現在の被覆材はまだ欠点が多い


被覆材は高価でスキンケアからすると悪影響を与えますが、創傷治癒は促進します。
私のように臓器不全患者を対象にしていると皮膚のバリア機能が失われていることに対応を迫られます。
接触顕微鏡で皮膚を見て治療をしていますが皮丘が平坦化し皮溝が浅くなる肌理の消失を伴った敏感肌のドライスキンが多いので湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)による皮膚の浮腫や高い頻度の酸化物による障害を見ます。
テープは一定以上の時間貼り続けると皮膚に障害を与えます。

 このようなメールをいただきました。非常に重要な御指摘ですので,ここで取り上げさせていただき,あわせて私の考えを書いてみます。


 これは以前から気になっていることでした。要するに創傷被覆材は「創傷」に対しては高い治療効果を持ちますが,創周囲の正常皮膚に発赤を起こす事はよくありますし,真夏で発汗の多い部位の閉鎖を続けていて,アセモができて困った事もあります。要するに通常の絆創膏に比べれば皮膚障害は少ないものの,それでも長い時間貼り続ければ,何がしかのトラブルは避けられません。
 要するに,創傷被覆材は外傷治療において非常に有用な治療材料ですが,まだ完璧ではないのです。いい素材だけれど,欠点も少なくありません。

例えばハイドロコロイドを外傷に使うと非常に効果がありますが,不満な点も多数あります。まず,上述のような発赤が起こる事,融解に伴う臭気がある事(だから鼻に周囲,上口唇に使うと食欲が減退する),融解して解けだすと不愉快な事,etc.......
 また,ポリウレタンフォームでは顔面に使うには目立ちすぎること,絆創膏などの補助的な固定が必要なことが欠点です。他の被覆材でも同様にさまざまな注文点があり欠点があります。ベストといえるものは皆無です。

その意味では,現在の創傷被覆材はまだまだ発展途上です。というか,外傷に使われ始めてまだ日も浅く(まだ10年にもなっていないはず),治療としては緒についたばかりです。いわば始まったばかりの治療です。

それなのに,私がなぜ外傷治療に被覆材を提唱しているのかというと,これがあくまでも,「現在,普通に入手できる医療材料の中で創傷治癒にベスト」だからです。だから皮膚への影響に敢えて目を瞑り,治療に使っています。将来的にわたって今の製品がベストとは思えませんし,メーカー側ももっと良い材料を開発して欲しいと思っています。
 とにかく,目の前にある皮膚欠損創を何とかしようと考えているからです。


 外傷治療を念頭に置いた理想の創傷被覆材とは,融解しない事,簡単に扱える事,正常皮膚への影響が最小(あるいはゼロ)であること,どの部位にも使える事,創の大きさや形に自由に対応できる事,目立たない色調と素材である事,臭気などの問題がない事・・・でしょう。
 これが実現した時,創傷治療,外傷治療は新しい段階に進むはずです。

 恐らくあと5年で「昔は傷にガーゼをあてていたんだよね」と言われるようにしたいし,10年後には「10年前はまだ,ハイドロコロイドを傷に使っていたんだってね」と言われるようになって欲しいと思っています。


取りあえず今のところ,私たちが取り組まなければいけないのは,「消毒してガーゼ」という野蛮で非科学的な外傷治療を,過去のものとして一掃することです。これが共通の敵です。
 そして同時に,外傷への湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)が一般化すれば,全く新しい視点からの被覆材を開発するメーカーも現れるかもしれません。

 繰り返しになりますが,私は自分の方法がベストだとは思っていません。せいぜい,従来からの「消毒してガーゼ」よりベターな程度かもしれません。もちろん,「十分にまし」だとは思いますが・・・・。

(2002/11/25)

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