通常の外傷はきれいな裂傷ばかりでなく,創縁,あるいは創周囲の皮膚が挫滅されていたり皮膚欠損があったりすることが多い。この場合,いくらきれいに創を縫合しようとしても皮膚欠損が残ることになる。このような縫合創は被覆材の良い適応となる。
先日,「周囲に皮膚欠損がある縫合創を被覆材で閉鎖するとき,縫合糸も一緒に密封すると感染が起きませんか」という問い合わせもあったので,それについても触れることにする。
まずいつものように症例提示。
症例は男子高校生。修学旅行中に砂利道で転倒し,顔面に多発裂挫傷を受傷。旅行先の病院で縫合処置などを受けた後,地元の病院を受診するように言われ,受傷後2日目に当科受診。旅行先の病院では鼻翼部などを縫合し,前額部にはアルギン酸を貼付していたが,フィルムドレッシングで密封されていなかったため,アルギン酸が乾燥してしまって「痂皮様」になってしまい,これをはがす際,かなり痛かったようだ。
やはり,アルギン酸を使用する場合は,必ずフィルムドレッシングによる密封が必要である。
Fig.1 | Fig.2 | Fig.3 | Fig.4 | Fig.5 |
この例のように,創縁が挫滅されていてうまく縫合できない,あるいは皮膚欠損があって縫おうにも縫えない,という傷は案外多いと思う。こういう場合,無理して縫合する必要はないし,むしろ,無理やり縫合せずに被覆材で密封した方が,結果的に出来上がりはきれいになる。
縫合後の処置であるが,縫合翌日は必ず被覆材をはがして傷を観察し,異状がなければ(出血している,血腫を作っている,明らかな発赤がある・・・),直ちに創部を洗わせ(上記の例では石鹸で顔を洗わせた),また被覆材で密封。患者が治療法を理解してくれれば,自宅で患者自身に「洗顔→被覆材交換」をさせても,まったく問題は生じない。
用いる被覆材の種類であるが,出血している場合にはやはりアルギン酸がベスト(もちろん,フィルムドレッシングで必ず密封)。もちろん,出血がなければ薄めのハイドロコロイドも使いやすい(これ単独で使えるから)。
なお,きれいに縫合できたために縫合部分からの浸出液が少ない場合,ハイドロコロイドだと縫合糸にくっついてしまうため,剥がす時に痛みがあるかもしれない。こういう例では,アルギン酸やポリウレタンの方が使いやすいかもしれない。
ハイドロコロイドは上記のFig.3のように浸出液でゲル化すれば縫合糸にくっつかないため,ハイドロコロイドを剥がす時に痛くないようだ。
「縫合糸は異物なので感染源になるのではないか? それなのに密封してもいいのだろうか」という疑問も生じると思うが,縫合糸がモノフィラメントの糸であればまったく問題はない。
縫合糸を大きく二つに分けると「編み糸」と「モノフィラメント糸」になる。
この中で,感染源になる危険性が高いのは「編み糸」の方。どうも,繊維の間に細菌が入り込んでしまうと,貪食細胞が繊維の中に入り込めないため,細菌を排除できないためらしい。逆に「モノフィラメント糸」は表面がツルツルのものが多く,細菌がくっつきにくいのだろう(このため編み糸に比べると結紮がほどけやすい)。実際,縫合した絹糸の周囲が発赤することはよく目にするが,理由はこれにある。
ここで提示した例はナイロン糸で縫合しているため,縫合糸膿瘍の形成の危険性は小さいので,何の問題もなくハイドロコロイドでの湿潤療法(うるおい療法,閉鎖療法)を行った。
「無理やり縫合するより,うまく被覆材を使った方が,結果として傷はきれいになる」というのは外傷を扱う外科医にとっては,日常診療を非常に楽にしてくれると思うんだけど・・・。
(2002/06/07)