません。外見があまりに貧相なため,探偵というより貧乏神に見えてしまいます。

 その相棒のワトソンくんもいけてません。どう見ても頭が悪そうな容貌ですし小太りメタボ君です。こんな小太りおじさんに細いロープ一本で断崖絶壁を降りて難破船を調べて来いと命じるホームズが鬼に見えます。案の定,ワトソン君は5メートルも降りないうちにロープが切れて宙吊りになります。このシーン,かなり時間をかけて撮影されていて,ちょっと迫力があるんですが,ワトソンくんは何一つ成果を上げていませんから,単なる無駄シーンです。あんな絶壁を降りさせるんだから,せめて「あともう少しというところでロープが切れ,ワトソン君はあえなく海にドボン。でも,海でしがみついたものが怪物のちぎれた腕で,それで怪物の正体が判明!」というストーリーにしてあげるべきだったと思います。

 映画の黒幕というか悪役はなんとホームズのお兄さんです(ちなみに,ドイルの原作にもマイクロフト・ホームズという名のお兄さんが登場するんだとか)。彼があの怪物の生みの親で,最後の方では火を吐くドラゴンに乗り込んでロンドンを破壊しようとしますが,そのそもそもの理由がなんともチャチです。このお兄さん,もともとロンドン警察の刑事さんですが,同僚の刑事に間違って撃たれて脊髄損傷になり(・・・とお兄ちゃんは思い込んでいたけど,実は・・・),その恨みで恐竜やら海の怪物やらのメカを作り,復讐を企てた,って言うことなんですが,これって思いっきり勘違い系逆恨みですよね。誤射した同僚刑事に復讐するならわかるけど,なんでロンドンを火の海にするんだろうか? マイクロフト兄ちゃん,頭のネジが2,3本緩んでないか?


 そういうわけで(・・・どういうわけだ?),話題はメカ恐竜,メカ・ドラゴンに移るわけですが,これがですね,1880年代にどうやって作れるんだよ,現代科学を駆使してもこんなのは作れないよ,というくらい精巧でございます。というか,ほとんど《ジュラシック・パーク》の恐竜そのまんまです。こんなの,19世紀人間がどうやって作ったというんでしょうか。

 もしもこれが純然たるSFで「23世紀から来た猫型ロボットが作った」とか,「宇宙船から降り立ったクラトゥが作った」とか言うんならこっちも理解できますが,何しろこれを作ったのはホームズのお兄ちゃんで19世紀の警官なんですぜ。これを納得しろと言われても困っちゃうんだけどなぁ。第一,動力源は何なんだよ。どう考えても石炭くらいしかない時代だと思うんだけど・・・。

 それにしても,リアルに動く恐竜が登場しているのに,なんでこんなに地味な映画になっちゃったんでしょうか。恐竜に襲われるのは被害者は数人だし,襲われて食われちゃうシーンもないし,恐竜に襲われたホームズとワトソン君にいたっては走って楽々逃げちゃいます。もちろん,主人公がここで死んじゃまずいよね,という大人の事情のためなんですが,それを観客に悟られちゃ駄目でしょう。

 ちなみに,この映画に登場する恐竜の体の姿勢は1980年代頃にになって初めて明らかになったものじゃないでしょうか。具体的にいうと垂直に立つ後肢を軸に,上半身と尻尾を水平に保つT字型をしています。それ以前の時代では,恐竜は尻尾を引きずって上半身を立てた姿(ゴジラがこの格好ですね)で歩き回っていたと考えられていました。となると,シャーロック・ホームズのお兄ちゃんはどうやって「100年後に明らかになった恐竜の姿」を知ったんでしょうか。これも謎です。


 というわけで,シャーロック・ホームズ関連の映画ならどれも見たいというシャーロッキアンの方々と,恐竜が出てくる映画ならクズ映画でも大好きという方々にのみオススメとしておきます。

(2010/10/26)

Top Page