インフルエンザはお茶のうがいで予防?


 何気なしにテレビを見ていたら,インフルエンザについてのコーナーがあり,アナウンサーの質問に医者(医学博士と言う肩書きだった)が答えていたが,そこで気になった医者の言葉があった。

「お茶でうがいをするとインフルエンザ予防に効果があると言われますが,どうでしょうか?」
「お茶にはカテキンという殺菌作用を持つ成分が含まれるため,うがいは有効です。市販の消毒薬のうがいも同様に効果があります」
というのがそのやり取り。オイオイ,これって本当?


 まず,「お茶にはカテキンが含まれ」というのは問題ない。「カテキンには殺菌作用がある」というのも本当。そして,カテキンがインフルエンザウィルスに対しても効果があるのも事実だが,普通に家庭で煎れたお茶に,ウィルスを殺すのに必要な濃度のカテキンが含まれているかと言うと,これは別問題だろう。インフルエンザウィルスに対しては,「比較的低い濃度のカテキンも有効」とされているが,実際のお茶のカテキン濃度はその有効濃度に達しているのか,ちょっと疑問である。

 ついでに付け加えると,優れた殺菌力を喧伝されているカテキンであるが,「実験室で抽出したカテキンに一般細菌に対する殺菌力があるのなら,家庭で普通に煎れたお茶にも殺菌力がある」・・・とはならないのである。実際に,お茶と生理食塩水の中にMRSAを混入し,細菌数の変化を経時的に観察した実験では,生理食塩水中の細菌は減少しているのに,お茶の中では逆に増加していて,お茶には殺菌力がないことが示されている(Expert Nurse, 19(2): 51, 2003)。これは実験的に抽出したカテキンの濃度と,普通に煎れた飲料用のお茶に含まれるカテキンの濃度に,かなりの差があることを意味している。


 そして「うがいがインフルエンザの予防に効果がある」となると完全に眉唾である。インフルエンザの感染経路では鼻腔がメインであるとされている。となると,たとえインフルエンザウィルスにお茶が有効であるとしても,鼻腔をお茶で洗わないと意味がないと思うのだが,どうだろうか。
 そして,うがいでウィルスが除去できるとしても,それはせいぜい口腔内と中咽頭のごく一部である。いくらお茶に抗ウィルス作用があったところで,口腔内のウィルスだけやっつけたところで,それに意味があるのだろうか。

 さらに「市販の消毒薬によるうがいも効果がある」に至っては噴飯物。多分,イソジンガーグルを念頭においての発言だろうが,イソジンはウィルスを殺す作用を持っていないのは基本中の基本。抗ウィルス作用を持っていないのに,それでうがいをすることでインフルエンザの予防ができる,というのは本質的に矛盾している。


 素人が「うがいにはインフルエンザ予防効果がある」「お茶はすごい殺菌力を持っているらしい」「消毒薬でうがいをするとインフルエンザを予防できる」と考えるのはしょうがないと思うし,そういう素人につけ込んでインチキ健康法を宣伝する番組が後を絶たないのも,ある意味仕方ないと思う(・・・「あ○あ○大○典」とか「思い○き○テ○ビ」とか・・・)
 しかし,マスコミで「医学博士」の肩書きを持つ人間が,そういう素人レベルの発言をしてもらっては困るのである。

(2003/02/06)

左側にフレームが表示されない場合は,ここをクリックしてください