痛くない指趾の局所麻酔法
足趾,手指の麻酔,特に指の根元で行うブロックは,すごく痛いというのが相場である。しかし,実は痛くなく麻酔注射することが可能なのだ。
前回,陥入爪の治療のところで「痛くなく麻酔をすることは可能」と書いたが,その具体的な方法についての問い合わせがあったので,私の秘術(ってほどのもんじゃないけどさ)を大公開。どんな教科書にもここまでは書いてないはずだ。
例によって写真で説明。それにしても注射の写真っていうのも痛そうに見えるもんですな。
使用している麻酔薬は1%キシロカイン(エピネフリンの入っていないもの)10ml,注射の針は26Gとかなり細め。ゆっくりと注射するのがコツです。
- 足の親指(医学的には第1趾というのが正しい)の神経は大体ここらを通っている。汚い足だな,いったい誰の足なんだ,という詮索はしないように。
それはともかくとして,ここに神経が走っているのだから,という理由で足の裏から注射されると,ムチャクチャ痛い。これは当たり前。
- まず,指又(第1,2趾間)の足の甲側から局所麻酔。ゆっくりと1mlを浸潤させる。
- ここで一旦針を抜き,1センチほど足底に近い部位(もちろんここは麻酔されている)を刺し,ここで3mlほど浸潤させる(一応動脈に入っていないことは確認してね)。これで家側の神経がブロックされる。深さは皮下5mmくらいかな?
- 次に,針はそのままにして針を深く刺す。狙うのは外側の神経。第1趾の場合,10mmくらい刺せばこの神経のそばに到達する。左手の指で針の先を確かめてから,ここでさらに3mlを注入。これで2本の神経が完全にブロックされる。
- さらに駄目押しで,指の背側の根元に残りのキシロカインを注射。これで神経背側枝をブロック。全て注射を終えてから,3分以上置くのも重要。第1趾の場合,完全に無痛になるのには,結構時間がかかるからだ。
この方法の基本は,「最初は痛くないところから刺すこと」,「麻酔が効いた部位から刺すこと」,「ゆっくり浸潤させること」,「針はできるだけ細いものを選ぶこと」,とこれだけだ。
注射の痛みは主に2つの要因からなっているとされる。
- 皮膚を刺される痛み
- 組織内に薬液が拡がる痛み
最初の「皮膚を刺される痛み」を少なくするには3つの方法がある。
- 針をできるだけ細くすること
- 刺すと決めたら,一気に刺すこと
- 鈍感な部位から刺すこ
次の「組織内を広がる痛み」を少なくする方法を列挙すると,次のようになる。
- できるだけゆっくりと浸潤させる。
- 組織が拡がりやすい部位を選ぶ。
- 組織液との浸透圧の差が小さい麻酔薬を選ぶ。
足の裏側でなく,足の甲側から刺す理由は「2」だ。また,キシロカインを選ぶのは「3」の理由。
どうせ同じ局所麻酔をするなら,できるだけ痛くない方法を取るべきですよね。
(2002/09/20)
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