膿瘍切開後の処置


 膿瘍切開後の創処置についてもさまざまな方法を行ってみたが,最近,これで良さそうという方式に辿り着いたので紹介します。


 まず,症例を提示。20代男性で右臀部の皮下膿瘍で受診。

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  1. 初診時の状態。直径6センチの波動性を有する皮下腫瘤を触知し,周囲に広範な発赤が認められる。直ちに膿瘍の全長にわたり局所麻酔下に切開したが,皮膜を有しない皮下膿瘍であった(多分,石灰化上皮腫か何かが感染したものでしょう)
  2. ポリウレタンフォーム(ハイドロサイト)のピンクの皮膜(疎水性ポリウレタンフィルム)を剥ぎ取り,
  3. それを膿瘍腔に入れ,
  4. 絆創膏で固定し(ハイドロサイトが飛び出してこないように),その上をさらに残りのハイドロサイトで被覆。
  5. 翌日の状態。切開部周囲の皮膚の発赤が見られないことに注目。創内のハイドロサイトを取り出す前の状態。ちなみにハイドロサイトは膿をたっぷり吸い込んでいた。
    この後はハイドロポリマー(ティエール)で2日間覆い,その後はハイドロサイトの被覆のみとした。
  6. 切開してから5日目の状態。切開腔は完全に肉芽で埋まり,幅5ミリ程度の創面を残すのみとなり,さらにハイドロサイトでの被覆を続けている。


 「膿瘍切開後はガーゼドレーン」が常識だと思われるが,この症例のように切開直後からハイドロサイト(ピンクの皮膜を取り除いたもの)を膿瘍腔に入れてみたり,切開直後からティエールで被覆してみているが,どれも良好な経過である。これまでに5例ほどこのように治療しているが,感染が悪化した症例は一例もなかった。

 ハイドロサイトもティエールも水分吸収能が高い被覆材だが,同時に「一度吸い込んだものを後戻りさせない」という性質も有していたと思う。おそらくこのため,膿を吸い込んでくれ,創の感染症状を急速に改善したのではないだろうか。おそらく,アルギン酸塩(カルトスタットやソーブサンなど)でもハイドロファイバー(アクアセル)でも同様の効果が得られるのではないだろうか?

 問題は完全密閉にしてもいいかどうかであるが,多分大丈夫ではないかと思われるが(ティエールで閉鎖しても大丈夫だから),まず穏当なところでは,「ハイドロサイトやカルトスタット,ソーブサンを膿瘍腔に入れ,その表面はガーゼで覆う」という方式がいいと思う。どうせ,膿や浸出液が多いのだから,ガーゼで覆っても創面は乾燥しないはずだ。

 被覆材なら何でも使えるのか,というとそういうことはなく,ハイドロコロイド(デュオアクティブなど)のような水分吸収能が高くない被覆材は使うべきではない。


 また,皮膜を有する皮下膿瘍(いわゆる感染性粉瘤)の場合は,皮膜は完全に除く必要があることは言うまでもない。上記のような治療をするのであれば,皮膜は完全に取り除いてから行うようにすべきである。


 それにしても,ハイドロサイトもまさか皮をはがれるとは思っていなかっただろうな。メーカーも,まさか剥ぐやつがいるとは思っていないだろうな。

(2003/04/21)

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