湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法):患者さんへの説明の仕方


 「どうしてもこれまでの治療と180度違うため、患者さんの中には消毒薬の有害性を説明してもどうしても理解していただけない方もいらっしゃいました。何かいい説明方法ってありますか?」というメールも時々いただきますので,私の説得法を伝授します。

 「消毒薬による組織障害性」とか「創傷治癒を阻害するとか」といくら説明しても,患者さんは理解してくれません。このように説明しても,患者さんにとって何がメリットであり,何がデメリットなのかがわからないからです
 湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)にはさまざまなメリットがありますが,患者さんが真っ先に実感するのは「痛くないこと」です。つまり,「痛くないこと」を患者さんに自覚してもらうことが,湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)の凄さを理解してもらう第一歩です。


 まず,受傷当日は患者さんもびっくりしていますから,どさくさにまぎれて「消毒なし,被覆材で密封」します。患者さんは「新しいガーゼだな」くらいにしか思わないはずです。
 勝負は翌日です。次の日に外来に来たら,「昨日は痛かった?」と聞いてください。ほぼ間違いなく,「痛くなかった」という答えが返ってくるはずです。この「痛くなかった」を足がかりに,治療法を説明します。


 「痛くないの,不思議でしょう? 怪我をしたのに痛くないって経験,ありますか? なぜ痛くないか,その理由,知りたい?」と誘導します。そこで興味を持ってくれそうだったら,
 「痛くなかったのは空気に触れないようにしたからなんですよ。空気を遮断する最新の治療材料を使ったから(ここにちょっと,嘘が含まれてるよな),痛くなかったんですね。でも,空気に触れさせたりガーゼをあてたりすると,傷の表面にカサブタができますよね。するとこのカサブタの下に膿が溜まり,それで痛くなっていたんですよ(・・・と,ちょっと問題のある説明だけどさ)。しかも痛いだけじゃなくって,傷の治りも悪くなっていたのです」。
 そして,追い討ちをかけるように

 「消毒すると,傷にしみるでしょう? 痛かったでしょう? あれは傷口を痛めつけていたから痛かったの。しかも消毒すると,キズが治るのが遅くなるのですよ。痛くて治らない方が良かったら消毒するけど,どうしますか?」ときめの一言!

 ここまで言われて,「消毒してください」という患者さんは一人もいないはずです。


 そして手の外傷の患者さんだったら「一日手を洗っていないから,気持ち悪いんじゃないですか? 実は,洗ってもいいのです。私も最近知ってびっくりしたんですが(とまた嘘をつく)傷を濡らしちゃいけない,というのはどうも,日本だけの迷信らしいですよ。外国では洗うのが普通なんですよ(と「外国」を持ち出すと説得力がある)。絶対に痛くないから,洗ってみませんか。気持ちいいですし,洗った方が早く治りますよ」と水道に誘導。

 まず,キズとは関係のない部分の汚れを洗い落とし,キズの部分に少しずつ水をかけます。恐らくそんなに痛くないはずです。ここでさらに「痛くないでしょう? これが最新理論に基づく(とまた嘘をつく)治療の威力です」と説明。


 忙しい外来でそこまで時間をかけて説明できないよ,と言われる先生方もいらっしゃると思いますが,勝負は受傷翌日です。ここで納得してもらえれば,その後の治療は順調に進みます。このタイミングを逃してはいけません。
 恐らく,治療が終了する頃には,「このピンクのスポンジ(あるいは「皮膚になじむ絆創膏」)ってすごいんですねぇ。薬局で売っていないんですか? だったらお金を払いますから,一枚余分に下さいよ。子供が怪我したときにこれがあったら,安心ですから」なんて言い出す患者さんも出てくるはずです(私の外来には,こういう患者さんがすごく多い)

(2002/10/06)

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