本当に必要な皮膚の消毒とは?
まいどまいど,「傷の消毒はもってのほか」「こういう消毒は無意味」と書き散らしているが,逆に,本当に必要な「皮膚の消毒」とはどういう場合だろうか。
私の考えでは,抽象的な言い方をすれば「本来無菌でないところから無菌のところに操作を及ぼす時,その操作の前に無菌でないところを消毒するのは意味がある」と考えている。具体的に言うと,手術の執刀前の術野の消毒,カテーテル挿入前の術野の消毒がこれにあたる。
つまり「本来無菌でないところ(=術野の皮膚)」から「無菌のところ(=深部臓器)」に侵入する操作が手術でありカテーテル挿入である。だから,これらの操作をする前に経路にあたる皮膚を十分に消毒する事には意味があるし,手術や操作の間,その部分の皮膚だけでも無菌に近い状態にできれば感染の確率はグンと減るのは当然である。
消毒したフリ
こうなってくると,「必要な消毒は徹底的に行い,不必要な消毒は全廃の方向で」というのが望ましい方向だと思うが,どうも医療現場には「消毒しているが実は消毒になっていない」行為が多いのではないかと思う。いわゆる「消毒したフリ」である。
例えば,消毒薬を皮膚に作用させても,殺菌力が瞬時に発揮されるわけではない。殺菌力が本質的に化学反応である以上,効果がでるまでに時間が必要だ。確かポビドンヨード(イソジン)では最低でも3分くらいは必要だったと思う。となると,消毒した直後に生理食塩水で湿らせたガーゼで術野を拭き取るのは(・・・実は私,これをよくやってます・・・短気なもんでして・・・),全く効果がないことになり,ほとんど「消毒したフリ」である。
あるいはポビドンヨードで消毒した直後,ハイポで脱色する医者がかなりいるが,この時もハイポで脱色した瞬間にイソジンの消毒効果は全くなくなっているらしい。これも「消毒したフリ」であり,イソジンもハイポも無駄な使われ方をしている。
あるいは,垢でテカテカしている皮膚を消毒するのも問題。見ていると白亜紀の地層のように堆積した垢の層が,消毒薬をはじいているのがわかると思う(イソジンではこれがよくわかる)。これは垢が一種の被膜になって,消毒薬に対するバリアになっているわけだ。もちろん,こういうところをいくら消毒したところで,堆積した垢層の下の細菌は安泰である。これもよく見る「消毒したフリ」の例。
こういう皮膚に対しては,手術前にお風呂に入れて十分に石鹸で洗い,更に消毒前にアルコールで脱脂し,それから消毒した方がいいと思う。垢の上からの消毒は全く無意味である。
(2003/03/04)