医学的には全く根拠がないのに,なぜか一般社会では常識となっている事がある。その一つが「皮膚呼吸」である。医学的知識があれば,人間は皮膚で呼吸していない事なんて誰にもわかる事実のはずなのに,なぜか一般的には「皮膚で呼吸している」というのが流布しているようなのだ。
試しに,インターネットで「皮膚 呼吸」で検索してみると,「人間は皮膚で呼吸していない」と明記してあるサイトはごく一握りであり,それ以外の90%以上のサイトでは「皮膚で呼吸している」ことを前提条件にいろいろな事を説明しているのだ。皮膚で呼吸できるのはカエルなどの両棲類だけのはずだが,いつのまにかこの国では,人間は両棲類の仲間入りしたことになっているらしい。
人間は皮膚で呼吸しているというのは言ってみれば,「人間は卵を生む」というのと同じようなものである。
ちなみに,「皮膚と呼吸」に関する,正しい知識を列挙すると次のようになる。
そしてある皮膚科医の個人サイトには,幼い頃に「皮膚呼吸ができないと人間は死んでしまう」と聞き,その真偽が皮膚科医になってから初めて判明したと,次のように書いてあった。
ところが,インターネットで流れている情報(主にエステ関係,化粧品関係が多いようだ)では,とたんに「人間は皮膚で呼吸」の世界になってしまう。例えば,「皮膚 呼吸」で検索したサイトの記述を順不動で並べてみる。
なんて記述が掃いて捨てるほど見つかる。インターネットのサイトに関する限り,「皮膚は呼吸器官である」というのがゆるぎない事実らしい。この業界では人間を両棲類に分類しているんだろうか?
ちなみに,最後から二つ目の「頭皮の皮膚呼吸」は禿の予防方法を提案するサイト(・・・だったかな?)であり,最後のものは風邪の予防に関するサイトらしい。ここでは
なぜ,こういう事を書くかと言うと,創傷の湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)について説明すると,時々,「皮膚を密封すると皮膚呼吸を妨げませんか?」という質問を受けるからだ。こういうのを聞くたびに,「皮膚で呼吸している」という迷信を信じている医療関係者がいるんだなと,かえってびっくりさせられる。
もう一度繰り返して書くが,「皮膚で呼吸している」というのは単なる迷信である。従って,「皮膚呼吸を妨げない」ことをうたった商品や治療法などは全て,理論的根拠がないと言える。
(2003/01/16)