足背の広範囲皮膚軟部組織欠損


 症例は20代後半の男性。作業中に右足に重い機材が落ちてきて受傷。直ちに作業所近くの病院を受診。入院となり,翌日,第4趾,第5趾の骨折観血的整復術およびワイヤー固定術を受けた。しかし次第に第4,第5趾が壊死し,足背の皮膚壊死も増悪してきたため,自宅に近い当科を紹介された。

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  1. 初診時の状態。少しずつデブリードマンを行いながら,創面はプロスタンディン軟膏とフィルム材で閉鎖し,同時に,PGE1の点滴を開始した。
    この時点では「とにかくデブリードマンによる壊死組織の切除と肉芽をあげることを最優先にしよう。肉芽が上がったところで植皮をしよう」と考えていた。ま,常識から考えればそうだろうな。

  2. 16日目。第4趾,第5趾は壊死部分と活きている部分が完全に分離するまで,そのままにしておいた。それ以外の部分はかなり壊死組織がなくなっている。

  3. 30日目。壊死した足趾は切除し,来週にでも植皮をしようと計画。手術申込書に検査データなどを記入して手術室に提出。浸出液も多いので,ポリウレタンフォーム(ハイドロサイト)で創面を被覆。

  4. 35日目。手術を2日後に控えていた。この数日間で,目に見えて皮膚欠損部は収縮し,驚くほどのスピードで上皮化が起こっている。この時点で「手術は止めてハイドロサイトで行こう」と決意。恐がり屋さんの患者さんも手術中止を聞き,大喜び。翌日から,本格的な歩行のリハビリを開始。

  5. 45日目。更に上皮化進行。ハイドロサイトに切り替えて2週間である。

  6. 54日目。上皮化ほぼ完了。自宅に戻りたがっていたため,1週間後に歩いて退院。

  7. 108日目。潰瘍の発生もなく,上皮化した部分の皮膚は安定している。なお,退院後,瘢痕拘縮による第4趾の伸展障害が次第に進行したため,この3ヵ月後,瘢痕拘縮形成術を行っている。


 このような症例では,植皮すべきかどうかが問題になる。通常は植皮だろうが,私は以前にも書いたように,この治療手技は他の手段がない場合に選ぶべきであり,安易に行う治療ではないと思っている。湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)に比べ,植皮術には患者さんにとってメリットがないと思うからだ(・・・もちろん,病院の収入という面からは十分にメリットがあるけどね)

 この症例で最初から植皮を行ったとしても,その後の瘢痕拘縮は避けられないため,どこかの時点で瘢痕拘縮形成術が必要になる(遊離皮弁,有茎皮弁なら瘢痕拘縮はかなり避けられるだろうが・・・)。つまり,足背などの動きが要求される部位に植皮をすると,手術の回数は最低2回は必要になるはずだ。
 となると,最初は保存的治療でなるべく上皮化させ,その後の経過を見て瘢痕拘縮形成をしたほうが,結果的に手術回数が1回少なくなる。

 私が患者だったら,後者の方を選びたい。その結果,後で瘢痕拘縮が起こったところで諦めがつくというものだ。最初から植皮をして,その後また手術というのは納得できないないと思う。


 この症例は最初,デブリードマンをメインに,軟膏とフィルム材での閉鎖にした。当初は「ハイドロジェル+フィルム」でいくか悩んだが,壊死組織が取れるまでに2週間以上かかりそうな気配だったため,「軟膏+フィルム」にしたが,これも有功だったようである。

(2002/11/06)

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