「学会発表などのための写真を撮るコツについて教えて欲しい」というメールをいただいた。これについてもちょっと書いてみることにする。
形成外科では毎日の診療の場で,本当によく写真を撮る。これは,術前術後の比較をする唯一のデータが「写真」しかないからだ。つまり,脳外科にとっての脳CT,整形外科にとっての骨のエックス線写真,内科にとっての血液検査データと同じ位置にあるのが写真なのである。
そのため,写真の撮り方には細心の注意を払うように教えられる(大抵は入局時に)。撮った写真が使い物にならなければ,手術(治療)のデータそのものが失われてしまうからだ。
まずカメラの選択。学会発表,論文投稿を考えるのであれば,やはり一眼レフタイプのカメラがベスト。銀塩写真の解像度は2000万画素程度といわれているが,一方,デジカメは最高機種でも500〜600万画素程度であり,この点ではまだデジカメは遠く及ばない。昔ながらの銀塩写真であるが,その解像度はやはりすごいものがある。
ストロボは当然,リング・ストロボが最適。特に形成や皮膚科のように接写(マクロ)で撮る場合は,ストロボの影を作らないリング・ストロボは必須アイテムである。
また接写をするのであれば当然,マクロレンズも必須で,50ミリ,あるいは100ミリマクロ・レンズも揃えておく。
スライドにするのであればフィルムはリバーサル。普通のフィルムを現像するネガフィルム(色が反転している)になるが,リバーサル・フィルムで写すと見たままの色で現像され,そのままスライドとして使える。
ただ,リバーサル・フィルムはちょっと値段が張る。
と,ここまでは銀塩写真の話。
しかし,今カメラと言えばデジカメである。最近のデジカメの機能向上は目を見張るばかりで,胸ポケットにスッポリ入るものでも,きれいな風景が撮影できたりする。しかし普及価格帯(2〜6万円くらいかな?)のデジカメで,きれいな症例写真を撮影するには実はちょっと工夫が必要である。
もちろん,プロ仕様の一眼レフタイプのデジカメもあり,これにマクロレンズとリングストロボをつければ非常に美しく自然な色調の画像が撮影できるが,値段もカメラ本体だけで15万円以上(機種によっては50万円を超える)と「プロ仕様」なので,これはプロにお任せしましょう。
まず,デジカメの選択で最も気になるのが画素数だが,とりあえず200万画素以上であれば,学会発表のスライドには十分使える。インターネットでパソコン画面に表示する程度であれば,もちろん130万画素でも十分。
皮膚の状態を写すのであれば接写,つまりマクロモードは絶対に必要だ。症例写真,特に皮膚の状態を記録するのであれば,10cmくらいまで近寄れなければ問題外だろう。
現在市販されているデジカメの多くにはマクロ機能は搭載されているが,この機能があることを知らずに「このデジカメ,接写するとぼやけるんだよね」と文句を言っている人に時々いる。
次にストロボの問題。普通,デジカメの内蔵ストロボはレンズの上にある。人物のバストアップを撮影するのには全く問題ないが,接写する場合はこのストロボの位置はとても困ってしまう。顔面の外傷を接写しようとしてストロボを焚くと,突出した部分(鼻や耳など)による陰が写ってしまうのだ。これは症例の記録写真としては大きな減点対象となる。
これを回避するためには,光学ズームを効かせ,その上でストロボを使うのがかなり有効だ(下の例を参照)。
もちろん,このようにズーム撮影すると「手ぶれ」が起こりやすいという別の問題も生じるが,これは「手ぶれしないように注意する」しかないだろう。
なお,上記に関連して,光学ズームも症例撮影には絶対必要な機能だろう。間違っても「デジタル3倍ズーム」の機種を選んではいけない。
また,皮膚をデジカメでストロボを焚いて接写すると,変に白っぽい画像になる事があるが(いわゆる「白飛び」),上記のように「ズームを効かせてちょっと離れてストロボ撮影」すると,この白飛びもかなり防ぐ事ができる。
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次に,撮影の際の一般的注意点(もちろん,銀塩カメラにも共通)。
まず,余計なものが写らないようにする事。具体的には,撮影する場合は,背景に緑や青の布(紙)を大きく広げて,後ろの有象無象が写らないようにする。上記の写真3,4がその例。
ちなみに,形成外科の専門雑誌に投稿する際,単色の背景なしに撮影された写真は問題外,というのが暗黙の了解になっている。
同様の理由で,キズ周囲の皮膚の汚れ(血液など)もなるべくきれいに拭きとってから撮影した方がいい。
次に,画面の水平・垂直に撮影部位の「軸」をきちんと合わせる事。顔面を写す時は,両眼や左右の眉毛を画面の水平に,胸部や腹部では脊柱を垂直に,上腕・前腕・大腿・下腿ではそれぞれの骨を水平(あるいは垂直)にする。また手や足の場合は第3中手骨(中足骨)が軸になる。
この「軸」をきちんとした後に,「創面がレンズに平行になる」ように撮影する。
さらに,部位によって画角を揃える事も効果的。「頬の場合はこのアングル,親指の場合はこの角度から」と自分なりに決めておいた方がいい。これが一定していないと,経過が追えない写真になってしまう。
また,拡大写真にすると部位がわかりにくい部位では,全体像と拡大像の両方を撮っておいた方がいい。
ちなみにレントゲンやCTのフィルムをスライドにする場合も,スキャナで取り込むのがベストだが,実はこれらのフィルムをシャウカステンに並べ,ストロボを炊かずにデジカメで撮影すると,結構きれいな画像が得られる。学会発表程度であれば,これで十分だろう。
(2002/09/27)