CVカテーテル管理について


 最近,中心静脈カテーテル(CVカテーテル)の局所の管理をめぐって,ガイドラインに基づいた方法が提唱されている。これらはかなり科学的なものに見えるが,更に一歩踏みこんでそれらを検討してみると,理論的に納得できない点が幾つか見えてくる。
 私は別にこれに関して実験をしたわけでも,深く研究したわけでもないが,日頃考えていることを少し書いてみたい。


 まず,私が考えているCVカテーテルの局所管理方法とは次のようなものだ。

  1. カテーテルを挿入する時は厳密な無菌操作を行い,マスクは必ず着用する。できればベッドサイドでなく,広い処置室で挿入する。
  2. カテーテル挿入後は,刺入部の消毒は不用。
  3. 三方活栓から薬剤を注入するときは,厳密な無菌操作を守る。
  4. 三方活栓のキャップは使い捨てとし,一度はずしたキャップはすぐに廃棄し,再使用しない。

 1, 3, 4についてはまぁ,問題ないだろうが,2で議論があるところだろう。なぜ,このような方法になったか,順を追って説明する。


 CVカテーテルによる感染 (catheter fever) で起炎菌を調べた論文を以前読んだことがある。現在,その論文コピーを失ってしまったため,雑誌名,タイトルなどを明記できないのが残念だが(オイオイ),その論文によると,起炎菌は二つにパターンに分かれていた刺入後3日くらいまでに発症する場合は表皮ブドウ球菌がほとんどだが,1週間くらいして発熱する場合は,緑膿菌やカンジダなどが多く,表皮ブドウ球菌はむしろ少数派だ,という結果だった。
 この菌種の違いは,個人的な経験からも納得できるものだった。確かに,時間が経ってから発症するカテーテル熱では,カテーテル尖端の培養で菌が検出される時,それは表皮ブドウ球菌以外だったと思う。

 このような研究が他にあるか調べていないが(・・・ここらがEBMとしてはちょっと弱いな),もしもこれが事実だとすると,感染ルートはどのようになっていると考えたら良いのだろうか?


 刺入直後の起炎菌が表皮ブドウ球菌だとすると,これはカテーテル挿入時に皮膚からもたらされたものだろう。それ以外にこの細菌が血管内に進入できる経路は無いからだ。つまり,カテーテルを挿入する時,針先に皮膚の表皮ブドウ球菌がくっつき,それを血管内に押し込んだとしか考えられない。

 この場合は単に,挿入時の手技的ミス,正確に言うと清潔操作のミスが原因である。とすれば,このようなタイプのカテーテル感染を防ぐには,カテーテルを入れる前に皮膚は十分に広く,しっかりと消毒する必要があるし(細菌の絶対数を減らすために),挿入する直前に入浴をさせて刺入予定部位を十分に洗い,皮膚を清潔にするのも効果的だろう。

 またどうせやるなら,挿入する時にマスクをかけて,唾が飛ばないようにするくらいの工夫はすべきだろう。勿論,ベッドサイドで入れるよりは十分に広い処置室などで入れた方が操作も楽だし,結果的に感染率を下げられるはずだ(ベッドサイドのカーテンなんか,いかにも汚そうである)

 またどうせ消毒するのなら,イソジンは自然乾燥させたほうが殺菌効果が残存する時間が長いといわれているので,イソジン消毒のあとは10分くらい放置して自然乾燥するのを待ち,そのあとでカテーテル挿入した方が確実と思われる。


 問題は1週間くらいして発熱するパターン。この場合は「表皮ブドウ球菌以外の細菌」が多い。ということは,これらの細菌はどこから進入したものだろうか? 皮膚(すなわちカテーテル刺入部の皮膚)から細菌が進入したのだとすると,起炎菌は皮膚常在菌である表皮ブドウ球菌でなければいけない。

 ところが起炎菌は「表皮ブドウ球菌以外」が多いのだ。これはつまり,これらの細菌は皮膚から進入したので無いことを示す。

 皮膚から進入したので無いとすると,どこから進入したのか?
 答えは「ルートの中から」。これしか考えられない。具体的に言うと,三方活栓を利用して薬液を注入する時や中心静脈圧を測定する時に,ここから菌が進入したはずだ。

 となると,この2番目のパターンのカテーテル感染を予防するためにはどうした良いのだろうか?

 答えは簡単で,CVカテーテルの三方活栓はなるべく使わないこと。使えば使うほど,感染の危険性は高まるはずだ。

 どうしても三方活栓を使わざるを得ない場合(現実的にはそういう場合が多いだろうな)「三方活栓のキャップは使い捨てにして一度はずしたキャップはすぐに捨て,新しいキャップにする」「操作の際にはマスクと手袋を着用」「作り置きの酒精綿は使わずに,一回ごとに作る」・・・などが必要になる。
 実際アメリカでは,三方活栓のキャップは少しでもはずしたらすぐに捨てることになっているらしいし,酒精綿も「1枚パック」になっていて,日本のように薬液缶に脱脂綿を詰め込んで朝作った酒精綿を,夕方までずっと使うようなことはしていないらしい。

 酒精綿であるが,最近日本でも少し話題になっていたが,作り置きしているものはアルコールが蒸発して殺菌力が低下し,またこのような酒精綿から細菌が検出されて問題になっている。酒精綿の殺菌力に対する信頼も,実は「思い込み」だったのではないだろうか。


 となると,カテーテルを挿入している皮膚を消毒するのは意味があるのだろうか? 皮膚からの感染はカテーテル挿入時には見られるものの,それ以降の時期ではむしろマイナーな感染ルートだからだ。
 皮膚の消毒は,カテーテル刺入時には厳密に行う必要はあるが,それ以降の時期の幹線を押さえるのであれば,皮膚の消毒をするよりも先に,三方活栓の使い方,管理法を変えるなどをすべきであろう。そしてそちらの方が遥かに効果的だろう。

 このように考えると,カテーテル刺入部を何で覆うかとか,何で消毒するかとか,入浴の際に何で覆うのがベストか,固定する糸の素材は,などはごく些細な問題であり,瑣末な問題であると考えられる。

 つまり,入浴の際,カテーテル刺入部を密封せずに一緒に洗っても問題は起きないと思われる(私はそうしています)。何しろ洗わない場合,カテーテル刺入部付近は垢が一杯たまっている! こんなところを消毒したところで,消毒薬なんてほとんど失活してしまうのではないだろうか(特にイソジンは)
 皮膚からの感染を心配するのなら,垢を落とすのがまず最初だと思う。垢だらけの皮膚で「清潔」も何もあったものではない。これが普通の感覚じゃないだろうか?

 「消毒だけしていて洗っていない皮膚」は実は汚いのである。こういうのを放置して,皮膚の消毒法をあれこれ論じても,全く的外れなのではないだろうか?

(2001/11/08)

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