ここ数年,私は顔面裂傷で受診した乳幼児の傷は,局所麻酔ではほとんど縫合していない。特に額や頬っぺたの傷では,2p以内であればまず絶対に縫合しない。縫合するのは,口唇とか鼻翼とか,眼瞼縁にかかるもの,あるいは頬部の半分以上に及ぶ裂傷など極めて小数だ(つまり,縫合に全身麻酔が必要なもののみ縫合している)。
なぜ縫合しないかというと,縫合するメリット,デメリットを勘案し,局所麻酔下で縫合するデメリットの方がはるかに多いと思っているからだ。
裂傷の治療はなにを目標にするかというと,まず,出血を止めること,次に傷をきれいに治すことだろう。
しかし,2番目の「傷をきれいに治す」のは,泣き喚いている乳幼児を局所麻酔で縫合した場合,ほとんど絶望的だ。子供は恐怖で泣き出し,消毒の痛みで暴れだし,注射を見てパニックに陥っている。こういう子供を押さえつけて縫合しているわけだ。これできれいに縫合出来たら奇跡である。
事実,私が勤めている病院の救急外来で,当直医が局所麻酔で縫合した患者さんの傷を次の日に見ると,創縁が合っていなかったり,皮膚が内反していたり,大きく糸がかけられていたり(バイトが大きい,と私たちは呼んでいる),無残なものだ。これでは確実に醜い傷が残ってしまう(ちなみにこういう場合私は,直ちに抜糸をしてテーピングするようにしている)。
で,私の方法であるが,
論より証拠,まずこの例をみて欲しい。
1 | 2 | 3 |
2歳の男児。眉毛直上の裂傷。創縁があまり開いていなかったため,アルギン酸で被覆し,フィルムドレッシングで密封した。もちろん,消毒は厳禁!
写真3は翌日の状態。中心部を除き,創は閉鎖しているし,出血もない。この後はアルギン酸での被覆を続けてもいいし,薄いハイドロコロイドでの密封に切り替えてもよい。ほとんど,3日後には完全に創は上皮化しているはずだ。
この例を見ても,縫合した場合に比べ,創は格段にきれいなはずである。もしもこれ以上にきれいにしようとしたら,形成外科医が全身麻酔下で縫合するしかない。もちろんその場合,入院も必要だ。
私の方法では,麻酔も要らないし,外来通院のみ,おまけに痛いことは一切していない。しかも出来上がりはきれいだ。
あなたの子供がこんな怪我を負ったら,どちらの方法を選択するだろうか?
あるいは,1歳半の女児の前額部裂傷。
1 | 2 | 3 | 4 |
この例を見てもわかるとおり,傷はほとんど「1本の線」になる。「縫合した傷」特有の「ムカデの足のような糸の跡」は全くない(・・・当然ですね,縫っていないのだから)。
私たち,形成外科では「傷をきれいにする」手術を行うが,「縫合後の縫合糸による跡」をきれいにするのは結構大変だったりする。
その点,このテーピング方式,あるいはアルギン酸塩方式では,たとえ傷跡が残ったとしても「太い線」になるだけで「ムカデの足」がないため,修正手術は非常に楽である。
この意味からも,傷を無理して縫合する意味は全くないと断言する。
さらに駄目押しで,3歳女児の上眼瞼裂傷。
1 | 2 | 3 |
写真3は少々(?)ピンぼけであるが,受傷後3日目の状態である。繰り返しになるが,泣き叫ぶ子供を押さえつけて縫合するより,数段きれいな出来上がりだと思うが,如何だろうか?
医者の意識には「裂傷は縫合しないと治らない」という「常識」が刷り込まれているように思う。だから,恐怖で暴れている子供を押さえつけて傷を消毒し,局所麻酔の注射をし,下手な手つきで(・・・失礼!)傷を縫合している。
しかし,これらの例で提示したように,よほどのことがない限り,縫合しなくても傷はきれいに治るし,治った跡だって,縫合した場合よりきれいなくらいだ。無理やり縫合して,子供に精神的トラウマを与えて,さらに出来上がりが醜いのなら,縫合するメリットは全くないはずだ。
なお,テーピングにはちょっとしたコツがあるので,これは後日,秘法(?)を公開する。
ついでに言うと,顔面の創は絶対に「マットレス縫合」してはいけない。禁忌,Contra-Indicationであると断言する。この縫合法は「最も確実に縫合糸の跡を残す」ものだ。
それこそ,漫画の「ブラック・ジャック」のような,あるいは漫画のヤーさんのような傷跡を残すための手術をするのであれば,マットレス縫合を選択してください。確実に,ブラック・ジャックのような傷跡を残せます。
(2001/12/24)