『星条旗』の採譜の中で最もユニークなものがこのWui-Ming Gan(マレーシアのピアニスト)が2001年に作成したものである。なんと、3回目トリオの直前で突然、変イ長調からイ長調に転調し、そのままイ長調で突っ走るのだ。しかもイ長調になってからの部分は他のバージョンより音が多くて演奏は難しい。忠実な採譜と新たな創作の合体、という感じだろうか。
 この採譜楽譜で演奏しているYouTube動画を2種類確認している。

  1. CHANSON DE BOHEME by Moszkowski and the Sousa-Horowitz STARS & STRIPES FOREVER, arr Gan Wui Ming
  2. Sousa-Horowitz-Latsabidze/LATSO: Stars and Stripes Forever ・・・この動画はGanバージョンで演奏して終結部に派手なカデンツァを新たに挿入したもの。

冒頭部分
 2/4拍子で記譜されている。また、主部の繰り返しは福田/和田バージョン同様にリピート記号が使われている。
1回目のトリオ冒頭
 3段楽譜で記譜されていて中声部の左右の振り分けも明確。
2回目トリオ冒頭
 ここも特に変わったところはない。
その後の経過部
 126小節目の後半、ホロヴィッツの演奏にない派手なアルペジオが登場。
変イ長調からイ長調への転調部分
 145小節からの半音階を利用した見事な転調。
3回目トリオの冒頭
 基本的に高音の音型は2回目トリオと類似しているが、右手で奏するメロディーが全てオクターブの和音になっていて、その和音の合間に細かいピッコロ音型を弾かなければいけないため、演奏はかなり面倒くさいと思う。
3回目トリオの途中
 譜例3小節目の後半からは「3回目トリオの3度重音音階」が登場。左手の中声部や低音部にホロヴィッツの演奏にない音階進行が加わる。
終結部分
 最後の左手の和音はもちろん、ピアノの鍵盤で一番低いキー、そして右手の和音は最高音に近い。最高音域と最低音域の同時和音で終わるピアノ曲って格好いいんだよな。
 ふと思ったが、Wui-Ming Ganさんはこの最低音のイ長調和音が弾きたくて、変イ長調からイ長調に強引に転調したんじゃないだろうか。
 もしもピアノの鍵盤が低音にもう一つキーがあったら最低音は変イ音となり、「最低音域の和音」で曲を派手に閉じられるが、現実のピアノの最低音はイ音であり、変イ長調の和音はそれよりオクターブ高い音域で弾かざるを得ないため、どうしても重量感に欠ける。実際にこの曲を演奏していても、一番の不満点はこの「最後の左手の音域」なのだ。それを見事に解決したのがこのGanバージョンである。