細菌を蟻に例えると −その3−


 以前,「細菌を蟻に例えると −その1−−その2−」と書きましたが,ちょっと意味が判りにくいという声があったため,わかりやすい(?)図で再度説明。絵が幼稚,なんて言わないこと!
 なお,画面は1024×768ドット,あるいはそれ以上でご覧下さい。これより小さいと図の説明が読みにくくなります。


皮膚が地面,皮膚常在菌が蟻(赤いからエゾアカヤマアリだな,きっと),毛穴が蟻の巣穴ですね。


消毒薬に相当するのが殺虫剤。これを地面を這いまわっている蟻を殺すために地面に噴霧する。

ちなみに,たいていの殺虫剤は人体にも有害だけど,これも消毒薬に似てますね。

するとめでたく(?)地面の蟻は全滅できた・・・・が,巣穴の中の蟻の数は殺虫剤をまく前と変わっていない。

かくして,殺虫剤の効果が消えると,また地面は蟻だらけ。

いったい何のために殺虫剤をまいたんだっけ? 殺虫剤をまいてもまかなくても同じじゃん。じゃぁ,まかなくてもいいんじゃない?


 要するに,「蟻の供給源」としての蟻の巣がある限り,地面に殺虫剤を振りまいたところで,蟻がいないのは短時間に過ぎない。時間がたてばありはまた這い出してくる。皮膚常在菌なのだから当たり前である。
 皮膚の消毒も同様。皮膚(あるいは粘膜,創面)を消毒してもその効果は一時的なものに過ぎない。一時的にでも菌がいなければいいという場面(例:IVHを挿入するとか,これから皮膚を切開して手術するとか)では,皮膚の消毒は意味を持つが,それ以外で皮膚を消毒するのは意味がないのだ(例:IVH挿入後に皮膚を消毒する。手術創を消毒するなど)


 で,次なるモデルを考えてみる。エゾアカヤマアリの巣の近くにツヅレサセコオロギがいる場合。

エゾアカヤマアリとツヅレサセコオロギが仲良く(?)遊んでいるの図。

蟻は巣を持っているが,コオロギは巣を持っていない。つまり,コオロギの「供給源」はない。


ここに殺虫剤をまくの図。

蟻もコオロギも一緒に殺され,地面から昆虫の姿が消える。

しかし,蟻の巣が健在なので,蟻だけがまた地面を這い回る。つまり,コオロギだけがいなくなる。


 つまり,常在菌(=蟻)と外来菌(=コオロギ)がいる場合,消毒することによって後者は除くことができることになる。これは消毒薬のみならず,抗生剤の投与でも重要な概念になる(・・・と思う)

 何度も書いてきたように,褥瘡や熱傷,開放創面から検出される細菌のほとんどは,周囲の皮膚から移動してきた「皮膚常在菌」,すなわち蟻と同じだ。だから,抗生剤を投与して褥瘡創面,熱傷創面の細菌を消そうと思ってもうまくいかないのだ。一時的に消えたと思っても,耐性菌に菌交代してしまうのが関の山(これは「隣の庭の蟻」がこちらの庭に入ってくるようなもの)

 しかし,肺炎球菌による肺炎で抗生剤投与をするのは,コオロギに殺虫剤をふりまくのと同じ。肺炎球菌は呼吸器や皮膚の常在菌でないため(要するに巣を持たないコオロギ),一度全部消してしまえば,よそから菌(=コオロギ)が侵入しなければ肺炎は再発しない。


 ちなみに,このモデルを使うと褥瘡,熱傷,皮膚欠損創はどうなるかというと,

これは褥瘡,熱傷,皮膚欠損創がない状態。健常は皮膚って,こんなに細菌(皮膚常在菌)がうごめいているものです。
皮膚常在菌が居てはじめて皮膚って健康なんだなぁ(・・・立松和平風・・・ってみんな覚えているかな?)


庭の一部が掘れてしまった。これが褥瘡や皮膚欠損創のでき始めの状態。

掘れた部分(=潰瘍創面)にはまだ蟻は入り込んでいない。

でも,ちょっと時間がたつと,掘れた土の表面(=褥瘡や皮膚潰瘍の創面)にも蟻が這い回ってくる。

この掘れた部分だけ蟻に殺虫剤をかけても(=褥瘡などの創面を消毒しても),時間が立てばやはり蟻は掘れた部分に入り込んでくる。

 ちなみに,この図で掘れた穴はどうすれば元通りになるかというと,土をかけて埋めるだけである。蟻がいようといまいと,せっせと土をかけていけば,やがて穴は平らになる。
 褥瘡や皮膚欠損創の場合は,図のオレンジの部分に蓋をしておくだけで,オレンジの部分が自然に盛り上がり(=肉芽が上がり),やがて上皮化する,というのに相当する。

(2002/11/17)

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