ホクロのくりぬき法への応用


 ホクロの治療は市中病院の形成外科医にとって,もっとも日常的なものだろう。当然,治療を希望する患者さんの数も非常に多い。治療法としては,レーザー治療,切除法などさまざまあり,大きさや部位によって治療法が選択される。

 その中で,鼻のホクロや口唇のホクロで盛り上がっているものに対してよく行われる治療法に,「くりぬき法」というのがある。読んで字の如し,ホクロをメスや専用のパンチでくりぬき(もちろん,局所麻酔をしてね),くりぬいた後は自然にお肉(正確に言うと肉芽組織)が盛り上がるのを待ち,皮膚の再生を待つというものだ。
 なお,このあたりの治癒メカニズムは,「深い潰瘍の治り方」で説明したとおりである。


 一般には,ホクロをくりぬいた後,止血を十分にして(ホクロからは時に,半端じゃないくらい出血するので結構大変),軟膏とガーゼなどで治療するのが普通と思われるが,ここで幾つかの「創傷被覆材」をその特性に合わせて使ってみると,非常に治療が楽になる。もちろん,出来上がりもきれい。

 以下,実例を挙げて治療のポイントを説明する。患者は50歳の女性で,上口唇のホクロ。直径7ミリで盛り上がっているものだ。


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  1. 初診時の状態。ちょっと目立つホクロですね。
  2. これは「くりぬいた」直後の状態。くりぬくと,冗談にならないくらい出血して,止血に難渋することがありますが,ここで強力な止血作用を持ったアルギン酸塩を使用します。5センチ四方のものを半分くらい使うと,たいてい止血されます。5分くらい放置して除去し,残り半分のアルギン酸塩に替え,表面をフィルムドレッシングで密封。
  3. 次の日の状態。当然,陥凹していますが,出血はなく,内面はきれいな肉芽に覆われています。ここで顔を洗わせます。痛みは全くありません。
  4. ここで薄いハイドロコロイド(ここではデュオアクティブETを使用)を使います。10センチ四方のものを患者さんに渡し,洗顔後に切手大に切って創面を覆うように指導。
    ハイドロコロイドの創面に当たっている部分は融けてゲル化するため(写真を見るとわかると思います),このように中がブヨブヨになってきたら自分で交換するようにさせます。通常,最初の3日くらいは,一日2回くらい交換したほうが良いようです。
    なお,この「薄めのハイドロコロイド」は皮膚の色に非常によくマッチします。
  5. これは2日目の状態(4のハイドロコロイドを剥がした直後の状態)。前日の状態に比べ,陥凹が浅くなっているのがわかります。
  6. 13日目の状態。創は完全に上皮化しています。こうなるとハイドロコロイドの貼付は不要で,遮光に注意するように指導。
  7. 1ヶ月目の状態。傷跡の色がかなり白っぽくなってきました。
  8. 2ヶ月目の状態。よほど気をつけないとわかりませんよね。


 被覆材を使うメリットを列挙すると

  1. アルギン酸塩を使えば止血操作をする必要が一切ない。
  2. 薄めのハイドロコロイドを使うと,ほとんど目立たない。
  3. かなり大きなホクロであっても,肉芽で平坦になるまでが速く,それ以降も早期に上皮化が得られる。
  4. ハイドロコロイドは患者さんにとっても非常に使いやすく(何しろ,「剥がす」→「顔を洗う」→「新しいのを張る」だけですから・・・),治療法を理解できれば週に1回程度の通院で治療可能。
という事になるだろうか。


 なお,創傷被覆材を使うのであれば当然,「外傷性皮膚欠損」などの病名は必要になる。保険請求のポイントは,「手術した当日に請求」するのでなく,「手術翌日にこれらの病名をつけて材料費として請求」するとトラブルがないようだ。

 なおもちろん,全治療経過を通じて,「傷の消毒」は厳禁! 傷を速く治したくなかったら,使ってもいいけどね・・・。

(2002/01/09)

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