婦人科手術後の傷が開いた!


 「○○手術の傷が治らない」というのを書いたところ,患者さんご自身と思われる方から「アキレス腱の手術について書いていましたが,婦人科の手術の後も同じでしょうか?」という切実な問い合わせも時々いただくようになった。
 もちろん原理的には全て同じメカニズムで傷が治らなかったり,抜糸後に傷が開くのであるが,患者さん(=素人)が自分の状態を把握しやすいように,あえて婦人科手術についても例を挙げて取り上げることにする(・・・ってことはもちろん,これまでの説明を十分理解している玄人の皆さん方は,あえて読む必要はないってことだね)


 症例は40歳の女性。巨大な子宮筋腫(・・・だったと記憶している)の手術を受けた。術後1週間目に抜糸されたが,その頃から浸出液が出るようになり,次第に傷が開いてきたため,3日目に当科を紹介された。なお患者さんであるが,かなりの肥満であった。

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  1. 初診時の状態。創の全長に渡って傷が開いている部分があったり,開きそうな部分が見られる。婦人科では毎日消毒し,抜糸後も消毒を続けていた(写真を見ると何を使っていたか,一目瞭然ですな)
    膿が出ているわけでもなく,周囲の皮膚に発赤もなく,深部の縫合糸が原因とも思われなかったため,創縁の血流不全が原因での創離開と診断。創周囲と創面の消毒薬を洗い流した後,下方(尾側)の部分にはハイドロジェルを創に充填し,フィルムドレッシングで密封し,上方(頭側)はハイドロコロイドで密封した。

  2. 7日後の状態。写真下方(尾側)の創は緊張で広がって一つの大きな創になったが,良好な肉芽形成が見られている。上方(頭側)の創はほとんど上皮化した。尾側の創もハイドロコロイドのみとした。

  3. 14日目の状態。肉芽表面に上皮化が進行しているのがわかる。

  4. 21日目の状態。ほぼ完全に上皮化した。

  5. 34日目の状態。瘢痕も発赤を残すのみで安定している。


 このような症例に,傷の治療と称して「毎日消毒し,ガーゼをあてて」いたら傷はより大きく,深くなっただろうと思われる。そのような処置をしていたら,21日で治ることは絶対にないと断言しよう。

 では,傷の再縫合という手段はあるか? これは少々,判断に苦しむところだ。写真1の状態を見ると,抜糸をした手術創は全長に渡って不安定であるし,この時点で再縫合をすれば,恐らく全長に渡って縫合し直すことになるだろう。
 写真2の状態で再縫合する手はあるか? 多分再縫合するのなら,このタイミングだろう。ただ,患者がかなりの肥満であることを考えると,私なら躊躇してしまうな。しかも,その7日後にはほとんど上皮化していることから考えても,再縫合がうまくいった場合と治療期間は全く変わらない事になる。


 最後に付け加えると,肥満の人は傷が開きやすい(あと,ヘビースモーカーも!)。これはもともと脂肪層は血流が乏しいのに(だから皮膚はなんともないのに脂肪層だけ壊死したりすることがある),肥満で脂肪層が厚くなるとさらに脂肪層単位体積あたりの血流量は少なくなるためだろう。
 もしも,肥満した人の手術をすることになったら,主治医は一言「太っている人の場合,手術後に傷の治りが悪いことがありますよ」と,事前に説明しておいた方がいいだろう。

(2002/10/22)

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