頭皮がらみの裂挫傷のドレッシング
最近,質問が多いのが「頭髪の生え際の挫傷のドレッシング,あるいは頭皮挫傷のドレッシング」についての問い合わせ。応用問題としても面白い話題なので,まとめて書くことにする。
頭髪生え際付近の裂挫傷
- 傷の縫合後,挫傷部分よりほんのちょっと広めに髪の毛を切り,アルギン酸とフィルムドレッシングで密封するのがベスト。もちろん出血がなければ,薄目のハイドロコロイドも使いやすい。
- 「傷の縫合後」と断ったのは,傷を縫合する際,毛の生え際は重要な目印となるため,縫合前に剃毛するとこの目印がなくなり,変な位置で縫われたりするからだ。従って毛の生え際の剃毛はいかなる場合も御法度。同様の理由で,眉毛の剃毛は最もしてはいけない行為である。
- 下記の理由から,出血もなく,きちんと縫合できているのであれば,被覆材での密封は不要である。ドレッシングを使わなくてもきれいに治癒することが多いし,万一,傷跡が残ったとしても,頭皮に隠せるからだ。
従って,あまり神経質になることはないような気がする。
頭皮(頭髪内)の裂挫傷
- 頭皮(頭髪内)は最も傷跡が目立たない部位である。多少の瘢痕が残ったとしても,髪の毛の中に隠せるからだ(この理由から,形成外科では分層植皮の際の皮膚採取部として,頭皮がよく使われる)。
- 頭皮は非常に血流の良い組織であるため,頭皮の裂挫傷はよほどまずい治療をしない限り,極めて早期に治癒する。これらから,頭皮の裂挫傷に限り,「被覆材による密封」はそれほど必要でなく,ガーゼによるドレッシングでもほとんどトラブルは起きないと思う。
- 同様の理由で,創感染も極めて少ない。「髪の毛が傷の中に入ると感染する」という理由で頭髪を切ったり剃毛したりする人がいるが,私の15年以上の経験では,「創内の毛髪」が原因で創感染した例を見たことがない。
- 以上の理由から,新鮮外傷の縫合では,頭髪を切ったり剃毛する必要はないと,勝手に断言!
- どうしても被覆材を使うのであれば,ポリウレタン(ハイドロサイト)が最適と思われるが,どうせ髪の毛があって創面に密着できないため,使う意味はあまりないと思う。
- ガーゼの役割は「出血を吸い取る」ことだけであり,それ以上でもそれ以下でもない。従って,滅菌ガーゼである必要もない。
- ガーゼを絆創膏で頭髪に固定するのは,事実上不可能である。従って,頭皮縫合後のドレッシングとしては,大きなガーゼで頭全体を覆い,両側の耳介の前後で絆創膏固定し,レテラタイなどのネットを頭にかぶせる方法がいいようだ。
- ネットは一端の口を絆創膏で閉じた上で顔全体にかぶせ,絆創膏で眉毛部〜耳介付着部〜後頭結節を繋ぐラインを何度もぐるぐる巻きし,その後,余ったネットを頭頂部に向けて折り返す。下手に頭に包帯を巻くより強固で,しかもきわめて簡単である。
術後の洗髪について
- 前額部,頭部の縫合創は,縫合直後にシャンプーさせても,まったく問題は生じない。患者さんとしても血に汚れた髪の毛のまま帰らなくていいため,その場でシャンプーしてやるのは極めて好評。
- シャンプーは強力な界面活性剤であり,創面の細胞を傷害する可能性があるが,頭皮は血流がいいため,十分にシャンプーを洗い流せば,まったく影響はないと,勝手に断言する。
- 遅くとも,翌日に創を見て,出血,血腫がなければ,直ちに洗髪を許可してよい。
- 洗髪後は,ガーゼは不要である。前述のように「頭皮縫合後のガーゼの役割は出血を吸い取ること」であるためである。「傷は髪の毛に隠してね」で十分である。
(2002/06/11)
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