糖尿病性潰瘍の治療例
糖尿病性潰瘍も非常に大きな問題だ。2つの症例を提示し,治療法について考えてみたい。
症例1。40代前半の男性。数年前から健康診断で尿に糖が出ていることを指摘されていたが,仕事が忙しいことを理由に検査を受けていなかった。1週間前からから右足趾が腫れてきて,膿が出てきたため病院を受診。血糖は500mg/dlを超えていた。
直ちに内科で血糖のコントロールを開始し,同時にプロスタグランディンE1(プロスタンディン)の点滴を開始し,局所治療を開始した。
内科医とともに入院治療を勧めたが,自営業で仕事が休めないため,外来での治療となった。
- 初診時の状態。第2趾〜第4趾の足背に皮膚壊死を認め,膿の排出がある。周囲の皮膚にも発赤が強い。直ちに壊死組織の切除を行い,アルギン酸で創面を覆い,その上はガーゼで直接覆った。
- 3日後の状態。まだ汚いものの,壊死組織はかなり取れてきた。
- 10日目頃からポリウレタンフォームの被覆にした。なお,ビニールテープで覆っているがこれは減点対象であろう(理由は「掲示板過去ログ」をお読み下さい)。
創面の状態は一進一退を繰り返していたが,36日目頃から膿の排泄が増加し,骨が露出したため,骨髄炎を考え,40日目に局所麻酔下に第2,第3趾を末節骨中央の高さで離断した。創面は縫合せず,アルギン酸で被覆した。
- 44日後の状態。かなり肉芽が上がっているが,白っぽく見えているのは伸筋腱であり,これを引き出して切除した。
- 70日後の状態。健康な肉芽が覆っているのがわかる。
- 93日後にようやく完全治癒。
この患者は仕事で車を運転していることが多いため患肢挙上などができず,また糖尿病の治療にもあまり積極的でなかったようだ。30日目までは何とか順調に経過したのにその後,悪化した理由もよくわからないが,何か無茶をしたのかな? という気がしないでもない。
やはり最初の2週間だけでも入院してくれたら,治療経過はかなり違ったものになっていたのではないかと思われる。
次の症例は60代半ばの男性。10年前から内服薬による糖尿病の治療を受けている。左第1趾の糖尿病性潰瘍治療中に,左足足底にも膿瘍を作ったが,この経過を提示する。
- 初診時の状態。左足足底の土踏まずの部分に膿瘍形成を認める。直ちに切開したが,膿の量が多く,壊死組織の量も多かった。ガーゼによるWet to Dry法でとりあえずドレナージを行った。また同時に,プロスタンディンの点滴も開始。
- 5日後の状態。また悪臭を伴う膿が多量に出ている。外科的デブリードマンに精を出しつつ,局所治療もカデックス軟膏に切り替えた(ちなみに現在はカデックスは全く使用していない。当時はまだ甘かったなぁ)。
- 8日後の状態。膿の排出は少なくなったが,広いポケット形成を伴っている。また,壊死している腱,筋膜が露出しているので,これを可及的に切除。25日目頃からポリウレタンフォームの被覆に切り替えた。
- 34日後の状態。ポケットはほとんど埋まり,健康な肉芽で覆われている。このあたりになると,3日に一度,ポリウレタンを交換するだけでよい。
- 58日後の状態。
- 69日後の状態。肉芽は1センチくらいになったが,足底側に2センチくらいの瘻孔が残っていたため,これを切開した。
- 111日後にようやく上皮化。創は85日目頃ほとんど閉じかけたが,この時,心不全で入院した際に創も悪化し,このため完全治癒まで時間がかかってしまった。
さて,糖尿病性潰瘍の治療であるが,私の考える治療の原則とは次のようになる。
- 糖尿病という全身疾患の一症状なので,まず糖尿病のコントロールを最優先する。これをしないで潰瘍だけを治療するのはナンセンス。
- 必ず,プロスタグランディンE1の点滴治療を併用する。潰瘍の原因が「局所の循環不全」である以上,血流の改善なしに潰瘍が治癒することはありえない。
- デブリードマンは徹底的に行う。血流のない組織はどんどん切除する。
- 膿が多い時期の局所治療はドレナージを最優先にする。
- 湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)に切り替えるのは,膿が少なくなってからが安全だろう。
- 骨皮質が露出していても,骨自体が感染源になっていなければ,ドレナージさえ効かせていれば,やがては肉芽で覆われることがほとんどである。
- 潰瘍治療用の軟膏(肉芽をあげるとか,表皮形成促進とかの機能を持つもの)と被覆材による治療を比べてみると,後者の方がはるかに治療効果があるようだ・・・あくまでも個人的印象だが・・・。
(2003/03/14)
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