傷のテーピングのコツ


 前に「小児の顔面裂傷は縫合せずにテーピングで」と書いた。しかし,テーピングに際して,ちょっとしたコツがある。もちろん,私が経験から学んだものであり,これが絶対に正しいかといわれると全く自信はないが,実際に行う場合,これを意識しているかどうかで仕上がりが全く違ってくるのも事実なので,ここで大公開(・・・と言うほどのもんじゃないけどさ・・・)


 一言で言うと,下の図の場合,(A) から (B) にテーピングする,というだけのものね。たったこれだけ。でも,これがとても大事なの。


 なぜかというと,(B) から (A) の方向にテーピングすると,左図のように (A) の先端の皮膚が内側にめくれ込んでしまい(これを「内反」という)がちだからだ。
当然,皮膚が完全に合わさっていないわけで,皮膚が覆っていない (B) の部分が「遷延治癒」することになり,結果として幅広い傷跡が残ってしまう(・・・ま,それだって,下手に縫合された傷よりはきれいだけどね)

 この方法を別の言い方をすると「動いた部分から動いていない部分へ」ということになる。上図の場合で言うと,(A) が「動いた部分」,(B) が「動いていない部分」だ。


 鋭利な物体による裂傷を見ていると,刃が皮膚に対して垂直に入ることは滅多にない。ほとんどの場合,刃は皮膚に対し,斜めの角度で進入する。そのため,皮膚の切り口を見ると上図のように「斜め」に切れることがほとんどであり,片方が「薄く」,もう片方は「厚く」なる。
 この場合,上図の (A) は「刃で跳ね上げられた形」になるが,(B) は「元の位置から動いていない」ことになる。すなわち「移動した部位」と「移動しなかった部位」に分かれるわけだ。

 通常,(A)の先端部分は薄くフニャフニャしているため,先端は丸まっている(組織の張力のため,真皮側に丸まってしまう)
 そのため(A)を先にテーピングする時に(A)の先端の丸まっている部分を外側に引き出すと,皮膚の内反は起こりにくいことになる。
 逆に,(B)を先にテーピングすると,この「(A)の丸まり」は修正できず(事実上不可能でしょう),内反が残ってしまうことになる。

 「動いた部分から動かない部分へ」という原則の理論的根拠はここにある。


 さらにこの「動いた部分から動かない部分へ」というのは,外傷における皮膚縫合の原則でもある。裂傷を縫合する際,(A)と(B)のどちらから針をかけるかというと,これは絶対(A)からだ。(B)から針をかけてはいけない。

 縫合の際,(A)の「動いた方」に先に糸をかけ,その後(B)「動かない方」の対応する位置を探すはテクニカルに簡単だが,「動かない方」を先に決め,後から「動いた方」の位置を探して縫合するのは,実際は結構大変なのだ。
 そして,手技的に簡単な方が結果もいいのは言うまでもない。

 ここで私が述べた「動いた方から,動かない方に」という原則は,これまで,どんな外科の教科書にもマニュアルにも記載されていないものだが,実は手術(とりわけ,外傷の創縫合)において重要な原則だと思う。これを意識すると,創縫合が実に簡単にきれいにできるようになる。

 この「原則」,外科系の研修医の皆様,是非,試してみてください。「無原則」で縫合するより,とても簡単に,そして正確に縫合できるようになるはずです。

(2002/01/17)

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