創傷治療,教科書やマニュアルではどう書かれておるか?


 さて,最近出版された教科書は研修医マニュアルでは,創傷治療はどう書かれているのだろうか? とりあえず,私が勤務している病院の医局,救急室に転がっていた本の該当部分を抜き出してみた。


外科治療 2001増刊「実践 外科基本手技アトラス」


  1. これは「外科治療」という外科系の雑誌の増刊号で,外科系の治療手技について網羅的に書かれたもの。
  2. 全般的に結構正しい知識が書かれているようだ(共著のため著者によって知識の差はみられるが・・・)。特に「新鮮創」「感染層」の治療では積極的に「創の洗浄」が提唱されている。
  3. また消毒の害についてもきちんと書かれているが,「組織障害性があるから,薄めて使いましょうね」という調子になっているのは中途半端。消毒薬を薄めると「殺菌力はないが,組織障害性は保っている」状態になるからだ。つまり,この「薄めた消毒薬で・・・」は一見,正しいように見えるが,実は無意味ですね。
  4. 開放創では創部を湿潤に保つ」というのも理論的に正しい。ただ,「濡れガーゼ」の表面を何で覆うのかとか,実際に運用しようとすると,疑問が生じてくるかもしれない。
  5. ただ「消毒をしてもいいがその後,洗い流せばよい」という書き方であるが,私みたいなヘソ曲がりからは「洗い流すのなら,最初から消毒を使う必要がないんじゃないの?」という突っ込みが来るぞ!


図解救急・応急処置ガイド(文光堂) 2000年


  1. 「挫傷」の項目は洗浄を行うこと,洗浄液に消毒薬を使わないこととあるのは正しい。
  2. ただその後の「過酸化水素水を加えると効果的」というのはどうだろうか? これにだって「組織への毒性」があると思うんだけど・・・。
  3. 「小外科法」の消毒法は,読み方によっては「ポピドンヨード(イソジン)は組織障害性があるので創内部には使わないようにするが,その他の消毒薬は使ってもいいのかな」という疑問が生じるような気がする。ここはきちんと,「どんな消毒薬であっても創内に用いない」と明記すべきでしょう。


今日の治療指針1998


  1. この「今日の治療指針」「今日の診断指針」は研修医が皆購入し,どんな病院の病棟にも必ず組になって置かれている有名な本ですね。
  2. 毎年,更新され,しかも執筆者が変わるたびに「指針」が一変することでも有名な本。
  3. で,「創処置」に関しては全く間違いですね。何の屈託もなく「傷は消毒」すると書かれています。この項目に限れば,昔ながらの間違った知識に基づいて書かれています。


消化器外科 術前・術後管理マニュアル (消化器外科 Vol.21, No.5, April, 1998)


  1. これも外科系の雑誌の増刊号。
  2. この項目を書いている医師は,創傷治癒についての知識を十分持っている。特に「一時治癒での表皮化」の時期から「3日以降の創処置は必要ない」と看破しているのは見事。実に素晴らしいと思います。
  3. 「創閉鎖の直前の創面の消毒」の有害性についても,きちんと明記しているし,湿潤環境での治癒過程についても言及されている。
  4. この執筆者が勤務されている外科病棟では,「傷を乾かさない」「傷を消毒しない」治療が実践されていることと信じます。

(2002/01/21)

左側にフレームが表示されない場合は,ここをクリックしてください