トンデモ映画,クズ映画大好き人間が《シャーロック・ホームズ vs ヴァンパイア》というタイトルのDVDをレンタルショップの棚で見つけたとします。すると百発百中,「これはトンデモ映画の臭いがプンプンするぜ。この映画,俺が借りずに誰が借りるって言うんだよ。霧のロンドンを舞台にヴァンパイアとホームズが対決するなんて,お馬鹿で面白そう」って思うわけですな。もちろん,私もそう思ったから借りて観たわけですよ。
うぁぁぁぁぁ! 邦題に騙されちまったぜ。何だよ,原題は《白い教会の吸血鬼》じゃないか。お馬鹿映画じゃなくって,まとも映画じゃん(普通の映画ファンなら「お馬鹿映画じゃなくてよかった!」って安堵するところでしょうが・・・)。普通のシャーロック・ホームズものだよ。しかも,かなり地味な映画じゃん。バカ映画でなくって損したぁ!
どうやら,コナン・ドイルの未完成の小説のネタを完成させたテレビ向けに作られた映画らしいです。根っからのシャーロッキアンにとっては面白い映画かもしれませんが,ホームズに特別の思い入れがない私にとっては,地味目の事件を強引な推理で解決しちゃう映画でした。おまけに,謎がいくつか解決されないうちに終わっちゃいます。オイオイ,これでいいの?
ちなみに,こんなお話でございます。
Whitechapelというロンドンのどっかにある修道院で殺人事件が起きます。死因は心不全ですが,なぜか首に2個の深い刺し傷があり,死体にコウモリがとまっていたことから人々はヴァンパイアの仕業と噂し,困り果てたマーストーク修道士はホームズに捜査を依頼します。マーストークは以前,伝道のために南米ギニアに赴き,ある事件をきっかけにロンドンに戻ってきてこの修道院にいるようです。ギニアでは謎の病気(どうやら狂犬病みたいですね)が流行していて,一人の修道士がその原因としてコウモリを疑いコウモリ駆除を行いますが,病気の発生は一向に減らなかったのです。そのため,伝道所は閉鎖され修道士たちは帰国を余儀なくされたようです。そして,修道院で殺されたのは,ギニアから帰国した一人でした。
ホームズはワトソンとともに捜査を続け,犯人は修道院内部の人間だと確信しますが,警察は大男の黒人でコウモリの研究をしているチャガス博士を疑います。そうこうしているうちに,別の修道士も殺され,ホームズの身にも危険が迫り・・・という映画です。
エンドロールを含めても85分ほどの作品ですが,その割には登場人物が多く,しかもそのほとんどがいかにも怪しそうな言動をします。
マーストーク修道士はキリスト教の修道士のくせに,南米で集めたというギニアの土俗神の像を部屋に飾って,「神は我々の神の姿だけしているわけではないと思うのです」と修道士的にヤバい発言をするし,コルダー修道士はマーストークの異端趣味を快く思っていません。ギアナで夫が病死したために一緒に帰国したというローサ婦人とその息子のヘクトルというのもいて,ヘクトルはオツムは弱そうですが力は強そうなんで,命令されれば何でもやりそうです。その他にも怪しそうな修道士や修道女がいるし,コウモリ研究家のチャガスも何か隠している感じに見えます。早い話が,怪しくないのはホームズとワトソンくらいのものです。おまけに,何かあるたびに地震が起きて教会が揺れます。
何事も見逃さず,わずかな証拠から犯人を割り出せるホームズはついに真犯人を捕まえるわけですが,観ている方からすると「何だ,こいつかよ」という感が否めません。確かに,犯人に襲われた盲目の修道女が「そういえば,油のような臭いがした」と証言し,その後でこいつが登場したときに○○をしていて油を使っていますから,勘がいい人はここで犯人が分かる仕掛けになっています。そしてもう一つの手がかりが,最後にホームズが明かす「犯人は左利きだ」というものです。
とはいっても,修道院の全員を調べて「左利きはこいつしかいない」と断言しているようには見えないため,「取って付けた感」がたっぷり漂います。おまけに,この真犯人の動機が連続殺人としては弱すぎます。「君の気持ちも分からないではないけど,それで一緒に行った仲間全員を殺そうとするかなぁ? 怒りのもって行き方が間違ってないか?」とアドバイスしたくなります。
それと,殺された修道士たちは「首に2個の刺創があるが,死因は心不全」という設定ですが,犯人がどうやって心不全を起こさせたのかは最後まで不明。せめて,ギニアから持ち帰った毒薬を使った,というくらいの謎解きは欲しかったです。
それと,死体にコウモリがとまっていた,というのもなぜなんでしょうか。死体を見つけた修道院の職員が「死体にコウモリがとまっていた」と証言していますが,死体にコウモリがとまっている必然性はありません。これでチスイコウモリが首筋の傷に,というのなら面白いのですが,このコウモリは映画の中でイギリスのコウモリだと説明されます。オカルト映画ならこれでいいのですが,一応これはサスペンス映画であり,しかもシャーロック・ホームズものなのですが,未解決の謎を残しちゃだめでしょう。
実は私,まともなホームズ映画って観たことがないので確かなことは言えませんが,古い修道院を内部の様子とか,19世紀末のロンドンの街並みとか,かなり忠実に再現されていたんじゃないかと思います。
それにしても,この時代の映画を観ていていつも,「この頃の室内って,夜になるとほとんど真っ暗だったんだなぁ」と思ってしまいます。この映画でいうと修道院がそうですが,ロウソクとランプしかありませんから,私たちの目からすると,ほとんど暗闇同然でしょうね。これじゃ,悪霊やらヴァンパイアやら悪魔やらがそこらの暗闇に潜んでいて不思議ありません。その意味からすると,悪魔にしてもヴァンパイアにしても,当時の人間にとっては極めてリアルな存在だったんだろうな,と言う気がします。
それと,教会堂の揺れは実は地下鉄工事に伴うものだった,という謎解きもありましたが,この映画の風景(薄暗い修道院,馬車しか走っていないロンドン市内)を見ていると,地下鉄が本当に走っていたとはにわかに信じ難い気がします(ちなみに,ロンドンの地下鉄の開業は明治維新前の1865年頃だったかな?)。
そんなわけで,生粋のシャーロッキアンなら見て損がないかもしれませんが,タイトルを見てお馬鹿映画と期待する人や,高度な謎解きを楽しみたいという人には向かない映画ですね。さすがにこの程度の雑な謎解きは21世紀にはさすがに辛いものがあります。
(2011/03/01)
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