顔面外傷でマットレス縫合はしてはいけない!


 前項で「顔はマットレス縫合をしてはいけない」と書いたところ,それってどういう縫い方ですか? という非医療関係者からのメールをいただいたので,良い(?)写真が撮れたので,参考までに挙げておく。

 とある病院の救急外来で外科系医師が縫合し,翌日,形成外来を受診したもの。若い男性だったこともあり,直ちに抜糸し縫合し直した。


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  1. これがマットレス縫合! 模式図で書くと下図のようになる。糸が2回,傷の中を通るため,死腔(組織の隙間)ができにくく,創縁を合わせ易いため腹部や四肢の手術ではよく行われているが,この写真のように糸がきつく締められていると,糸の跡(糸が外に顔を出している部分)がしっかりと確実に残ってしまうという欠点がある。だから,顔面の縫合でこの縫合をすべきではない。
  2. 私が縫合し直した直後の状態。1と2での,縫っている糸の太さ,糸と糸の間隔など,素人目にもはっきりわかるよね。ま,一般外科と形成外科の違い,ってやつかな?
    ちなみにこの程度の縫合は,かけだしの形成外科医なら誰でもできます。
  3. 再縫合後,4日目に抜糸した状態。ま,こんなところですね。


 もしも不幸にして夜間や休日,顔面裂傷を受傷し,救急外来で上記の1のように縫合されたら,次の日は形成外科のある病院を受診した方がいいと思う。そのままでは確実に糸の跡が残ってしまうし,この糸の跡は自然に消えることがないからだ。
 形成外科医にとっても,この糸の跡(Suture Markという)が残ってしまってからそれを手術できれいにするのは結構大変なのである。


 ちなみに傷を縫合すると「何針縫ったのですか?」と必ず聞かれるが,これは全く無意味な質問。上記の例で言うと,同じ傷なのに,1では5針,2では9針となってしまう。要するに縫った糸の数は,傷の大きさの目安にはならないのである。
 たとえて言えば,距離を言うのに「100歩の距離」といわないのと同じ。同じ100歩でも身長2メートルの100歩と1歳児の100歩では距離は数倍違いますよね。それと同じです。

 じゃあ,何と聞けばいいのか? もちろん「何センチくらいの傷ですか」と尋ねればいいのである。

(2002/08/27)

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