「風邪をひいているからお風呂は控えるように」と患者さんに説明しているお医者様,あるいは「先生,風邪をひいているから入浴はダメですよね」と確認を求めている患者さん,たくさんいると思います。病院でも一般家庭でもよく耳にしますよね。この医学的根拠って,一体あるんでしょうか?
どうも最近,これが気になってしょうがない。
なぜ,風邪をひいたら風呂に入っちゃいけないのだろうか? 考えられる理由を列挙すると
1番目の「体力消耗」説であるが長時間,熱い風呂に入っているのでもない限り,まず問題になることはないだろう。常識的に考えても,熱が出てベタベタのまま寝ているより,さっとお風呂に入って汗を流し,さっぱりした気分でグッスリ眠った方が体力の回復には効果的なはずだ。
2番目の「湯冷め」説であるが,これは部屋を暖かくするとか,入浴後,すぐにお布団にもぐりこむことで解決する。従って入浴を制限する理由としては極めて弱い。
3番目はいわゆる「安静神話」である。とにかくおとなしく寝ていれば病気が治る,病気には養生が一番という考え。これも多いに疑わしい。
手術の後にしろ,病気治療にしろ,過去の日本医療界ではこの「安静神話」がはびこっていて,そのため,かえって術後の回復を遅らせていたという事例に事欠かないからだ。最近ではそれが反省され,腹部手術などでも術後は早期にベッドから起こし,早期に歩行させるようになった。
常識的に考えても,余りの高熱で身動きできない場合なら,強制されなくてもベッドで安静にしているだろうが,そうでない軽い風邪だったら「安静」の強要はストレスになるばかりだろう。
4番目の「昔からそうしている」説は最も根強く,そして最も意味がない考え。医学的根拠もへったくれもない。
現実にはこういう考えが医学界に跋扈しているから,「昔から行われている(事を唯一の根拠にしている)間違った治療」が拡大再生産されて,次世代に伝えられていくんだろう。
で,風邪の時のお風呂はどうしたらいいか。
私の考えでは,入りたかったら入ればいいのである。入りたくなかったら入らなければいいのである。無理に入れる必要もないだろうし,無理に制限する必要もない。
あくまで患者さん本人が自分の体調と相談して決めればいいだけのことであり,わざわざ医者に判断を仰ぐまでもないことだと思う。
ちなみにこの「風邪をひいたらお風呂に入るな」というのは日本独自(?)の「常識」だったと思う。少なくとも,世界にはこういう「常識」はないようだ。
(2001/12/27)