入院生活


 ある人からこんなメールをいただいた。

急遽,入院生活を余儀なくされています。○○大学病院(誰でも知っている有名大学です)に入院していますが,医療の質は別にして、病室はどうにもなりません。個室にも電話回線一つなく、メールも送れずパソコンの使用もできない状態です。何せ、ベッドにて使用する机一つない状態です。
 こんな内容である。
 たとえ入院していても,メールが使え,パソコンが使えたら仕事ができる業種って沢山あると思うし,パソコンやメールを使っただけで病状が悪化する病人も,そんなに滅多にあるわけじゃない。だったら,入院中にメールもできない,パソコンも使えないってのは,社会にとっても会社にとっても患者さん本人にとっても,大きな損失じゃないだろうかと思うのだが,どうだろうか? もちろん,仕事そのものが病状を悪化させている人もいるだろうが,絶対数としてはそれほど多くないと思う。


 こんな事を書くと,厳格派の看護師長さん方面から,「入院しているんだから安静にするのは当たり前です。朝は6時に起きて夜は9時に寝るのが入院生活というものです。安静のために生活が制限されるのは当たり前でしょう。安静にしてこそ病気が治るのです。パソコンなんか使ったら安静を保てるわけがありません。それで悪化したらそうするんですか」なんていう批判の声が聞こえてきそうだけど,これって本当に正しいのだろうか。

 もちろん,ベッドから起き上がる元気もない患者だったら,放っておいても「ベッド上安静」をしてくれるだろう。しかし,健康体の患者だっているのだ(例:整形外科の外傷患者は全て健康であり「病人」は一人もいない)。こういう患者にとって,夜9時に寝る生活は安静ではなく苦痛とストレスのをもたらすだけのような気がするが,いかがだろうか。


 メールの話に戻すが,院内や病棟でコンパクトフラッシュタイプのPHSや携帯電話を使うのまずいだろうから,むしろ各病室か病棟にモデム用のモジュラージャックがあってもいいだろうし,ADSLに繋がっているLAN端子があったら,もう言う事がない。これだけで,灰色の入院生活が,一挙にバラ色になるかもしれない(・・・少なくとも私だったら・・・)

 むしろ,各ベッドごとにこういう設備があって,パソコン使い放題,インターネット(メール)使い放題にした方が,患者さんのストレスも少なくなり,より快適に安静が保てるんじゃないだろうか。


 こんな事を書くと,「入院は集団生活なんですから,規律を守らなければいけません。皆で規則正しい集団生活をおくるのが病院です。パソコンだ,メールだと言っても,それを使っていない人もいるんですから,一部の人にだけ便宜を計る事はできません。皆で生活する場が病棟なんですから多少の不便は付き物です」という声も聞こえてきそうだ。

 一見もっともに思える反論だが,「なぜ,入院しているだけで不便を強いられなければいけないのか」という根本的な疑問に答えるものではないと思う。つまり,病気(怪我)を治すために強いられる不便なら意味があるだろうし,患者さんもそれに耐えられるだろうが,現実的には,治療と本質的に関係のない「意味不明の不便」多すぎないだろうか,ということなのである。

 たかが病気(怪我)をしただけなのに,なぜ修道士か修道女のような禁欲生活を強いられなければいけないのだろうか。
 歩ける患者なのに,なぜベッドの上で食事を食べなければいけないのだろうか(ベッドは食事をするためのものじゃないはずだ)。夜9時過ぎにテレビを見ると病状が悪化する患者って沢山いるのだろうか。集団生活の規律を守る事が,本当に病気を治すことに必要なのだろうか。規律正しい没我的集団生活をおくらなければ,病気は治らないのだろうか。


 「入院(手術)したから安静にしなさい」と,安静を強要する方は簡単である。口頭で命令するか,文章で通知するだけでいいからね。患者さんは基本的に弱者であり,強者である医療者側には逆らえないのだから・・・

 だからこそ,それを踏まえた上で,安静を強制するのであればこそ,その「強制された安静」をより快適に過ごすための工夫を医療側がすべきだろうし,そのための方策を提供すべきではないだろうかと考えるのだ。それは「安静を強要」する側の最低限の礼儀ではないだろうか。


 もう一度繰り返すが,仕事の上でメールでのやり取りが欠かせない時代になってしまった以上,入院したためにそれが使えないのは,社会的損失でしかないと思う。

(2003/03/12)

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