胃瘻部の肉芽,難治性潰瘍


 胃瘻,膀胱瘻など皮膚から深部に管を通すことが多いが,この入口部に肉芽ができていつまでも乾かなかったり,周囲の皮膚に発赤を伴った皮膚炎が起こることが時々(?)ある。そして肉芽からの浸出液を細菌培養するとたいていの場合,MRSAが検出されるもんだから,「MRSAによる院内感染のため,傷が治らない」と診断され,イソジンなどで毎日消毒し,イソジンゲルなどを塗布し,抗生剤投与が行われたりする。
 また肉芽の周囲の皮膚には発赤を伴った糜爛があったりすると,ガーゼ交換のたびに出血することになる。

 もちろん,これは「感染しているから・・・」というところに根本的勘違いがある。「MRSAがいるから感染している」のでなく「傷が治らないからMRSAが棲みついた」と考えるべきである。傷が治ればMRSAは住処を失って消えてしまう運命にある。要するに,放っておけばいいのである。
 また周囲の皮膚の発赤は感染によるものでなく,イソジンなどの消毒薬による接触性皮膚炎でしょうね。


 ・・・というわけで,治療例の写真(安いデジカメで接写すると,このように「白とび」が起きます。気をつけましょう)

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  1. 初診時の状態。胃瘻入口部に肉芽形成があり,周囲皮膚には発赤が認めらる。チューブは絹糸で縫合され,肉芽はまさにこの縫合部を中心に形成されていた。
    病棟では毎日,イソジンで消毒し,イソジンゲルを塗布し,滅菌ガーゼで覆っていたそうだ。
  2. まず絹糸を抜糸し,入口部からちょっと離れた部位にナイロン糸で縫合し直し。肉芽は切除し,出血を抑えるためにアルギン酸塩で被覆。これはその翌日の状態だが,すでに肉芽はかなり小さくなっているのがわかる。
    また,患者がシャワーを浴びる時は胃瘻部も石鹸をつけて洗い,その後,十分に流すように指導。もちろん,消毒は絶対に禁止!
    また入口部は翌日からはポリウレタンでの被覆に変更。
  3. 1週間目の状態。肉芽はなくなり,発赤も軽快している。この状態になると,ガーゼによる被覆に戻しても安心。


 この症例にはいくつかのポイントがある。
 まず,絹糸で縫合している点。絹糸と感染については以前も書いたが,皮膚を縫合して1週間以上置くと,高率に縫合し膿瘍を合併する。これは皮膚はもともと,常在菌がいる環境であり,その常在菌が絹糸(多数の細い繊維が撚り合わさって作られている)の内部に入り込むためだろうと思う。こう考えると,少なくとも胃瘻入口部などの縫合固定には不向きの素材ではないかと考えている。

 次に消毒。消毒の有害さ,無意味さについてはこのサイトで嫌というほど書いてきたが,いくら書いても書き足りないくらいだ。この症例に限らず,イソジン消毒による皮膚炎から糜爛を生じる例が少なくない。
 ところがこれに気がつかないと,「培養で細菌が検出された」→「感染で皮膚炎が起きた」→「細菌除去のためには消毒!」→「さらに糜爛が悪化」→「もっと強力に消毒」というデフレスパイラルならぬ「消毒・糜爛スパイラル」に陥る可能性が強い。「医療行為」をすればするほど状態を悪化させるよい見本である。

 また,入浴が制限されることも多いと思うが,これも私の考えではナンセンス。胃瘻の先は胃袋である。口から飲んだ水が真っ先に入るところである。ならば,飲める水であれば胃瘻から入ろうと,口から入ろうと,本質的に差はない。少なくともシャワーの水なら飲んでも大丈夫。安心して,ガンガン洗いましょう。

 洗浄に石鹸を使うか使わないか。石鹸は本質的に界面活性剤であり,皮膚にも創面にも悪影響を与えるが,十分に流せば問題ないと考えている。胃瘻周囲の皮膚の垢を洗い落とさないと不潔でたまらないからだ。垢だらけの皮膚なのに,傷だけ清潔に保てるはずがないのに,「(本当は垢だらけの皮膚なのに)消毒をしているから清潔」と信じ込んでいる医療関係者が少なくないが,これも私には理解できない。。

(2002/04/02)

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