私は皮膚科の専門医でもなんでもないため,以下に述べることはとんでもない勘違いかもしれません。眉に唾をつけながらお読み下さい。
患者は30代の女性。3年前から右下腿の慢性湿疹(という病名でいいのだろうか?)で近医(もちろん皮膚科の専門医)に通院して軟膏治療(薬の名前などは不明)いるが,全く症状に変化がなかったという。
たまたま子供さんの怪我で当科を受診し,「消毒しない,乾かさない」治療で傷が見る見るうちに治るのを見て,「もしかしたら,私のこの湿疹も治るんでしょうか?」と相談された。話を聞くと,痒みのために無意識のうちに掻いてしまっては皮膚を傷つけてしまうらしい。皮膚科からは「湿疹に効く軟膏と痒み止めの軟膏」を混ぜたものを処方されているという。
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私は慢性湿疹を診察したり治療する機会はほとんどない。この症例だって,たまたま偶然に治療したようなものだ。従って,これが慢性湿疹患者に全て応用できるとは思っていないし,たまたま偶然に治っただけかもしれない。
だが,3年間皮膚科医院で治療を受けているのに治らなかった湿疹(?)が,たった数日で治癒したのも紛れもない事実である。
つまり,その皮膚科医の病態に対する考えは「湿疹で痒みがある→痒いから引っ掻く→だから治らない」というものではないかと思う。だから「痒みを止める軟膏と湿疹に効く軟膏を処方」したのだろう。その根本的考えは「痒みは湿疹による症状だから,湿疹に対する治療をしよう」ではないかと思う。
しかし,単純な考えしかできない私はこういう湿疹を見ると「傷が治らない→だから痛痒い→引っ掻いてしまう→さらに皮膚が傷つく→難治化する」と考えてしまう。なら,痒みの原因が傷の存在なんだろうから,傷さえ治しちゃえば問題解決じゃないか,と発想する。
ならば,湿疹といったところで,煎じ詰めれば「皮膚の損傷」であり,それは,火傷やすりむき傷と同じ「皮膚外傷」だ。皮膚外傷なら湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)が使えるはずだ。ならばハイドロコロイドでも貼っておけばいいんじゃないか? 受傷原因はどうあれ,皮膚外傷としての症状は同じだ。
ううむ,我ながら単純な発想である。
さらに暴論覚悟で言うと,3年間も通院させながら全く治癒しない湿疹を見て,「もしかしたら自分の治療は間違っているのではないか? 3年間も続けて治らない治療って,正しい治療なんだろうか?」と考えない(であろう)その皮膚科専門医って,おかしくないか?
心のどこかで,「慢性化した湿疹が治らないのは当たり前。別にそれで死ぬわけじゃなし・・・」とどこかで諦めというか,治らなくて当たり前,と考えているのではないだろうか?(オイオイ,そこまで書くか?)
私は創傷を治療していて,2週間たっても治癒傾向が見られないとしたら,その治療は間違っていると考え,他の治療法や治療材料を探すようにしている。急性創にしろ慢性創にしろ,正しく適切な治療をしていれば,創傷は必ず反応してくれるからだ。2週間治療して反応がないのは,明らかに治療が誤っていることを意味する。
抗生剤だってそうですよね。1週間連続投与しているのに感染症状が治まらないとしたら,その抗生剤が効いていないと考えるのが当たり前ですよね。1週間投与して効果がないのに,もう1週間投与すれば急に効き始めるとは到底思えないもの。
「アトピー性皮膚炎がある外傷患者」を治療することが時々あるが,そのアトピーの皮膚を見るたびに「このアトピーって,単に傷が治らないから痒いだけじゃないの?」と思ってしまう。いつもながらの単純な発想である。
そして,アトピーの皮膚の部分には○○という物質が増えていてこれがアトピーの原因と思われる,という説明を読むたびに,「その物質は単に慢性創だから検出されているだけで,いわば慢性創の結果だけじゃないのかなぁ? 原因と結果じゃ全く逆なんだけどなぁ?」と思ってしまう。だったら,傷さえ治してしまえば,痒みもなくなるんじゃないだろうか? 要するに痒みを取るのではなく,傷を早く治してその結果として痒みがなくなる,という発想である。
こんなことを書くと,皮膚科学を碌に知らない素人医者が何を言っている,アトピー性皮膚炎はそんな単純なものじゃないぞ,とお叱りを受けるかもしれないが,こういう単純な発想じゃいけないんだろうか? アトピーにしても慢性湿疹にしても,これは慢性疾患であり難治化する病気だと初めから決め付けるのでなく,全く別の観点から治療法を見直してみるのも悪くないと思うが,いかがだろうか。
(2003/03/20)