創傷被覆材による外傷治療で,挫傷・擦過傷(すりむき傷)とともに指の外傷(特に指尖部損傷)で威力を発揮する。
日常診療の場では,皮膚欠損や皮膚の挫滅を伴う指尖部損傷(つまり指先の怪我)は非常に頻度の多い外傷だが,その治療に悩むことが多い。従来からの「消毒とガーゼ」ではなかなか治癒しないし,手術で治そうと思うとかなり専門的な知識と技量が必要だからだ。
その意味で,この「被覆材による治療」はこれらの問題を極めて簡単に解決するものだ。被覆材さえ用意してあれば,ただそれを傷口に乗せて密封するだけで,驚くほど速く傷は治癒し,手術などの操作が全く不要である。しかも,患者さんにとっては,全く痛みがないというメリットもある。
指尖部損傷を診療する機会の多い外科医,整形外科医の皆様,是非,この治療を日常診療に応用してみてください。
以下,実際の画像を交えて治療法を説明するが,このサイトでは「素人」の皆様が多数見ていると思われるため,余りに生々しいもの,余りに痛々しいもの,余りにショッキングなもの(指尖部切断など)は除いてあることを,あらかじめお断りしておく(指尖部切断の症例には,もっと驚異的な写真がいくらでもあります)。
まず,指尖部の皮膚欠損創。よく研いだ包丁で調理していて,指先も一緒に切ってしまった症例。救急外来などでは頻繁に遭遇する外傷です。
@ | A | B |
電動鋸で作業中,示指(人差し指)に直径2センチ以上の皮膚欠損創を受傷した症例です。一般的にはこのくらいの皮膚欠損であれば,皮膚移植術を考慮するのが「医学常識」でしょう。
@受傷時 | A3日目 | B10日目 | C19日目 | D30日目 | E37日目 |
創傷被覆材で自然上皮化させた創にケロイド・肥厚性瘢痕の発生が少ないことが報告されていますが,この症例を見るとそれが良くわかります。直径2センチ以上の大きな皮膚欠損にもかかわらず,瘢痕拘縮が見られないのは驚きです。
通常であれば,このくらいの皮膚欠損に対しては植皮術の適応とされるはずです。しかし,この症例を見ると,わざわざ植皮術を行うメリットが見えてきません。
植皮術を行った場合,移植皮膚が安定するまでに2〜3週間かかるのが普通で,この間,指を動かすことは厳禁(この部位に植皮するのであれば,ギプス固定が必須)。しかも,創部を濡らすなんてご法度でしょう。下手すると入院する羽目になります。おまけに,皮膚採取部に傷が残るというおまけつき!
しかし,この被覆材を使った治療では,30日で創が閉鎖し,この治療期間は植皮に比べ,1週間程度長いだけです。しかも,外来通院で治療していますし,創部は3日目から積極的に洗わせています。もちろん,入浴の際は,創部も一緒に入浴。さらに,ギプスなどの固定も不要で,患者さんには「痛くなければ,いくら指を動かしてもいいよ」と指導しています。つまり,患者さんにとって,日常生活は全く制限されていません。
すなわち,全ての面において,患者さんにとっては植皮術よりもメリットがあると思われます。
繰り返しになりますが,このような指尖部損傷,皮膚欠損を伴う指の外傷において,創傷被覆材による保存的治療は最も威力を発揮します。きわめて速い創治癒が得られるとともに,全経過を通じて「全く痛みがない」治療が可能です。
このような治療を前にすると,従来からの「消毒とガーゼ」は,いかにも野蛮な非科学的行為です。治療行為とすら呼べない,前近代的なものです。
(2001/11/10)