創傷被覆材の成績表


 以前にも「現在の創傷被覆材は完璧ではない」と書きましたが,それに関連する質問を受けましたので,さらに詳しく述べてみます。

 なお,以下の項目は私が日頃感じている不満な点,評価している点を並べたものです。それぞれの素材ごとに「○:評価できる」「△:ちょっとこれは不満」「×:これはちょっとなぁ」と評価を並べてみました。


評価項目 ハイドロコロイド ポリウレタン アルギン酸 ハイドロファイバー ハイドロポリマー ハイドロジェル
取り扱いが容易
補助的固定材料(絆創膏など)が不要 × × × ×
自由な大きさ,形に切って使える ×
種々のサイズを揃える必要がない ×
正常皮膚への悪影響がない △? △?
浸出液の吸収能力がある × ×
融解した時の不快な臭気がない ×
複雑な形状の局面でも使える ×


取り扱いが容易
誰でも簡単に扱え,失敗がないと言うこと。
フィルム材で閉鎖するタイプのもの(アルギン酸,ハイドロファイバー,ハイドロジェル)があるが,フィルム材は平面で貼るのは簡単だが,指の外傷でうまく貼るのは結構技術を要する。

補助的固定材料(絆創膏など)が不要
被覆材自体が接着面を持っているもの(ハイドロコロイド)か,接着剤とセットになっているもの(ハイドロポリマー)以外では,絆創膏やフィルム材などの補助的固定材料が必要になる。
このためハイドロコロイド以外は「固定材料を貼るためのスペース」が必要となり,眼瞼や口唇などで使いにくいことになる。

自由な大きさ,形に切って使える
外傷は症例ごとに大きさも形も位置もバラバラである。だから創の形や大きさに合わせて使えた方が便利である。

種々のサイズを揃える必要がない
前項の裏返しがこれ。
創面の大きさや形に合わせて各種サイズの被覆材を揃えなければいけないとしたら,非常に不経済だし,非効率的だ。
ハイドロポリマーや一部のポリウレタンフォームのようなボーダータイプ(小さな面積の被覆材をそれより大きな接着材料付きtop dressingが覆っているタイプ)は,「傷に合わせて被覆材を調節する」のが非常に難しい。要するに,この接着材料の部分が余計なのである。

正常皮膚への悪影響がない
この項目は私の単なる臨床的印象で書いております。「うちの製品には皮膚への悪影響なんてありません」というメーカーがありましたら,訂正しますので御連絡下さい。
まず,個人的印象として皮膚に悪影響がなさそうなのがポリウレタンフォーム。
逆に明らかに皮膚障害(発赤など)の経験があるのがハイドロコロイド。ハイドロポリマーの接着剤はかなりいい素材だと思うが,皮膚への影響は皆無ではないようだ。
その他(アルギン酸,ハイドロファイバー,ハイドロジェル)に関しては被覆材そのものの影響なのか,その上を閉鎖するポリウレタンフィルムによるものなのかよくわからないため,「?」とした。

浸出液の吸収能力がある
多すぎる浸出液を被覆材が吸収してくれるかどうかは,患者さんの快適度を大きく左右する因子である。特に外傷患者のように「普通に社会で生活する」ためには,浸出液が途中で漏れ出しては困るのである。
この点で合格点なのは,ポリウレタンフォーム,ハイドロポリマー,ハイドロファイバーの3つ。通常の外傷であれば,余程の事がない限りこれらから液が漏れ出すことはない。
次点はアルギン酸。もちろん水分吸収能力はあるのだが,上記3つに比べるとやや落ちる。ちょっと深い挫創になると,翌日,液漏れしていることがある。
これはちょっとなぁ・・・というのがハイドロコロイドとハイドロジェル。もともとハイドロジェルは使い道が異なっているため,ここで取り上げるのは不適かもしれないが,明らかに液漏れがひどいのはハイドロコロイド。ちょっと深い傷になると,ほとんど液漏れしてくるため,患者さんにはあらかじめ「漏れてきたらガーゼをあてておいてね」と説明しておく必要がある。

融解した時の不快な臭気がない
これがハイドロコロイドの最大の問題点。被覆材自体にも独特の臭気があるが,融解した時にはかなりの臭いになる。上口唇に使うと臭気のため食欲が落ちたという人もいる。
その他については,液漏れでもしない限りは特に問題にはならないようだ。

複雑な形状の局面でも使える
皮膚外傷が一番多いのが手指や四肢であり,顔面である。これらの部位は立体的に複雑な形状をしているので,その形状に合わせて創面を閉鎖できるかどうかは非常に大きな問題である。
まず落第なのがポリウレタンフォーム。厚くて弾力があるのが災いし,凹面では浮いてしまうし,鼻のように突出している部位を覆うのも無理。
繊維系(アルギン酸,ハイドロファイバー)のもの,あるいは軟膏状のもの(ハイドロジェル)は深い欠損でも浅い欠損でも大丈夫。問題があるとすれば,複雑な形状の部分ほど,表面を覆うポリウレタンフィルム材を貼るのが難しいこと。特に鼻や口唇周囲などをフィルムで密封するには,ちょっとテクニックが必要。
ハイドロポリマーは「相手の欠損の形に合わせて,自分が膨らんでいく」という戦略をとっているので,かなり複雑な形状でも気にせずに使える。ただ,ボーダータイプの宿命として,使いにくい部位,使えない部位があったり,小範囲の外傷に使えないのが弱点。
と言うわけで,最高点はハイドロコロイド(特に薄いタイプ)。複雑な形状の部位でもまず大丈夫だろう。ただ,製品ごとに柔軟性とか薄さに差があり,柔軟性に乏しいものとそうでないものとでは,使い勝手にはかなりの差があるのも事実。


 もしも,これから新しい創傷被覆材を開発しようというメーカーがありましたら,こんなところを改善していただけないでしょうか。アイディアならいくらでも無料で提供いたしますので,よろしくお願いいたします。

(2003/02/01)

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