イソジンシュガーは有効なのか?


 イソジンシュガーについての問い合わせも多いので,この薬剤について私の考えを書いてみたい。


 現在,国内で最も多く使われている「褥瘡治療薬」といえば,言うまでもなくイソジン・シュガーであり,医療関係者,特に医師の間では「イソジンシュガー信仰」といえるほどこの薬剤の効果を信じておられる方も少なくないと思われる。

 なぜこれほどまでに使われているかというと,理由は次の二つだろう。


 しかし,「褥瘡といえばイソジンシュガー」「イソジンシュガーは褥瘡の特効薬」という知識は既に過去のものとなっていて,現在の褥瘡治療においてイソジンシュガーが勧められているのは,「浸出液の多い黒色期から黄色期にかけての時期のみ」となっていて,赤色期になったらイソジンシュガーは使わない,というのが褥瘡治療界の常識である。要するに,漫然と長期間使う薬剤ではないのである。

 実際,浸出液の少ない黄色期褥瘡にイソジンシュガーを使うと,ただでさえ少ない浸出液(もちろん,創傷治癒物質「細胞成長因子 Growth Factor」が豊富に含まれていますね)がイソジンシュガーの砂糖に吸収され,急速に黒色期褥瘡に逆戻りしてしまうのだ。いわば,「浸出液の少ない褥瘡」にイソジンシュガーは禁忌といってもいいくらいだ。

 赤色期褥瘡にイソジンシュガーを漫然と使っていると,せっかく上がってきた肉芽が白っぽい病的肉芽に変化し,上皮化も停止してしまう。これは恐らく,砂糖が浸出液を吸い取ってしまうためと,イソジンの組織障害性によるものだろう。

 従って,浸出液の少ない黄色期褥瘡,赤色期褥瘡においてイソジンシュガーは有害であるといえる。


 では「浸出液が多い黒色期から黄色期褥瘡」に対し,イソジンシュガーが最も有効な薬剤か,というとそうでもないのだ。この状態の褥瘡(つまり感染している褥瘡)には外科的デブリードマンがもっとも効果的であることは言うまでもないが,この時期に併用する薬剤なら,吸水性ポリマービーズを含むデブリサンの方が,はるかに効果的であろう。


 従って,最新の褥瘡治療の知識から言えば,イソジンシュガーは特別優れた治療効果があるわけでもなく,漫然と使っていると逆に害になってしまい,唯一のメリットは安価であるということだけであり,もうそろそろ,「20世紀には効果があると信じられて使われていた過去のクスリ」としていいのではないかと思う。


 このようなイソジンシュガーであるが,確かに出始めた頃(私が医者になりたての1980年代中頃)には,この薬剤は劇的に効果を発揮したのは事実である。なぜ,効果があったのかを今日的な目で検証すると,次のような理由が考えられる。

 すなわち,イソジンシュガーが褥瘡治療に有効だと行われた時期に,「感染している褥瘡にはデブリードマンと生理食塩水による洗浄を行う」という知識が普及し始めた時期が重なっただけのことではないだろうか。
 つまり,「イソジンシュガーを使わないのと,使うのを比較すると,イソジンシュガーの治療効果は明らかだ」という報告があったとしても,それはイソジンシュガー単独の効果でなく洗浄による効果もあったはずなのに,なぜかイソジンシュガー単独の治療効果とされてしまったのではないだろうか(このような論理のトリックは現在でも,強酸性水の治療効果についての論文に形を変えて,しばしば観察される

(2002/05/16)

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