《地球が静止する日 'The Day the Earth Stood Still'》 (2008年,アメリカ)


 うわぁ,詰まんねえ映画だったよ。110分,ドブに捨てちまいました。なんでこんな映画にキアヌ・リーヴスが出ちゃったのかなぁ。他に出る映画がなかったのなぁ。ヒロイン役のジェニファー・コネリーの緑色の瞳はすごく綺麗でよかったけど,見どころはそれだけでございました。

 ちなみに《地球の静止する日》(1951)というSF映画のリメイク版とのことですが,さすがに私が生まれる8年前の映画は見たことがありませんが,資料によると,「宇宙人といえば侵略者」という図式のSF小説・映画がほとんどだった1950年代初めに,友好的な宇宙人もいるんだぜ,というスタンスで作られた映画ということで,異星人「クラトゥ」とロボット「ゴート」はその方面ではかなり有名らしいです。今回の映画にもこの二つは登場しております。


 ストーリーはこんな感じ。

 まず舞台は1928年の雪山。吹雪吹きすさぶ険しい山をキアヌが登っています。そして洞窟に入り,そこで不思議な輝きを持つ卵型球体を見つけ,それに手を触れます。映画の中ではそれが何かは示されませんが、実は宇宙人クラトゥたち一味は80年前から地球偵察を始めていたんですね。

 そしていきなり舞台は現代に移ります。

 大学で「宇宙微生物学」を教える研究者のへレン(ジェニファー・コネリー)が登場しますが,亡き夫の連れ子であるジェイコブ(ジェイデン・スミス・・・あのウィル・スミスのご子息です)と二人暮らしですが,どうも微妙なお年頃のジェイコブくんとはちょっとうまく行っていない模様です。そんな彼女はある日突然,政府機関から拉致同然に同行を求められ,軍の施設に連れていかれ,そこで多数の研究者・科学者も同様に連行されていることを知ります。そして「宇宙から猛スピードで飛来する小惑星があり,あと7時間で地球にぶつかり,それはおそらくマンハッタンを直撃する」という恐るべき事実を知らされます。地球滅亡までのカウントダウンが始まっていたのです。しかし,それは小惑星ではなく宇宙からの飛行体であり,地球に近づくにつれてスピードを落としマンハッタンのセントラルパークに着陸します。巨大な卵型球体です。

 科学者たちはセントラルパークに駆けつけ,その周囲を軍隊が包囲します。そして球体から何かが降り立ち,それにへレンが近づきますが,軍の一人が発砲してその宇宙人に命中! 宇宙人は倒れ,それを守るかのように巨大ロボットが姿を表し,アメリカ軍の武器も車両も無力化してしまいます。

 倒れた宇宙人を救おうと救急車で病院に搬送し,集められた研究者の一人が治療します。その生命体はヌルヌルベチャベチャした有機体に包まれていましたが,それを取り除くとなんと人間の姿をした宇宙人がいました。意識を取り戻した宇宙人は「自分はクラトゥだ」と名乗ります。

 アメリカ大統領と副大統領はすでに安全な地域に移動し,現場の指揮をとるのは女性国防長官(キャシー・ベイツ)ですが,彼女はあくまでも武力で決着しようとして,宇宙からの侵略者を監禁して秘密を聞き出そうと考え,へレンに睡眠薬をクラトゥに注射するように命令しますが,ヘレンはその命令に背いて生理食塩水(?)を注射。クラトゥの尋問が始まりますが,クラトゥはあっさりと尋問官の精神を操り,あっけなく施設から脱出し,彼にヘレンが同行します。クラトゥの「地球を救うためにやってきた」という言葉を信じたからです。

 しかし,クラトゥの目的は「地球を救うこと」であり,「地球を救うために人類を滅亡させる」ことだったのです。ヘレンはなんとかしてクラトゥに「人類は変われる」ことを伝えようとしますが,人類絶滅計画は実行に移され・・・,という映画でございます。


 ストーリーの真ん中頃までまとめてみましたが,これを読んだだけで「何だ,このストーリーは?」って思うでしょう? 見ている方はさらに「なんだよ,この映画。無理矢理にもホドがあるよ」という気分でございます。これじゃ、「地球が静止する日」ではなく「セントラルパークが使えなくなった日」ですよ。地球の何が「静止」したかは画面に出ますが,それもワンシーンだけでおまけに説明不足です。この映画を見た人のほとんどは映画を見終わって「ところで,地球の何が静止したの?」ってキョトンとしたはずです。


 科学者たちを集めるのはいいけど,集めた時点ですでに「小惑星(らしいの)が地球に衝突するまであと7時間」ですから,科学者集めても意味ないですよね。何のために彼らを強制的に集めたんでしょうか。何しろ最初の方で「このサイズの小惑星がこの速度でぶつかったらマンハッタン消滅どころじゃない。地球全体に影響が及ぶ」と言っているのですから,対策を立てるも何もないわけです。科学者を集める意味がありません。

 最初に飛行体から「何か」が降りてくる場面もなんだかよく分からないし,それにヘレンが近づくシーンも意味不明。なんで彼女,無防備に近づいたんでしょうか。しかも,その宇宙人は銃弾一発で致命傷を負っちゃうってのもなんだかなぁ。これだけの科学技術を持っているんだから,パワードスーツくらい来てから降りてこいよ。

 しかも,正体もわからない宇宙人を「病院で治療しなきゃ」というのも無茶苦茶です。地球人や地球の動物なら「治療」できますが,体の構造はおろか細胞の構造だって違っているんですから,何を「治療」しようとしたんでしょうか。ま、お笑いシーンとして見るといいのかも知れませんが・・・。


 そうそう,ウィル・スミスのご子息、ジェイデン君ですが演技はうまく、血統の良さを見せつけますが、なんで彼がこの映画に登場したのかが意味が分からないんですよね。血の繋がっていない母親ヘレンに反発しているというのはわかるけど,そういう面倒な設定がこの映画に必要だったかというと必然性は全くありません。アメリカ映画ではなにかというと「親子の絆,失われた親子の絆を取り戻す」のをサブテーマにしますが,ここまで露骨だとちょっとゲンナリします。


 やたらと戦闘的な国防省のおばちゃんも,あまり類型的で笑っちゃいますね。最初の時点でアメリカ軍の武器は無力化されているんですから,この時点で「武力で追い返す」という選択肢はないと思うんだけど、なぜか最後まで、武力による抵抗を唱えます。アメリカは軍需産業で成り立っている国なんだな、と改めて感じ入る次第でございます。

 それにしても,こんな大事件なのに最初から最後までアメリカ大統領が登場しないというのも,ちょっと情けない感じです。逃げ足だけは速い大統領という設定、アメリカ映画では珍しいです。


 クラトゥは「豊かな自然環境を持つ地球のような星は少なく,貴重な存在だ。それを守るためには人類が邪魔だ」と言っていますが,実はそれはへレンにしか伝えていません。本来なら,最初に着陸したときに「人類に告ぐ!」みたいなことを「人類の代表」に伝えるべきですよね。ヘレンという一民間人に真相を伝えてどうするんだよ,という気がします。クラトゥ君,頭悪すぎます。

 1928年に地球に侵入して中国人に化け,人類を調査してきたというお爺ちゃんですが,すでに人間との間に孫までいるそうです。クラトゥのキアヌさんと中国語で会話しますが,そのなかで「地球を救うために人類は滅亡させるしかないが,私は彼らとともに滅びる道を選ぶ。地球人が好きなんだ」ってなことをおっしゃられます。80年間,人類と生活することでようやく人類のいいとこを見つけてくれたようですが,そこまでいったらこの爺さん,人類滅亡でない道がないかと努力してくれてもいいんじゃないかという気がします。

 人類滅亡計画が実行され,この爺ちゃんも一緒に死んでいく,というのならそれはそれで感動的だったと思いますが,この爺ちゃんの必死の決意をですね,地球にやってきてヘレンとジェイコブと1日お付き合いしただけのクラトゥがあっさりひっくり返しちゃうんですよ。これはあんまりでしょう。
 この爺ちゃんの80年,無駄だったんですか? 80年前に潜入させる必要はなかったんじゃないですか? この爺ちゃん、可哀想です。


 SF映画としての見どころも少なかったですね。テレビでの宣伝では「走るトラックが後ろからボロボロに崩れていく」シーンとか,スタジアムが一挙に崩壊するシーンが放送され,これを見た人は「おお,面白そうじゃん」と思ってしまったと思いますが、実はこういうシーンはこれしかないんですよ。巨大ロボも動いて活躍するのは最初の数シーンだけで,あとは無駄に立っているだけ。なんでこのロボ君が登場したんでしょうか。2008年公開のSF映画なんですから,せめて「ファービー」より動いてくれないと・・・。

 という,ショボくてグダグダしたユルイSF映画でございました。キアヌ・リーヴスが出ていたらどんな映画でも見るんだもんね,というキアヌ・ファンにのみオススメといたします。

(2010/01/22)

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