痛くない熱傷治療への提言


 熱傷の局所治療も,昔ながらの「消毒して軟膏とガーゼ」を推奨している人もいれば,一方では培養皮膚による治療も次第に行われるようになっていて,まさに玉石混交と言う感じだ。
 もちろん,広い範囲の3度熱傷 (deep burn) であればさっさとデブリードマンして植皮するか,培養皮膚か同種皮膚を移植するのが一番だろうし,狭い範囲だったらデブリードマン後に湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)すれば,かなり速く創閉鎖させる事ができる。また1度熱傷であれば冷やしておけば何とかなる。

 問題は2度熱傷(superficial dermal burn or deep dermal burn),すなわち「水疱ができている」熱傷だ。教科書をみるといまだに「消毒して軟膏,その上はガーゼ」が主流のようだ。書き手によって違っているのは軟膏の選択であり,それぞれこだわりというか,特定の軟膏に対する愛着が感じられる書き方をしている。


 もちろん当然の事ながら,こういう治療は間違っているのは言うまでもない。いかに高価で優れた軟膏を使っていようと,その上がガーゼ(もちろんソフラチュール,シリコンガーゼも同じだよ)では,「速く治って,しかも痛くない」治療は望むべくもなく,湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)と比べれば,「なかなか治らず,しかも痛い」治療でしかない。創傷を治そうというのなら,創面を密封閉鎖するしか選択肢はないはずだ。

 問題は何で閉鎖するか。創傷被覆材はもちろん熱傷創面でも極めて効果的だが,広範囲熱傷で使うにはやはり値段の問題があるし,第一,熱傷治療として保険請求しても間違いなくはねられるはずだ。現在のところ,熱傷に問題なく使用できる被覆材としてはベスキチンくらいのものだろう。


 それでは,湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)の理論を踏まえて,広範囲の2度熱傷を被覆する材料として望ましい性質,特性とはどんなものだろうか? 私なりに考える次の4項目になる。これを満たすのが理想的な熱傷治療材料だ。

  1. 創を密封閉鎖できる事
  2. 値段が安い事
  3. 浸出液を吸収してくれる事
  4. 取り扱いが簡単な事

 こう考えると「ラップ療法」の家庭調理用ラップが一番ではないか,という結論になる。上記の1,2,4は軽々クリアしている。浸出液のコントロールはラップだけでは難しいが,紙オムツと組み合わせれば十分だろう。要するに,ラップで患部をぐるぐる巻きにして,その上から紙オムツをあてるだけ。恐らくラップしてちょっと時間が経てば,創面の痛みは全くなくなるだろうし,創処置の時だって痛みはないはずだ。もちろん,創は急速に上皮化するだろう。

 さらに,消毒も廃止し,創面はシャワーかお風呂できれいに洗うだけにする。当然,軟膏も使う必要がない。


 熱傷は非常に痛い,というのが医学的通説・常識だが,実はこれは消毒薬による痛みであったり,ガーゼがあたっているための痛みだったのではないかと思われる。何しろ,爪を剥がしても密封閉鎖すると翌日には全く痛くなくなるのだ。熱傷だけがいつまでも痛い,というのは理屈に合わない

 私はいつも思うのだけれど,熱傷治療を専門にされている先生方は皆,患者さんの苦痛,疼痛を「熱傷なんだから痛いのは当たり前」と初めから考えていらっしゃるのではないだろうか。痛いのは当たり前だから,我慢させるか,鎮痛剤でも使っておけ,という発想になる。これっておかしくないか? 彼らはなんで,疼痛のない治療をしようと思わないんだろう?


 例えば○○大学の疾患別患者の標準看護計画の広範囲熱傷患者の標準看護計画を見てみよう。

W度熱傷は無痛であるが、U、V度は真皮までの障害であり、強い痛みがある。またガーゼ交換やデブリードメント、植皮などの処置が連日行われるため、苦痛を伴う。疼痛の程度、部位、持続時間を把握し、医師の指示により鎮痛剤、鎮静剤が投与されるが、処置が手早くスムーズに行われるように必要物品の準備や手順を整えておくことも重要である。
と書かれている。

 つまりこれを読む限り,「熱傷に痛みは付き物なのだからあきらめて,我慢してもらうか,薬で眠らせるしかないよ」という内容であり,はっきり言って,最初から痛みに関してはあきらめているとしか思えない。

 「熱傷は痛いものだ」という前提は間違っているんじゃないだろうか。要するに現在の治療法が間違っているから痛いのだ。他の皮膚欠損創が湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)で痛くなく治療できるのに,なぜ熱傷だけが痛いままなのだろうか。
 やはりこれは,現在スタンダードとされている熱傷の局所治療が根本から間違っているのだと思う。


 というような次第で「熱傷のラップ療法」を提言しちゃうのだが,実際にこういう治療を広めようとすると,「医療材料でない家庭用ラップを患者に使うのはいかがなものか」と文句を言う医者が必ずいるだろうから,ここは一つ,どこかのメーカーが「熱傷治療のための新医療材料」と称して,接着剤の付いていないフィルム材(接着剤があると,創周囲の不安定な皮膚も一緒に剥がれてしまうから)を作ってくれないだろうか。既存のテガダーム,オプサイトの「接着剤抜き」でも構わないぞ。これなら医療材料として既に認可されているから,簡単じゃないだろうか(・・・違うかもしれないけど)

 また紙オムツに文句を付ける連中もいるかもしれないから,このフィルムと組み合わせて使うポリマー素材の柔軟な吸収材も一緒に作っちゃおう。自由な大きさに切れるようになっていたらすごく使いやすいだろう(褥瘡治療にも使いやすいぞ,きっと)


 でもって,頭の軟らかい医者のいる熱傷センターで使ってもらうのだ。10例も使えば,治療上の有用性を示す結果はすぐに得られるだろう。四肢熱傷だったら,片側はラップにして,もう片方は従来からの局所治療にすれば,比較もできる。そして多分,手術になる症例も減るだろう。

 これは間違いなく,次世代の熱傷治療のスタンダードになると思うぞ。しかも医療費削減というお上の方針とも合致するしね。

 どっかのメーカー,作ってみない。アイディア代は不要だよ。

(2002/10/26)

左側にフレームが表示されない場合は,ここをクリックしてください