高齢者の表皮剥脱創の治療例


 「表皮剥脱」というのが病理学的に正しい病名かどうか自信がないが,他に表現しようがないのでこのままで行くことにする。
 下の例に示すように,老人によく見られるものだ。つまり,紙のように皮膚が薄くなった患者さんの皮膚が,わずかな外力(ちょっとぶつかった,とか,バンソウコウを剥がそうとしたら皮膚も一緒に,とか)で切れ,ペロリとはがれてしまった外傷だ。高齢者にはよく起こる外傷であり,しかも極めて治りにくい。

 こういう「表皮剥脱」だが,創傷被覆材での治療が極めて有効であり,あっけないほど簡単に治ってしまう。

 このタイプの外傷で最も使いやすいのがポリウレタン(ハイドロサイト)である。


 77歳の女性。転倒した際に受傷し,翌日,当科受診。皮弁状に皮膚が剥がれていたがかなり汚かったため,これを切除した後,治療。

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  1. 初診時の状態。表皮は完全に除去されている。創面,及び周囲皮膚を水道水で濡らしたガーゼで拭き,汚れを落とした後(しつこいようだが,消毒は厳禁!)
  2. ポリウレタンをあて
  3. バンソウコウ固定をせずに(周囲の皮膚が脆弱なため),直接包帯を巻き固定。
  4. 5日間そのまま開けずにおき,6日目にドレッシングを除去した状態。きれいに上皮化しているのがわかる。

 このように感染の危険性がまったくない創では,毎日ドレッシングを交換する必要はなく,4〜6日間放置してよい。
 また,周囲の皮膚が脆弱な場合,ポリウレタンを無理にバンソウコウ固定せずに直接包帯を巻くだけでも十分である。


 60歳男性(脳梗塞後の半身麻痺あり)。車椅子に移動する際,前腕外側を何かに引っ掛け,擦過傷となった。

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  1. 受診時の状態。
  2. 直接ポリウレタンをあて,この上から包帯固定。これから5日間,ドレッシングは交換していない。
  3. 6日目の状態。非常にきれいに治癒しているのがわかる。


 83歳女性。自宅で転倒し受傷。左前腕伸側に広範な皮膚剥脱を認めるが,皮膚欠損はなかった。

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  1. 初診時の状態。このような症例では,出血は圧迫ですぐに止まり,また皮膚欠損があるように見えるが,ほとんどの場合は,皮膚欠損はない。
    血腫を注意深く取り除き,皮膚表面を拭き,ピンセットで剥がれた皮膚を丁寧に延ばして元の位置に戻し,周囲皮膚とバンソウコウ(ステリストリップが最適なようだ)で固定し,さらに,ポリウレタンを当て,包帯固定する。
  2. 6日目の状態。剥がれた皮膚はきれいに生着している。また,どうしても延ばしきれずに,裂け目ができてしまっているところも,ポリウレタンの効果で上皮化しているのがわかる。
  3. 14日目の状態。「傷がどこにあったの?」状態といって差し支えないだろう。


 78歳男性の手背の裂傷。

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  1. 初診時の状態。縫合可能な部分は縫合したが,皮膚が非常に脆弱なため,創縁を引き寄せようとすると皮膚が裂けてしまう。こういう場合は無理しない方がよく,
  2. ポリウレタンを広くあてて,バンソウコウ固定せずに包帯で直接圧迫固定。
  3. 7日目の状態。皮膚欠損の部分も,ほぼ上皮化しているのがわかる。

 この症例のように,裂傷部の皮膚が脆弱な場合,無理に縫合せずに「開放創でもいいや。あとは被覆材の役目」くらいに思ったほうが,結果的にきれいに速く治癒する。


 なお,抗生剤の使用であるが,上記の例全てで全く投与していないか,投与しても経口剤で2日程度である。恐らく,抗生剤の投与は必要ないと考えている。

(2001/11/22)

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