学校の保健室でできること


 最近,「外傷の湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)」が少しずつマスコミで取り上げられるようになったためでしょうか,学校の養護教諭,つまり保健の先生からの質問が増えてきましたので,これについて考えてみます。


 まず保健室での処置の問題点を整理してみます。

 とまぁ,こんなところになるのではないでしょうか。

 恐らく「湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)」について知らなければ何も悩まずに傷を消毒できたのに,知ってしまったからにはそういう態度は取れない・・・が,その後の治療をする病院と違う事をする訳にもいかない。これが悩みの本質でしょう。
 また,文部科学省が提唱していない治療法を学校現場でしていいのか,という問題もあるでしょう。


 解決法は幾つかあります。

 最もアグレッシブな方法は,生徒やその保護者,そして学校の先生達に「傷を消毒しない,乾かさないという最新の治療法があって,すごい治療効果らしいです。私も自分が怪我をした時に試してみましたが,全然痛くないし,跡も残さずに治りました」と宣伝しちゃうこと。引用文献として,「毎日ライフ 2003年3月号」などの取材記事のコピー,そしてこのサイトの該当する個所のコピーも付けちゃいましょう。

 ちなみに,「私が実際に試してみたら・・・」と尾鰭を付けるのも効果的です。生徒のためです,このくらいの誇大広告はJAROも見逃してくれるはず。

 もちろん,市内の養護教諭の集まりで話したり,専門雑誌などに投稿して布教活動する手段もいいでしょう。「生徒のため,生徒の健康のために新しい治療を普及させたい」というスタンスを明確にすれば,これに正面から反対する同僚はそんなにいないと思います(・・・多分)


 「今まで消毒をしてきたのに,いきなり止めると不信感を持たれるのでは」という質問も多いのですが,これは簡単に解決できます。実際には水道水で濡らしたガーゼで傷周囲を拭くだけにして,生徒には「消毒しますね。これ,アルコールでない消毒液です」と言って「消毒したフリ」をします。
 「消毒という傷害行為」に比べれば,水道水を消毒を言いくるめる嘘なんざ,大した罪じゃありません。少なくとも水道水は消毒薬のような「生体毒性」はありませんから・・・。


 でも,それ以上に難しいのが,周囲の病院とのトラブルをどうするかという問題。医者が素人から「こんな新しい治療があるんですよ」と教えられたら,まず反発するのが普通でしょう(ま,当たり前でしょう)
 こういう場合は,時間がかかっても「外堀から埋める」しかありません。具体的な方法としては,新聞に投書する,市の広報に載せてもらうなどでしょうね。生徒の保護者が校医だったら,保護者に資料を配布した時点で知ってもらえるでしょうが・・・。

 ま,医者への布教は私が現在している仕事なんですが,この治療法が「医学会の常識」になるにはまだまだ時間がかかりそうです。医者にとっては,自分が正しいと信じてしていることを全く否定されるわけですから・・・。


 周囲の病院や生徒の保護者とのトラブルを避けることを最優先したい,という場合は,上記のように「水道水で傷の消毒したフリ」をして,心の中で「ごめんね」と謝りながらガーゼやキズバンソウコウを貼りましょう。そして「この後の治療は病院でね」と説明。
 生徒が受診した先の病院で「消毒とガーゼ」という19世紀の創治療をしても,それは学校の責任ではありません。そういう病院を選ぶしかない地域に育った,生徒の運命です。


 あと10年もすれば,「今時,消毒をしている病院があるんだね。びっくりしたよ」とか,「田舎の病院って,いきなり傷を消毒するんだね。あまり痛いんで新聞に投書してやろうかなと思っちゃった」と言われる時代が来るはずです(・・・自信は・・ないけどさ。そういう時代になったら,学校の保健室でも「傷は洗ってラップをあてる」治療を大手を振ってできるようになるはずです。

(2003/02/12)

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