痂皮の扱いについて


 以前,「痂皮は切除してから被覆した方がいい」と書いたが,一部訂正し,痂皮についての取り扱いをまとめてみた。

 なお用語をまとめると,通常「カサブタ」と呼ばれている痂皮は crust であり,これは浸出液が固まったもので,水に溶ける。だから,そのまま被覆材やフィルムで覆っておけば,自然に融解する。一方,黒色期褥創などに見られる黒色痂皮 eschar と呼ばれるものは、正しくは黒色壊死組織でありであり,こちらは壊死が表皮・真皮・皮下脂肪にまで及んだもので水に溶けることはない。だから切除が必要。
 要するに,全く異なっている両者に「痂皮」という語句をあてたのが間違いらしい。


 症例1は60代女性。歩行中に車にはねられ,全身の打撲とともに顔面挫傷を受傷。受傷4日後に当科を紹介された。

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  1. 初診時の状態。2箇所縫合されているが,それ以外の皮膚欠損部はガーゼがあてられ,crustが創面を覆っている。
  2. そのまま特に何もせずに,ハイドロコロイドで被覆。
  3. 翌日,ハイドロコロイドを除去したところ。痂皮はかなり溶けている。更にハイドロコロイドによる被覆を続けた。
  4. 4日目の状態。前額部の深い部分を除き,きれいに上皮化している。なお,完全上皮化が得られたのは更に3日後である。


 症例2。20代の女性。自転車に乗っていて転倒し,顔面挫傷。受傷翌日に当科を受診。

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  1. 初診時の状態。3箇所のcrustに覆われた創面を認める。この症例では砂などの異物が創面に残っていたため,直ちに局所麻酔下にブラッシングして,異物とともに痂皮を除去。
  2. アルギン酸塩で被覆。
  3. 翌日の状態。異物がほとんど除去されていることがわかる。ここからハイドロコロイドの被覆に切り替えた。
  4. 5日目頃にほぼ上皮化した(写真は2週間後の状態)。非常にきれいに治癒している。


 症例3。8歳女児。遊んでいて転倒し受傷。

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  1. 初診時の状態。鼻背,上口唇,頬部にcrustに覆われた創面を認める。
  2. この例では異物の混入がないと判断し,そのままアルギン酸で被覆した。
  3. 翌日の状態。頬部の痂皮はきれいになくなっている。
  4. 4日後の状態。鼻柱部を除き,鼻背もきれいに上皮化している。鼻背と違い,鼻柱はハイドロコロイドなどで完全に閉鎖するのが難しいため,鼻柱の治癒が遅れたものと思われる。


 症例4。30代男性。仕事中に下腿を打撲した。自宅で様子を見ていたが,疼痛が強くなり,当科を受診。

  1. 初診時の状態。escharの周囲に著明な発赤が認められる。炎症が明らかに起こっていて,その原因が痂皮と考えられたため,局所麻酔下に切除し,湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)を行った。翌日再診した際,疼痛はなかった。
     この症例では,完全治癒までに10日を要している。


 というわけで,痂皮(カサブタ)の扱いであるが,下記のようにまとめられると考えている。

  1. crustであって創面に異物の混入がないと判断できる場合はそのまま被覆材などで密封。
  2. 創面に異物が明らかに残っている場合は,局所麻酔下にブラッシングをして,異物ごと痂皮を除去してから閉鎖。
  3. escharの周囲に発赤が認められ,その部位に疼痛がある場合は,局所麻酔下にescharを切除。

(2002/12/24)

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